JR系の研究機関である鉄道総合技術研究所(以下、鉄道総研)が、送電時の電力ロスをほとんどゼロにする超電導技術を用いた世界最長級の送電線を開発した。この送電線は長さ1.5km、鉄道に必要な電圧1,500V、電流数百アンペアを流すことが可能という実用性の高さからも鉄道業界で注目を集めている。
新開発のポイントは、液体窒素によって送電線を冷やすことをできるようにした点だ。送電ロスは、電線の電気抵抗による発熱が原因となって生じる。電気抵抗は低温の方が小さくなるため、超電導にして無駄なく送電するには、冷却して発熱を抑える必要がある。
かつては、超電導にするためには電線を液体ヘリウムの温度-269℃近辺まで冷やす必要があった。アルミニウムなどの単体の金属は、液体ヘリウムの温度近辺で超電導となっていたためだ。だが近年の研究によって、液体窒素の温度-196℃以上でも超電導の状態にできる銅酸化物などの素材(これらの素材を高温超電導体と呼ぶ)が発見された。
それにより、冷却材を高コストの液体ヘリウムから、比較的低コストの液体窒素へと切り替えることが可能に。超電導電線の費用の多くを占めていた冷却コストを低減して、実現化の見通しが立つようになったのだ。
今回、鉄道総研が開発した技術でも、送電線を覆う形で液体窒素を流して冷却する仕組みがとられている。また、送電線の製造の一部は三井金属エンジニアリングが請け負った。
高温超電導実用化促進技術開発 プロジェクト概要より 出典:NEDO
一方で、冷却コストを抑えたとはいえ、通常の送電よりは当然ながらコストがかかる。
報道によれば「送電線1本の距離を1km以上にできれば既存設備を活用でき、送電ロスが減るメリットが費用を上回る」とのことを鉄道総研が表明しており、今回の1.5kmの送電線が実用的といわれる所以がわかるだろう。
鉄道会社での採択の検討も進んでおり、宮崎県で実証実験も行われることとなったとのことだが、もし採択されれば世界で初めて鉄道の送電線で超電導送電が実装されることとなる。
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