業績好調で株価も右肩上がりのソニーは、2020年1月に自社開発のEV「VISION-S」を発表した。昨年末から欧州の公道での試験走行を開始しているが、EVの量産はしないと明言している。ただし国内有数の半導体メーカーの顔を持つソニーは、EV業界の黒子として自動車業界の脱炭素に貢献する可能性がある。
ソニーの株価は右肩上がりで上昇しており、既に予想PERは約20倍で過去の予想PER比では高い水準にある。しかしEV関連事業の伸びなどにより成長を果たすことで、今後も株価の上昇が続くか注目される。
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ソニー<ソニーグループ:6758>の業績が堅調に推移している。TVなどのデジタル機器の会社から、映画やデジタルコンテンツを含む総合デジタル企業への脱皮に成功した結果だ。昨年大ヒットした映画『鬼滅の刃』もソニーグループが制作や配給に関与しており、同映画の大ヒットは同社業績に反映されている。
またソニーは国内有数の半導体企業としての側面も持つ。ソニーは電子の目といわれる画像半導体“イメージセンサー”で世界シェアの約半数を握っており、アップルなどのスマートフォンに採用されている。ソニーの好業績は半導体部門の好調も大きな要因の1つだ。
その中でソニーは、2020年1月に自社開発したEV「VISION-S」を公開した。アップルもEV市場への参入が噂される中で、ソニーはいち早くEVの実機を公開した。しかしソニーからは、EVの量産計画はない、というコメントがこれまで発表されている。
世界中で半導体不足の状況であり、自動車業界も例外ではない。自動車各社は半導体不足による生産遅延を余儀なくされている。EV市場の拡大もあり、車の電子化が年々進む中で利用される半導体の数量も増加しており、当面自動車業界の半導体不足は続くと予想される。
しかし半導体業界において、車載半導体は単価の割に自動車メーカー側の要求が高くあまり儲からないことで知られている。実際に自動車業界が主要顧客のルネサスエレクトロニクス<6723>は長く低収益に苦しみ、またTSMC(台湾)などの半導体メーカーからも車載用半導体の増産については、積極的な発言があまり聞かれない。車載用半導体は半導体メーカーの利益が出にくい、というのは車載用半導体不足の解消が進まない原因の1つである。
ソニーは自社でEVを開発することで、EVの様々なノウハウを蓄積可能であり、自社でEVの量産の可否にかかわらず、蓄積したEV技術を様々な方面で活用できる。
特に同社が世界シェアの半数を持つイメージセンサーは自動車の自動運転機能に必要不可欠だ。また自動運転を行うためのアプリケーションも、自動車メーカーのみならずNVIDIAなどが競って開発競争を繰り広げるなど重要な要素技術となる。
ソニーはイメージセンサーの世界最大手だが自動車業界に対し単なる半導体供給業者の立ち位置では、安く買いたたかれて出荷量は多くとも利益が出ない、という可能性は否定できない。自社でEVを開発することで、EVの技術・ノウハウを蓄積して単なる部品供給業者とならない仕組み作りを模索していると考えられる。実際に自動車用ではないものの、センサーとAI処理機能を一体化した半導体を同社は昨年発表しており、自動車業界向けに同様のビジネスモデルが想定される。
半導体企業としての一面を有するソニーは、今後EVの黒子役として自動車業界の脱炭素で重要な役割を担う可能性がある。
ソニーの株価は2017年以降、右肩上がりで上昇している。現在は10,000~11,000円を前後する状態で、予想PERは約20倍(2021年7月20日時点、以下同様)だ。東証平均の予想PERは約15倍であり、東証全体と比べると既に割高な水準だ。
また2017年7月以降で見ると概ね予想PER13~22倍のレンジで推移しており、現在の予想PER水準は2017年7月、2020年8月同様の高い水準に位置している。
ソニー株は予想PER水準では上昇余地が限られ、今後は予想PER13倍付近まで下落する可能性がある。しかし事業成長によるEPS(1株当たり利益)の伸びによりこれまで同様に株価が上昇する可能性もあり、今後の株価の行方が注目される。
現状のソニーの半導体事業はスマートフォン市況に大きな影響を受ける。よって大口取引先であるアップルの端末の出荷状況に業績は大きく左右される状態だ。
しかし半導体の主要取引先に自動車メーカーを加えることができれば、ソニーの半導体事業の業績は大きな飛躍を遂げ、市況産業の側面が強い半導体事業は安定感を増すこともできる。
今後のEV市場の拡大とともにソニーもEV向け半導体の出荷により業績を伸ばすことができるのか、ソニーのEVとの関わり方とともに株価の行方が注目される。
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