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世界で注目を集めている小型原子炉は、本当に脱炭素の選択肢になるのか

2021年10月28日

SMRが抱える課題とは

OECD/NEA(経済協力開発機構/原子力機関)は、「2035年までに約2,000万kWに達する可能性がある」と指摘するように、今、SMRの開発は日本のみならず、アメリカ、カナダ、イギリス、ロシア、中国、韓国などで進んでいる。


出典:JAEA(日本原子力研究開発機構)

特に、アメリカやイギリス、カナダは世界をリードしようと国をあげてのSMR開発に取り組んでいる。ロシア、中国もSMRの海外進出を狙っている。だが、課題も多い。

たとえば経済性だが、確かに工期が短縮されれば、コスト削減はできるが、100万kWの大型炉1基と10万kW10基を製造した場合、大型炉のスケールメリットを覆すほどの経済性は発揮できないとされている。再エネの発電コストの低下が今後も進展する中、コスト競争力を発揮できるかも不透明だ。

また、小型炉を複数設置するには立地自治体との調整も複雑になり、その手続きが軽減されるわけではない。さらに、核不拡散の原則が遵守されるかもわからない。世界各地で設置されることになれば、それだけ放射性物質の管理が難しくなり、核兵器に転用される可能性も高まる。

またPRISMやNatriumなどの原子炉は、ナトリウムを冷却材に使うが、本当にナトリウムを適切に扱えるのか? 疑問が残る。実際、日本では高速増殖炉「もんじゅ」がナトリウム漏れ事故を起こし、2016年に廃炉が決定している。

日本特有の課題もある。アメリカなど海外企業が主体に製造したSMRが、地震や津波が多い日本の立地条件に適合するのか。導入には原子力規制委員会による審査を通過しなければならない。

そもそもSMRであっても、原子力そのもののリスクはゼロにはならず、バックエンドの課題は抱えたままだ。使用済み核燃料の処理はまだ誰も解決できていない。フィンランドだけが地中深く埋めることを決めたくらいだ。

日本はSMRを導入することができるのか

SMRの開発は、従来の原子炉メーカーであるGEや三菱重工、アレバ(現・オラノ)などではなく、スタートアップの活躍が目立つ。しかし、ロシアが2基、商業運転を開始しただけで、実用化のめどが立っているとは言い難い。さらに大型炉以上の安全性を本当に持つのか、その実証にはさらなる時間が必要だ。

CO2を排出しないSMRはカーボンニュートラルの実現オプションとしては否定できない。

しかし、原子力への信頼が必ずしも十分に回復していない状況の日本で、導入を進めることができるのか。10月22日に閣議決定された第6次エネルギー基本計画においても、原子力のリプレース(建て替え)は盛り込まれず、中長期にわたる原子力政策の議論は棚上げされたままだ。

また、SMRの導入議論の前に、既存原発の再稼働や運転期間の延長に取り組むべきとの意見もある。

SMRが本当に使えるのかどうか、慎重に見極めることが大切ではないか。

(Research:本橋恵一・渡邊健斗)

藤村朋弘
藤村朋弘

2009年より太陽光発電の取材活動に携わり、 その後、日本の電力システム改革や再生可能エネルギー全般まで、取材活動をひろげている。

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