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電動車の未来はEVかFCVか〜車両とインフラから未来を占う

電動車の未来はEVかFCVか〜車両とインフラから未来を占う

2019/11/19

水素を燃料とした燃料電池車(FCV)が東京モーターショーで登場した。現在、電動車としてはバッテリーEVとプラグインハイブリッドが注目を集める中、FCVについてはやや劣勢の様相だ。なぜFCVは劣勢なのか、ジャーナリストの佐藤耕一氏が解説する。

今年(2019年)の東京モーターショーでは二台のFCV(Fuel Cell Vehicle・燃料電池車)が登場した。一台目はトヨタのFCV「ミライ」の二代目となる「ミライ・コンセプト」。そしてもう一台は、プラグイン充電にも対応したメルセデス・ベンツのFCV「GLC F-CELL」だ。

メルセデス・ベンツ GLC F-CELL

FCVとは、水素(H2)と空気中の酸素(O2)を化学反応させた時に発生する電気を取り出して使う(いわゆる燃料電池)EVの一種で、有害なガスやCO2を排出せず、水(H2O)だけを排出するクリーンな電動車として注目されている。

水素の燃料電池という意味では、給湯器の「エネファーム」もすでに商用化されている。家庭用のガスから水素を抽出し、燃料電池で発電するものだ。FCVはこれに対し、水素そのものを注入し、車載のタンクに圧縮して貯蔵する形である。

現在のところ、電動車としてはBEV(バッテリーEV)とPHEV(プラグインハイブリッド)が注目を集めているが、FCVについてはやや劣勢だと言わざるを得ない。本稿では、なぜFCVが劣勢だと考えるのか、EVとFCVを比較しながら、メリット・デメリットを車両だけでなくインフラ面からも考察していきたい。

欧州で活躍するトヨタ「ミライ」

FCVは世界中のメーカーを合わせてもまだ片手で数えるほどしかモデル数がないが、そんな中でもトヨタのFCV「ミライ」は、日本国内だけでなく欧州でもFCVの代名詞としてよく知られる存在だ。例えば、産業界を挙げてカーボン・ニュートラルに取り組むフランス・パリでは、今年9月にミライのタクシーを500台納入したといったニュースもあった。

ミライが支持されているのは、やはりその実績からくる信頼性だろう。FCVとしては台数が出ており、普通にディーラーで買える(例えばホンダ「クラリティ FUEL CELL」はリースのみで、主な顧客は行政や法人)。また航続距離も650キロ(JC08モード)と長く使いやすい。

そのミライの新型が、今回の東京モーターショーで登場した「ミライ・コンセプト」だ。コンセプトという名前がついているが、2020年に発売を予定している市販前提のモデルである。現行モデルのある意味未来的な独特のスタイリングから一変して、ロングノーズ・ショートデッキのファストバックセダンという古典的なFRセダンの方程式に沿った、わかりやすくスポーティーなスタイリングとなった。それに伴い、駆動方式も後輪駆動に変更されている。

トヨタ ミライ・コンセプト

そして目玉は航続距離の上乗せだろう。現行型でも650kmという長足だが、新型はさらに3割上乗せされるとし、計算上は845kmになる。EVとしては最も航続距離の長いテスラ「モデルS」の100kWhバッテリー搭載モデルでも610キロであり、それを3割以上上回るミライ・コンセプトの高性能ぶりがわかるというものだ。

しかもFCVは充電ではなく水素を充填すればいいのだ。充填は数分で完了する。EVだと急速充電でも30分ほど充電して約8割程度。そういう意味ではFCVは使い勝手がいいということになる。(もちろん水素インフラの問題は避けて通れないが、これに関しては後述する)。

クルマとして不利なFCV

一方のEVについて。今年9月に開催されたフランクフルトモーターショーにおいて、各メーカーからEV専用のプラットフォームを持ったEVが登場した。これまでのエンジン車をベースとしたものではなく、EVならではの高いスペース効率を実現したもので、車体の大きさに対して車室やトランクがとても広くできている。

そういった目でミライ・コンセプトを見ると、いかにもスペース効率が低いことに気づくはずだ。FCVは構造上、大きな水素タンクと燃料電池スタックが必要であり、それらが乗員スペースを喰っているからだ。ミライ・コンセプトの全長は4,975mmとかなり大柄なクルマであるが、それにしてはリアシートのレッグルームに余裕がない(ちなみに同社の「アルファード」の全長は4,945mm)。リアシートの座面下および背中の部分に、大柄な水素タンクを背負っているからだろう。

もちろんコストも問題だ。燃料電池システムや水素タンクを車載しているということは、超低温から超高温の過酷な環境でも問題なく動き、ホコリや振動に耐え、そして万が一衝突事故があっても、大量の水素を超高圧で保持しながらも安全性を保たなければならない。そういった部品が安く済むはずはない。水素をクルマに積むということは、つまりそういうことだ。

水素インフラの課題

もうひとつの大きな課題である水素インフラについても述べておきたい。水素ステーションは現在、工場で生成した水素をステーションまで運び、貯蔵しておく「オフサイト型」、水素キャリアとしてLPガスなどを利用し、その場で水素に改質する「オンサイト型」などがなかば実験的に運用されているが、いずれもEV充電ステーションとは設置および運用コストが桁違いで、そのまま普及するとは考えにくい。インフラの普及イメージがつきにくいところが水素エネルギーの大きなハードルなのは間違いない。

この大きな課題に関連して、非常に興味深いソリューションが東京モーターショーで出展されていた。車載電装部品メーカーの澤藤電機株式会社が展示した、アンモニアから水素を取り出す技術だ。

アンモニアの可能性

アンモニア(NH3)は、水素キャリアの有力な候補として以前から注目されている物質だ。理由は以下のとおり。

  • 水素密度が高い。液体水素の1.5-2.5倍の体積水素密度
  • 液化が容易であり、運用面や車載に有利(水素は液化が困難)
  • 液化アンモニアは肥料や合成繊維の原料として多くの用途で利用され、製造や流通が確立している

このようにアンモニアにはメリットが多いものの、アンモニアから水素へ効率よく改質する仕組みが課題となっていた。この課題に対する解決策を展示していたのは、自動車の電装部品メーカー澤藤電機(東証一部)だ。同社は岐阜大学との共同研究で、純度の高い水素を高効率・低コスト・省スペースで取り出す仕組みを開発している*。

この仕組みのキモはプラズマメンブレンリアクターと呼ばれる装置だ。常温かつ触媒不要で高純度の水素が取り出せることが特徴で、コストも高くないという。2017年にこの原理を利用した試作機を開発したというニュースが伝えられた直後、同社の株価は連日ストップ高を繰り返し、一週間ほどで4倍以上にもなったことからも、この発表のインパクトがわかるというものだろう。

プラズマメンブレンリアクターは、長さおよそ40cm、直径は5cmほどで、片手で軽く持てるほどの軽さ。一本のプラズマメンブレンリアクターから、1時間あたり500リットルの水素を取り出すことが目標だという。2017年3月の最初のプレスリリースの時点では78リットルだったものが、2018年の2回目のプレスリリース時点で150リットル、今回の東京モーターショーの時点では300リットルの生成に成功したとのことだ。澤藤電機では、同装置を搭載した電動スクーターを走らせる実験に成功しているという。

担当者は、「水素ステーションに液化アンモニアの状態で貯蔵し、その場で改質するという方法もあるが、究極の姿はやはり、クルマに液化アンモニアを積んで、水素に改質しながら走らせること。そのためには時間あたりの水素生成量をさらに上げていきたい。目標はプラズマメンブレンリアクター1本で1時間あたり500リットル」と明かした。

「液化アンモニアの流通イメージは、タクシーのLPガスに近いもの。8.5気圧で常温で液化する特性はLPガスに似ている」ということもあり、水素ステーションが普及するよりもよほど現実的にイメージしやすい。

アンモニアから水素を取り出す技術に取り組んでいるのは澤藤電機だけではないが、「取り出せる水素の純度や装置のシンプルさには自信がある」とのことだ。 液化アンモニアステーションでアンモニアを注入し、タクシーが積んでいるLPガスタンクのようなアンモニアタンクを搭載したFCVが走るという未来像は、水素ステーションが普及する姿よりも想像しやすいのではないだろうか。

適材適所

産業界全体でみると、半導体製造プロセスを始めとして、水素を必要としている業種は自動車産業の他にもあり、同様に水素のロジスティクスに課題を抱えている。そして澤藤電機以外にも、水素キャリアとしてのアンモニアの可能性を追求している企業はいくつかある。さらに言うなら、アンモニア以外の水素キャリアの研究事例もある。

現在のFCVについては、車両・インフラともに水素エネルギーの扱いにくさが課題として表面化しているが、前述のような状況において、ブレークスルーが起きる可能性はゼロではないだろう。もともとトラックやバスなど、大型で負荷の高い車両についてはエネルギー密度の高いFCVが求められている事情もある。大トルクが必要なこと、車載スペースに余裕があること、決まったルートを走行するのであれば水素ステーションの少なさをカバーできること、などの理由からだ。

トヨタは2018年からFCVバス「SORA」を販売しており、東京オリンピック・パラリンピックにも車両を提供する。また同社は、アメリカにおいてFCVトラックの走行実験も実施している。小型車や乗用車にはEV、大型の商用車はFCVという住み分けが進む可能性はある。

FCVは目的ではなく、手段だ

ここまでFCVのメリットとデメリット、水素キャリアの実現によるブレークスルーの可能性について述べてきたが、そもそもの話、FCVは目的ではなく、クルマを電動化するための1つの方法に過ぎない。EVと比較して優位性があるからこそ研究開発されているわけだ。

しかしリチウムイオンバッテリーもこのまま進化しないわけがない。もともとバッテリーはエンジンと違って限界がまだ見えない、発展途上の技術だ。東芝は急速充電性能を高めた進化型のリチウムイオンバッテリー「SCiBTM」で車載実績を積み上げているし、村田製作所やTDKは全固体電池のサンプル出荷を始めており、間もなく量産に入る見込み。リチウムイオン2.0はもうすぐそこに見えてきているのだ。そして可能性の話で言えば、リチウムではなくまったく別の化学物質によるゲームチェンジもありうる。それがバッテリーの世界だ。

東芝のグローバルサイト SCiBTM ページ

結晶化していると思われた自動車産業が、電動化というドライバーによって青天井になっている。筆者自身は、将来はバッテリーEVにあると考えるが、それもまだ答えは出ていないというのが大勢の見方だろう。FCVのブレークスルーが早いか、EVのバッテリーの進化が早いか、この先5年で勝負が見えてくると思われる。

参照
佐藤耕一
佐藤耕一

自動車ニュース媒体で取材・編集業務に従事したあと、IT企業に転職し、自動車メーカー・部品メーカーに対するビジネス開発を担当。その後独立し、自動車とITをつなぐ領域を取材・レポートする活動に従事する。

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