半導体不足を乗り切るテスラの技術開発力 半導体チップでサムスン電子と協力体制構築 | EnergyShift

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半導体不足を乗り切るテスラの技術開発力 半導体チップでサムスン電子と協力体制構築

半導体不足を乗り切るテスラの技術開発力 半導体チップでサムスン電子と協力体制構築

2021/10/06

電気自動車に限らず、自動車の製造にあたって不可欠なのが半導体だ。現在の半導体不足は、自動車の生産に大きな影響を与えている。こうした課題に対し、テスラは自ら半導体の製造にのりだした。必要であれば、自社でつくるというテスラの思想が、ここでも発揮されている。では、どのようにして半導体の製造を進めているのか。ジャーナリストの田中茂氏が報告する。

テスラ・ウォッチャーズ・レポート(8)

半導体不足に翻弄される自動車メーカー

2020年末ころから国内外の自動車メーカーは半導体製品の供給不足で苦しむようになり、現状でも回復していない状況が続いている。9月米国では、ゼネラル・モーターズ(GM)が14工場のうち8つの工場の操業を停止すると発表し、日産自動車もテネシー州の工場での生産を2週間休止した。一方テスラは、米国での操業停止はなく、8月に4日間、上海工場の操業を停止しただけにとどまっている。

半導体製品不足の要因は、コロナ禍の影響により家庭内で過ごす時間が増えたことで、リモートワーク関連製品やゲーム機器などの需要が増えた一方、外出時に使用する自動車の使用頻度が減少したのが発端になったといわれている。これを受け各自動車メーカーは、生産計画を低めに見積もり、半導体製品の注文を減らしていった。

しかし、密にならない移動手段として自動車の需要が予想より早めに回復したため、半導体製品の受注を再び開始したものの、そのときにはすでにIT関連企業からの半導体製品の注文増により工場の生産設備に余裕がなく、自動車向けの半導体製品の供給が十分に行えなくなってしまった。

これだけではない。ソフトウェアの制作やハードウェアの製造が主流のIT関連企業は、半導体の製造に特化した企業であるファウンドリーと常にコミュニケーションを取っているが、自動車メーカーは、金型プレス、塗装、組み立てをメーンとする業界であるため、ファウンドリーをあくまで数ある取引先の中のひとつとしか捉えていなかった。

ファウンドリーにとっても自動車部門の半導体製品需要は全体の1割程度。数量・取引価格での魅力が少ないため、自動車業界にとっては、半導体製品の供給が滞りやすい環境にあったといえる。


米国テキサス州オースティンにあるサムスン電子のファウンドリー。テスラにも半導体製品を供給している

ファウンドリーと組んで半導体チップを自社開発

このような自動車業界の慣習を踏襲していない唯一のメーカーがテスラだ。2019年4月に開かれた「Tesla Autonomy Day」の中でイーロン・マスクCEOは、自動運転を制御する半導体製品のひとつとして、「260mm2のシリコンに、60億のトランジスタに相当する回路が集積する半導体チップを設計・開発した」と述べた。

新しい半導体チップを共同開発したのはサムスン電子。処理速度は当時使用していた米国エヌビディア製より21倍速かった。回路間隔は14nm(1nm=100万分の1m)で、同年春から導入されたFSD(Full Self-Driving:自動運転機能)「Hardware 3.0(HW3.0)」の制御に使用された。回路の間隔は、短くなればなるほど、同一面積でたくさんのチップを製造できると同時に、回路に流れる電流が少なくなるので高速化にもつながっていく。

また、サムスン電子は、すでに米国テキサス州オースティンでファンドリーを建設し、テスラに半導体チップを供給しているが、さらに工場を新設してテスラとの関係を深めようとしている。9月9日付の中央日報によると、約170億ドルかけて同州テーラー市に、敷地面積55万7,400m2のファウンドリー工場を建設するという。同工場では、FSDで使用する5nmの半導体チップを製造する予定で、2026年の稼働を目指すとしている。


半導体チップ「D1」のスペック


「D1」チップを収納したモジュール「トレーニングタイル」

FSDとスパコンの最適化に欠かせない専用半導体チップ

またテスラは、現地時間の2021年8月19日に開催された「Tesla AI day」において、ファウンドリーの最大手TSMCの7nmの技術を利用して製造した半導体チップ「D1」(面積645mm2のシリコンにトランジスタ500億個以上)を公表した。処理速度は362兆フロップスまで高められている。

フロップスとは、コンピュータの性能を示す単位で、1秒間にコンピュータが得意とする浮動小数点の演算を何回できるかという能力を表している。「D1」チップは、テスラが自社で設計・開発したスーパーコンピューター「Dojo」を稼働するために用いられる。

基本単位は「トレーニングタイル」と呼ばれる「D1」チップを25基収納したモジュールで、最大9,000兆フロップスの性能を発揮する。これらを6つつなげたラックをキャビネットに2段で載せ、そのキャビネットを10台接続することで、110京フロップスの能力を持つ「Dojo」が構築される。

また、「Dojo」は単位時間に送信できる最大データ転送量を示す帯域幅が9テラバイト/秒のインターフェースを4つ搭載し、合計36テラバイト/秒でデータを転送する。これは現在市販されている最先端ネットワークスイッチの標準スピードと比較すると約2倍の速さだ。


FSD「HW3.0」で行われている3段階の画像処理

D1チップが進化させる自動運転技術

このような「Dojo」のスペックはテスラが現在進めているFSDの学習に大きく貢献している。上に示したプレゼン資料では、FSD「HW3.0」で行われている画像処理の仕組みが示されており、車両に設置された8台のカメラから得られた動画情報から(左)物体をAIが認識して統合し(中)予測した動画に作り変えていく(右)。

そのため、右側の画像で映し出されている車は、実際に撮影されている映像の車より、遅れ気味で表示されかつ形状は似ているが異なる車になっている。

「Tesla AI day」当日、「D1」チップと「Dojo」の関係性について説明したガネッシュ・べンカタラマン・ディレクターは、これらの特性について「計算とデータ転送を同時に行うことができること」と述べた。言い換えれば、カメラで認識した動画を「Dojo」に送信するとともに、その動画をAIで処理して、予測画像に置き換える作業を同時に行えるのがFSD「HW3.0」の強みと言える。

このように、テスラは独自の技術でFSDを開発しているため、自ら半導体チップを設計し、最適化しなければならないという必然性があったが、同時にファウンドリーとの関係を他自動車メーカーより構築できるというメリットも享受できている。現在テスラがサムスン電子と共同開発している5nm半導体チップの生産が成功すれば、両社の互恵関係はますます強まっていくだろう。

田中茂
田中茂

産業アナリスト。日常生活に欠かせないエネルギー使用のあり方について、制度・ビジネスの観点から調査・研究しています。