-大きな市場を持つ中国のEVバスメーカーなどを相手に、日本発のEVベンチャーとしてどのように闘ってゆくのか。
佐藤氏:路線バスの場合、バス会社のほとんどは地方自治体の補助を受けています。すでに注文をいただいたバス会社からは日本のEVメーカーから調達したいという期待を非常に感じています。
そのような国内市場に対して国産技術によるEVをアピールして、まずは環境エネルギー技術に注目が集まる大阪万博にむけて、2025年までに年間500台生産を目標にしています。北九州の工場で最終工程を行い出荷してゆく予定です。
EV Motors Japanが手がけるEVバス
輸出については、たしかに日本のインフラシステムの輸出は中国に対して劣勢です。しかしEVの場合、まだチャンスがあると考えています。電池は低温で性能が落ちることはよく知られていますが、じつは高温にもとても弱い。中東や東南アジアなど高温地域では従来のバッテリーシステムでは性能が落ちてしまうという現実に直面しています。EV Motors Japanのバッテリーマネジメントシステムは優れた温度管理により航続距離の劣化も少なく長寿命です。よって結果的に同じ航続距離のバスで考えると、より小さなバッテリーで足りるので、より安価に、より軽く、より積載能力が高い車両が実現できます。
世界に対しては、例えば脱炭素化に向けたJCM(二国間クレジット制度)を活用して、日本政府の援助を受けながら発展途上国に対して電動の公共交通や物流のシステムを導入してゆきたいと考えています。
-試乗させてもらったEVバスだけでなく、EVトラックや物流e-トライクなどの車両、そして急速充電器もEV Motors Japanとして用意しているのはなぜか。
佐藤氏:EV Motors Japanの強みはバッテリー充放電の最適制御ですから私たちが作る急速充電器も、車両への充電がより速く、バッテリーへのダメージを最小限にしながら充電できます。
私達は大量にEVをつくって大量に売るEV車両メーカーとしてではなく、EVを使った商用システムを提案できる企業になりたいと思っています。そのためにはさまざまな車両を選ぶことができるようにしたいですし、運用する自治体や事業者にとって最適な充電インフラのありかたもソリューションできるべきでしょう。
-リチウムイオン電池の性能を決定する充放電システムを長年提供してきた技術ノウハウが、航続距離を伸ばす加減速制御から、バッテリー劣化を防いで長持ちさせる車両運用まで活きてきているということか。
佐藤氏:そうです。例えば何年も先のバッテリーの劣化を計測する加速度テストでデータを取っておけば、バッテリーの劣化診断や残存価値の予測精度も高まります。
つまり5年落ちの中古車に対して、あと何年、何キロ、このバッテリーは利用できるのかも予測できてしまうのです。
-佐藤さんから見て注目しているバッテリーメーカーはどこか?
佐藤氏:やはり注目は東芝「SCiB」でしょうか。現在、東芝から提供を受け、負極活物質をチタン酸リチウム(LTO)から進化させたニオブチタン系酸化物(NTO)を用いた車両のデモカーの用意も進めています。NTOはLTOが持つ長寿命や急速充電という特徴を維持しつつ、エネルギー密度がテスラなどに使われているリン酸鉄(LFP)と同等の性能を持つため、EV用としては最適ではないかと大いに期待しているところです。
いかがだっただろうか?
私は明治の殖産興業においてできた官営八幡製鐵所の流れを組む省エネルギー技術と2019年ノーベル化学賞受賞の吉野氏のリチウムイオン電池の発明が、歴史的な出会いによって生まれた国産EVの存在は、とてもロマンチックなストーリーの始まりだ。そして、大量生産が有利な乗用車市場ではなく商用EV市場にフォーカスしているところが戦略的だ。
見渡してほしい、日本で走る商用車は、軽トラック、軽バンにしろ、2トントラックにしろ、バスもタクシーも、バイクだって、ほぼ国内専用車ではないか。もともと商用車は、世界で何百万台売れる乗用車とは住む世界が違うニッチな乗り物なのだ。
2020年の日本はBEVとFCVを足しても2万台程度のまだまだ小さな市場である。たとえば戦後のモータリゼーションでいうと1955年がちょうど2万台程度の販売台数だった。その後1960年には16万台を越え、1965年は70万台、1970年には300万台を越える市場に成長した。
日本において、カーボンニュートラルがもっと進むためのEVシフトには、EV Motors Japanのようなスパイスが効いたベンチャーの存在が各分野でとても重要ではないか、と思う次第である。
レスポンス編集人 三浦和也氏の連載はこちらから
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