一方、宇宙太陽光発電などに頼らず、地上の太陽光発電や風力発電の導入拡大に予算を振り分けたほうがいいという指摘もある。そもそも1960年代にアメリカで提唱された計画にもかかわらず、兆を超える巨額の建設コストや技術課題が障壁となり、各国で研究は頓挫。日本だけが1980年代以降も細々と、しかし脈々と研究開発を進め、今や世界の最先端に位置する。
ところが2010年代に入ると、宇宙太陽光発電のスピンオフ技術であるワイヤレス給電などの実用化の検討がはじまり、アメリカや欧州、中国、韓国などで研究開発が加速する。スピンオフ技術が確立されれば、マイクロ波で電気を送ってスマートフォンやタブレットなどを充電したり、工場内のIoT機器やドローン、ロボットへの給電のほか、道路の下に送電設備を設置することで、電気自動車(EV)が充電することなく走り続けることが可能になるかもしれない。
実際、JAXAなどは上空30メートルのドローンにマイクロ波を送る実験に成功。こうしたマイクロ波送電は国内だけでも2025年には5,520億円の市場規模に成長するとの予測もあり、関西電力が出資したスタートアップ、Space Power Technologiesなどが開発を競う。
マイクロ波送電市場試算(2025)
用途 | 市場規模予測金額 (2025年、国内) |
①FA/IoTセンサ | 3,750億円 |
②介護・見守り用途センサ | 500億円 |
③モバイル端末 (スマートフォン、タブレット等) | 1,270億円 |
合計 | 5,520億円 |
ブロードバンドワイヤレスフォーラムにおいて試算
出典:内閣府
アメリカは空軍研究所を中心に2019年より約100億円の本格的なプロジェクトを開始、2023年にも小規模宇宙実験を予定する。中国も2021年から重慶に研究所を建設しはじめ、宇宙空間に発電衛星を打ち上げる計画があるとされている。また、スマホ大手のシャオミは2021年1月末にワイヤレス給電が可能なスマホ充電器を開発したと発表するなど、中国勢も存在感を増しつつある。
宇宙太陽光発電をめぐり研究開発が加速する中、日本も2022年度から宇宙空間で太陽光パネルを展開する実証試験を本格化させる。JAXAと文部科学省は国際宇宙ステーションに物資を届ける「新型宇宙ステーション補給機(HTV-X)1号機」に縦2メートル×横4メートルの太陽光パネルを搭載して打ち上げ、2023年にもパネルを宇宙空間で展開する計画だ。地上から電波を送り受信できるかも検証する。なお、HTV-Xは2020年に任務を終了した「こうのとり」の後継機である。
HTV-Xにおけるミッションイメージ
出典:JAXA
経産省は2023年度までにマイクロ波を送電するアンテナと太陽電池を備えた「発送電一体型パネル(50センチメートル四方)」の開発を目指している。さらに1キロメートル以上先にマイクロ波を送る技術実証なども重ねながら、2030年代に30メートル級のパネルを宇宙空間に浮かべる大規模実証を実施する計画だ。
実用化までのスケジュール
出典:文部科学省及び経済産業省
マイクロ波による人体や航空機、電子機器への悪影響の懸念など、乗り越えなければならない課題は多い。しかし、宇宙太陽光発電は脱炭素を実現しうる夢の技術であり、世界の研究開発は加速しつつある。とりわけ「宇宙強国」の目標を掲げる中国の追い上げは著しい。実用化は早くても2050年とまだ先だが、日本がこのまま研究の最先端を走り続け、宇宙太陽光発電を実現することに期待したい。
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