信越化学工業 脱炭素はEVと希土類磁石がカギ -シリーズ・脱炭素企業を分析する(26) | EnergyShift

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信越化学工業 脱炭素はEVと希土類磁石がカギ -シリーズ・脱炭素企業を分析する(26)

信越化学工業 脱炭素はEVと希土類磁石がカギ -シリーズ・脱炭素企業を分析する(26)

「脱炭素企業分析」シリーズ、第26回は、モーターに欠かせないレアアースマグネット(希土類磁石)など、素材系の分野で独自の地位を築く信越化学工業を紹介する。近年、売上が上昇傾向にあるが、既存の塩ビ事業と成長事業のレアアースマグネットやシリコン(ケイ素・半導体材料)のバランスの良さがありそうだ。

エナシフTV「脱炭素企業分析」シリーズ

株価と業績

信越化学工業の最近5年間の株価は上昇傾向にあり、とりわけ2020年後半に急上昇している。現在は5年前の約2倍の価格で株価は推移している。売上高の増加以上に経常利益が順調に増加しており、配当金の増加につながっていることが、株価に反映されている。

一方業績だが、2020年度の売上高は1兆4,969億円、経常利益が4,051億円となっている。2019年度の売上高は1兆5,435億円、経常利益が4,182億円であるので、わずかな減収減益ということになる。

セグメント別の売上を見てみると、電子・機能材料部門のみが増収増益となっている。なかでも自動車や風力発電機などに用いられる、レアアースマグネット(希土類磁石)の売上が大幅に増加している。非常に強力な磁石で、風力発電機には不可欠な部材なため、将来に向けて大幅な成長が期待できるものだ。とはいえ、足元では塩ビの需要が回復している。2021年度予想は売上高が1兆7,000億円、経常利益は5,000億円を見込んでおり、その要因となっている。

沿革と事業

信越化学の創業は、1926年、長野県の水力発電と新潟県の石灰石から、化学肥料・石灰窒素を生産する信越窒素肥料株式会社として発足したことにさかのぼることができる。設立時から再エネである水力発電を保有しているということだ。

1940年には信越化学工業に社名を変更し、1949年には東証に上場している。

1953年には、半導体の材料などに使用されるシリコンの製造を開始する。シリコンは半導体だけではなく、リチウムイオン電池の負極材など、現在では様々な用途で活用されている。

1956年には近年の好調な業績を支えてきた塩化ビニルの製造を開始する。ポリ塩化ビニルは水道管のパイプや容器包装、ビニールハウスなど身近なものに使用されているものだ。

1962年から、セルロース誘導体の製造開始している。セルロースとは植物の体を構成する物質で、人間が消化不可能な、いわゆる食物繊維ともなる物質だ。セルロースを利用した製品としては、土木工事の混和剤からハンドソープ、サプリまで様々な用途で製造されている。そもそも、セルロースは植物由来のバイオマスであるという点では、天然素材だともいえる。

1972年から、先述のレアアースマグネットの製造を開始する。非常に強力な永久磁石であり、一度くっついてしまうと人力では引き離せないほど強力な磁力を持っている。そのほかにも、メタノールの製造、メタノールを含めたアルコールや、LEDに使われるガリウムひ素や有機半導体なども製造している。

現在、信越化学工業で肥料は製造していないが、塩化ビニルはビニールハウスに使用されているし、農薬としての合成フェロモンも製造している。合成フェロモンは昆虫を呼び寄せる化学物質で、害虫から農作物を守るものだ。このように信越化学と農業との縁は途切れていない。

信越化学工業の脱炭素

信越化学工業における脱炭素のカギとなるのは、EVや風力発電機に利用される部材・素材だろう。EVにはモーターや発電機が使われているが、そこではレアアース磁石が使われている。この他、シリコンも半導体の材料であり、パワーコントロールユニット等にも活かされる。モータリゼーションの脱炭素の重要な部分を担っているということだ。

シリコンについていえば、太陽電池をはじめ、その他にもさまざまな場面で使われている。建築においてもさまざまな場面で利用されており、代表的なものとしてガラスにもシリコンは使用されている。多様な用途で用いられるシリコンもまた、信越化学工業の脱炭素において非常に大きな役割を果たしているといえよう。

この他、ユニークなところでは、大豆肉の製造も行っている。大豆を塊の肉状に加工するのは難しいのだが、信越化学工業はセルロース誘導体であるメトローズを結着材として使用することで、肉の食感を引き出しながら大豆を肉状に加工し、大豆肉を生成している。

そもそも、牛のゲップが出すメタンや、そもそも森林を伐採して整備する牧場は、温室効果ガスの排出源として指摘されている。肉食を減らし、牧場を森林に戻すことも必要だという指摘もなされている。ヴィーガンが世界的に注目されている理由の一つもこうしたことだ。したがって、大豆肉のような取り組みもまた、意外に思われるかもしれないが、脱炭素につながっている。

信越化学工業のGHG排出量

信越化学工業の事業を通じた温室効果ガス排出量はどうなっているのか。

グラフを見ると、2019年~2020年にかけては、微量ながらも減少していることがわかる。

どの部分で削減していうのかといえば、スコープ1(自社の事業所で出すCO2)は天然ガス利用とコージェネレーションの導入でかなりの削減ができているということだ。

一方、スコープ2(電気の使用に伴う温室効果ガスの間接排出)では、再エネ利用を促進しているが、現状は不十分であり、今後、より一層の削減への取り組みを行っていく必要がありそうだ。

とはいえ、TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)に沿った、気候変動に対する事業のリスクとチャンスを分析したシナリオは作成しており、2050年カーボンゼロを目指していくと宣言している。あとは、具体的にカーボンゼロの実現を目指すために、何を行っていくのか、今後明確化していくことが求められる。

こうしたなか、将来に向けて、研究開発を5つのテーマに絞り、発表している。

1)シリコン系素材のリチウム電池への応用

脱炭素において、蓄電池は非常に重要な機器だ。シリコン系の素材をリチウム蓄電池に応用していくことで電池の小型化や軽量化などを目指していく。

2)半導体材料

情報処理に必須である半導体も、出来るだけ電気の使用量を減らしながら、処理速度を速めるという方向に向かって、開発を続けている。

3)パワーデバイス基板材料

エネルギー効率の向上や省エネを支えるパワーデバイス用の基板材料には、半導体が使われており、その性能の向上は重要なものだ。

4)ヘルスケア

シリコン、セルロースといった物質は医薬品製造でも活用されている。健康で快適な暮らしを支えていく事業も、今後はニーズがますます高まることが予想される。

5)光通信用材料

光通信用材料の研究を通じて、より大量のデータの送受信を可能にすることなどの研究に取り組んでいる。

まとめ

信越化学工業の将来を考える上で、最も注目すべき事業は、レアアースマグネットだといえるだろう。モーターや発電機などに不可欠な上、今後ますます需要は増加していく。

次いで半導体関連も注目される。実際に半導体などの素材が脱炭素を支えているのが現状だ。

こうした、信越化学工業の将来の要となるものに対し、資金確保の手段として、現在利益を出している塩化ビニルの事業の存在は重要だ。基礎的な事業ともいえるの塩化ビニルでしっかりと利益を出しながら、成長事業へ投資していく。そうした基礎的事業と成長事業のバランスが重要となってくるだろう。

ところで、沿革で触れた長野県の水力発電は現在、中部電力が保有しており、信越化学工業としては水力発電を運用していない。しかし、今後は温室効果ガス削減のために再エネの電気の利用が求められるようになってくることを考えると、もう一度ルーツに戻ってみることも必要かもしれない。こうした点も、注目したいところだ。

(Text=MASA)

もとさん(本橋恵一)
もとさん(本橋恵一)

環境エネルギージャーナリスト エネルギー専門誌「エネルギーフォーラム」記者として、電力自由化、原子力、気候変動、再生可能エネルギー、エネルギー政策などを取材。 その後フリーランスとして活動した後、現在はEnergy Shift編集マネージャー。 著書に「電力・ガス業界の動向とカラクリがよーくわかる本」(秀和システム)など https://www.shuwasystem.co.jp/book/9784798059020.html

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