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国内洋上風力発電は2022年以降に市場立ち上がりが本格化か 関連銘柄の株価推移を徹底比較 

2021年11月11日

国内の洋上風力発電関連銘柄について

今後市場拡大が見込まれる国内の洋上風力発電について、関連銘柄を下記にピックアップした。

戸田建設<1860>

2021年3月期 売上高5,071億円、当期純利益197億円

ゼネコンながら2016年から五島列島沖で洋上風力発電について、設置から運用までの全体的な実証実験を開始している。また本年6月には戸田建設を代表とするコンソーシアムが「再エネ海域利用法」に基づく「長崎県五島市沖 海洋再生可能エネルギー発電設備整備促進区域」において選定事業者に決定された。

レノバ<9519>

2021年3月期 売上収益205億円、当期純利益115億円(IFRS採用)

再生可能エネルギーの発電と開発・運営が2本柱。太陽光、バイオマス、地上風力に加え、洋上風力発電事業の立ち上げに注力中。政府プロジェクトの秋田県由利本荘市沖における洋上風力発電についてリード事業者として東北電力、JR東日本エネルギー開発、コスモエコパワーととともに2021年5月に公募占有計画を提出。プロジェクト開始に向けた準備は最終段階とされる。

ENEOSホールディングス<5020>

2021年3月期 売上収益7兆6,580億円、当期純利益1,139億円(IFRS採用)

国内石油元売り首位、再生可能エネルギー関連投資に積極的な姿勢を見せている。本年7月には世界各国で浮体式洋上風力発電事業を手掛ける仏BW Ideol社と国内での浮体式洋上風力発電事業の共同開発を発表。また10月には洋上風力発電ノウハウを持つ新興企業のジャパン・リニューアブル・エナジー(JRE)を約2,000億円で買収すると発表した。

日立造船<7004>

2021年3月期 売上高4,085億円、当期純利益42億円

2003年から洋上風力発電の研究開発を行っており、洋上風力発電における基礎構造物の設計や製作、据え付け、メンテナンスなどの実績を積み上げ。青森県日本海南側にて政府が予定する洋上風力発電事業にコスモエコパワー株式会社とスペインのIberdrola, S.A.グループであるアカシア・リニューアブルズ株式会社とともに事業化の検討を進めている。

コスモエネルギーHD<5021>

2021年3月期 売上高2兆2,232億円、当期純利益859億円

石油元売りながら、風力発電事業に積極姿勢。秋田県由利本荘市沖、青森県日本海南側などの各洋上風力発電プロジェクトに参画している。

国内洋上風力発電関連5銘柄の予想PERとPBR

上記に取り上げた国内洋上風力発電関連5銘柄について予想PERとPBRは下記となっている。(2021年11月1日終値)

 予想PERPBR時価総額
戸田建設<1860>13.4倍0.7倍2,390億円
レノバ<9519>76.2倍19倍3,927億円
ENEOS-HD<5020>10.6倍0.6倍1兆4,972億円
日立造船<7004>30.5倍1.2倍1,540億円
コスモエネルギーHD<5021>4.9倍0.5倍2,007億円

上記のうち2017年にIPOしたレノバは再生可能エネルギーベンチャーとして株式市場から評価が高く、予想PER70倍超え且つPBR19倍のため、両者の尺度で株価を評価するのは困難である。時価総額で見てもレノバを上回るのは石油元売り最大手のENEOS-HDのみだ。

11月1日時点では東証1部全銘柄の予想PER16.1倍、PBR1.35倍だ。レノバに加え予想PER30倍の日立造船を除く3銘柄は、予想PERとPBRのいずれも東証1部平均を下回っている。

ただし戸田建設=ゼネコン、ENEOS-HDとコスモエネルギーHD=石油元売りであり、主力事業が人気化しにくい銘柄のため、予想PERやPBRの観点では同3銘柄はまだ洋上風力発電事業の成長性は殆ど織り込まれていないと考えられる。

国内洋上風力発電関連5銘柄の株価とTOPIXとの比較

上記5銘柄及びTOPIXについて2020年1月を基点に比較したものが下記である。TOPIXが黒色であり、戸田建設<1860>水色、レノバ<9519>緑色、ENEOS-HD<5020>青色、日立造船<7004>紫色、コスモエネルギーHD<5021>赤色となっている。


2020年1月以降の洋上風力発電銘柄の株価推移(画像はTrading View、以下同様)

2020年1月からの株価推移ではTOPIX+18%に対し、2020年10月から株価が急騰したレノバのパフォーマンスは+300%を超えて他を圧倒しており、既に今後の成長が株価に織り込まれている。また次に2020年12月から株価が上昇した日立造船も+100%を超えており、レノバを除けば他の銘柄に比べ株価の上昇が突出する。

逆に戸田建設、ENEOS-HD、コスモエネルギーHDは対TOPIX比でパフォーマンスは劣後している。

次に2021年1月を基点としたものが下記である。


2021年1月以降の洋上風力発電銘柄の株価推移

2021年1月基点の場合、対TOPIX比で戸田建設を除きいずれもパフォーマンスはプラスだ。日立造船が+48%で5銘柄中のトップであり、2020年1月基点の第2位と合わせて安定的なパフォーマンスを上げている。尚、2020年1月基点では他を圧倒したパフォーマンスを見せたレノバは、2021年基点では他の銘柄と同等のパフォーマンス水準に留まる(6月まではTOPIXにパフォーマンスは劣後)。

2021年11月の月初時点でワーストなのは+6%の戸田建設だ。他の銘柄が10月に入り株価上昇を見せる中で戸田建設の株価は下落が続いており、TOPIX(+12%)と比べてもパフォーマンスが下回った。洋上風力発電の事業化が最も進んでいると見られる戸田建設だが、2021年のパフォーマンスはTOPIX比でも劣後する状態は興味深い。

尚、日立造船は従来品の7倍の容量を持つ全固体リチウム電池の開発などが材料視されて株価が急騰している。洋上風力発電は直接材料視されていないものの、脱炭素銘柄として注目され株価の上昇が続いている。

5銘柄全体で見ると、脱炭素という幅広い見方ではレノバと日立造船は成長を株価に織り込んでいるが、洋上風力発電という観点では、まだ各社の株価に洋上風力発電の成長性は殆ど織り込まれていないと考えられる。

まとめ  国内の洋上風力発電市場の立ち上がりは2022年以降

矢野経済研究所の市場予想にあるように、国内の洋上風力発電市場の立ち上がりは2022年以降と考えられる。

その中でレノバ及び日立造船の株価は、既に今後の洋上風力発電の成長を先取りするかのように上昇しているが、レノバの2021年の株価はTOPIX程度のパフォーマンスに留まる。ただし日立造船は2020年と2021年いずれも対TOPIX比で高いパフォーマンスを上げている。

一方で洋上風力発電事業において事業化のステージが最も進んでいる戸田建設は、2021年はTOPIXに対しパフォーマンスが劣後する状態だ。

国内の洋上風力発電は市場の立ち上がりが目前となっている。洋上風力発電の関連各社の株価に洋上風力発電事業の成長性がどのような形で織り込まれることになるのか、各社の洋上風力発電事業の推移とともに注目したい。

石井 僚一
石井 僚一

金融ライター。大手証券グループ投資会社を経て個人投資家・ライターに転身。株式市場や個別銘柄の財務分析、為替市場分析を得意としており、複数媒体に寄稿中。過去多数のIPOやM&Aに関与。ファンダメンタルズ分析に加え、個人投資家としてテクニカル分析も得意としている。

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