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脱炭素社会を目指す日本で次世代スマートメーターが示す3つの可能性

脱炭素社会を目指す日本で次世代スマートメーターが示す3つの可能性

経済産業省の次世代スマートメーター制度検討会が、2022年3月8日、取りまとめ案を公表した。2025年度から設置予定のスマートメーターの標準機能は、現行のものと比較して、測定の粒度は細かくなり、通信方法もより幅広いものとなる。追加された機能を通じて、レジリエンス強化や再エネの拡大につなげられるほか、アグリゲーションビジネスなど新たな事業にも対応したものとなっていく。電力のDX推進に資するものにもなるという。取りまとめ案はパブリックコメントを経て、正式に決定される。

現行スマートメーターの課題

経済産業省の次世代スマートメーター制度検討会は、2020年9月から審議を開始し、合計7回の審議及び4回にわたる次世代スマートメーター制度セキュリティワーキンググループでの議論を経て、取りまとめられた。

現行のスマートメーターは、2014年から設置が開始され、2024年度には沖縄を含むすべてのエリアで交換が終了する。メーターの検定期間は10年間なので、2025年度から交換が始まることになるが、この機会に次世代スマートメーターへの変更を進めるということだ。

現行のスマートメーターは、これまでのアナログメーターと異なり、30分単位の計測値を自動検針でサーバに送信することができた。そのため、検針員が不要となることはもちろん、小売電気事業者が電力を販売する際の30分間計測値同時同量やインバランス料金の精算などを可能としてきた。

しかし、スマートメーターの機能をさらに向上させることができれば、太陽光発電など変動する再エネへの対応やエネルギーマネジメントシステムの高度化、停電や電力不足による計画停電へのきめ細かい対応が可能となる(図1)。こうしたことから、スマートメーターシステムをアップグレードしていくということとなった。

図1:次世代スマートメーターの意義


出典:次世代スマートメーター制度検討会取りまとめ案をもとに編集部作成

次世代スマートメーターで再エネ大量導入・脱炭素化

次世代スマートメーターの仕様を検討するにあたっては、「①レジリエンス強化」「②再エネ大量導入・脱炭素化、系統全体の需給安定化、省エネ促進」「③需要家利益の向上」の3つを目指す視点が示されたという。

実際に、どのような仕様変更が検討されたのか。

①レジリエンスの強化

  • 30分値に加えて5分値、任意のメーターの動作状況を確認するポーリング機能などを活用することで、停電検知や復旧検知などを速やかに行うことができる。
  • 低圧メーターについてはメーター内に開閉器を内蔵し、遠隔でメーターの電流値上限を変更することを可能とする。これによって、電力需給ひっ迫時に、広域での計画停電の回避や経済活動の維持が可能となる。

再エネ大量導入・脱炭素化、系統全体の需給安定化、省エネ促進

  • 5分ごとのデータを取得可能とすることで、太陽光発電などのデータに加え、AIやIoTなども活用し、通信システム、運用管理システムなどを通じて、地域マイクログリッドなどの高度な配電系統の運用や、さらに高度な運用管理による再エネ導入拡大が可能となる。
  • 将来の15分市場への切り替えの可能性も想定する。
  • 低圧メーターについては、Wi-SUN方式のみならず、Wi-Fi2.4GHz方式も選択できるようにし、高圧・特高メーターについてもEthernet(有線)方式のみならず、Wi-SUN方式も選択できるようにすることで、いずれも複数の需要家機器の接続を可能とし、需要側の柔軟な調整や見える化による省エネ・CO2排出削減のために利用する。
  • メーターに1分ごとのデータを60分間保存することで、エネルギーアグリゲーターやエネルギーマネジメント事業者等がデータを取得・活用しやすくし、再エネ導入や省エネのために利用する。
  • パワコンなどに内蔵されているものを含め、特例計量器のデータをスマートメーターのネットワークを経由して取得し、個別機器の測り分けを可能とし、新たな需要サービスや需給調整市場への対応などを可能とする。

③需要家利益の向上

  • ガスメーターや水道メーターとの共同検針を可能とし、ガスの開閉栓を遠隔で行えるようにする(図2)。

図2:特定計量・共同検針のIoTルート


出典:次世代スマートメーター制度検討会取りまとめ案をもとに編集部作成

また、次世代スマートメーターの標準機能をまとめたものが、表1、表2である。データの粒度の向上と通信・システムの複数化がやはり目につく。

表1:現行の低圧スマートメーターの主な仕様との比較

:仕様変更なし :仕様変更

現行の仕様

計量器
計測粒度計測項目記録期間
30分値有効電力量45日間
瞬時値有効電力電流

 

通信・システム
Aルート(取得頻度・通知時間)Bルート保存期間データ提供付随機能
(全データ)30分毎・60分以内Wi-SUN、PLC2年間小売事業者等・遠隔開閉機能
・遠隔アンペア制御機能(単相60A以下)
ボーリング

次世代の仕様

計量器
計測粒度計測項目記録期間
30分値
(15分値は計量器に記録のみ)
有効電力量※1取引又は証明に必要な期間
5分値有効電力量※1
無効電力量電圧
データのサーバー送信等に必要な期間
1分値有効電力量※160分間
瞬時値有効電力電流

 

通信・システム
Aルート(取得頻度・通知時間)Bルート保存期間データ提供付随機能
(全データ)30分毎・60分以内(主)Wi-SUN
(従)Wi-Fi2.4GHz
※取得項目は、30分値、1分値、瞬時値
3年間を軸に検討小売・発電事業者、アグリゲーター、配電事業者、エネマネ事業者 等・停電早期解消機能(ポーリング・30分値利活用)
・遠隔開閉機能
・遠隔アンペア制御機能(単相120A以下)
・IoTルートを用いた共同検針、特定計量データ結合
需要家の10%程度以上の5分値を数日以内
需要家の3%程度以上の5分値を10分以内
  
ボーリング

表2:現行の高圧・特高スマートメーターの主な仕様との比較

:仕様変更なし :仕様変更

現行の仕様

計量器
計測粒度計測項目記録期間
30分値有効電力量
無効電力量
45日間

 

通信・システム
Aルート(取得頻度・通知時間)Bルート保存期間
(全データ)
30分毎・30分以内
Ethernet(有線)2年間

次世代の仕様

計量器
計測粒度計測項目記録期間
30分値
(15分値は計量器に記録のみ)
有効電力量※1
無効電力量
取引又は証明に必要な期間
5分値有効電力量※1
無効電力量
データのサーバー送信等に必要な期間
1分値有効電力量※160分間
瞬時値有効電力電流

 

通信・システム
Aルート
(取得頻度・通知時間)
Bルート保存期間
(全データ)
30分毎・30分以内
(主)
Ethernet(有線)
(従)
Wi-SUN
※取得項目は、30分値、1分値、瞬時値
3年間を軸に検討
需要家の10%程度以上の5分値を数日以内
  
ボーリング

※1:有効電力量の取得・表示桁数は、託送システム等まで8桁でシステム構築
出典:次世代スマートメーター制度検討会取りまとめ案をもとに編集部再編集

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もとさん(本橋恵一)
もとさん(本橋恵一)

環境エネルギージャーナリスト エネルギー専門誌「エネルギーフォーラム」記者として、電力自由化、原子力、気候変動、再生可能エネルギー、エネルギー政策などを取材。 その後フリーランスとして活動した後、現在はEnergy Shift編集マネージャー。 著書に「電力・ガス業界の動向とカラクリがよーくわかる本」(秀和システム)など https://www.shuwasystem.co.jp/book/9784798064949.html

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