カーボンゼロに向けた再生可能エネルギーの大量導入にあたって、どうしても必要になってくるのが、新たな送電線の整備だ。一般的に、太陽光発電や風力発電の適地は需要地とは離れた場所にあるからだ。日本列島をとりまく直流海底送電線を提案し、2020年6月6日にはオンラインによる報告会を開催したのは、環境NGOの環境ウォッチTOKYOだ。送電線の提言を行った環境ウォッチTOKYO代表で弁護士の牛島聡美氏と、同アドバイザーで産業技術総合研究所主任研究員の歌川学氏による報告会の様子を紹介する。
欧州、中国では導入がすすむ直流送電線
報告会では最初に、環境ウォッチTOKYOアドバイザーで環境監査研究所の後藤敏彦氏から、気候変動問題やESG投資についての報告があった。後藤氏はESG投資という言葉ができる以前の、SRI(社会的責任投資)といわれていた時代から環境と金融に専門的にかかわってきた専門家だ。その後、牛島氏、歌川氏を始め5名の発表があり、後半にはさまざまなゲストを迎えてのパネルディスカッションが行われた。
今回は、プログラムの中から、牛島聡美氏と歌川学氏の講演を紹介する。
牛島氏からは、海底直流送電線の提案とその背景・意義について報告された。
今回、提言された直流海底送電線計画は、「竜宮送電計画」と名付けられている。海を気候変動から守ることにもつながる海底プロジェクトということで、昔話の「浦島太郎」に登場する竜宮城から命名したようだ。
牛島氏によると、竜宮送電計画の目的は4つあるという。
- 気候変動の被害低減のために急務である再エネ普及を日本でも進めること
- 系統制約問題を解決すること
- 再エネ適地と電力大消費地をつなぎ、広域連系をしやすくすること
- 欧州、中国で導入が進んでいる直流送電を活用すること
実際に欧州や中国では、海底および陸上での直流送電線がかなりの距離にわたって整備されているという。
図は、提言された竜宮送電計画のイメージだが、日本海側と太平洋側を直流送電線で取り囲むというイメージだ。
北海道から九州までつながる太平洋ルートおよび日本海ルートでは、それぞれ距離約2,500km、送電容量1,000万kW、電圧は500kVが想定されている。また、途中の送配電会社の区域内に接続箇所を設けている。
竜宮送電計画提言内容・効果 資料より
なぜ直流なのか
牛島氏は提言として、続けて直流の意義について説明した。
- 交流とくらべて直流の方が、また高電圧の方が、送電ロスが少ない。3,000kmで3%程度だ。
- 長距離の場合、建設費が安い。一般的に交流の電気は三相で送られているため、直流の3倍の送電線を必要としている。こうしたこともあって、日本では北海道と本州、紀伊半島と徳島のそれぞれを結ぶ海底送電線は直流となっている。
- 周波数の違う交流同士をそのままつなぐことは難しいということ。国内で50Hzと60Hzの電気をつなげている周波数変換所では、電気を一度直流にしている。
牛島氏は提案実現にあたっての効果も示した。主な効果は次の6点。
- 再エネ割合を増やせる。
- 将来的にはRE100の見通しが立つ。
- 偏在する再エネを大消費地に送れる。
- 広域連係による再エネ発電量ならし効果で出力抑制を減らせる。
- 電気自動車の再エネニーズへの対応が可能。
- 化石燃料輸入の削減。
この他にも、投資や雇用促進、地域活性化などの効果があるという。
総コスト試算では24兆円
歌川氏からは、建設にあたってのコストの試算などが示された。
歌川氏は、ヨーロッパの主要な海底直流送電線の事例から、最も高い建設単価をもとに試算した。それによると、送電線コストでは英国とベルギーを結ぶNemo Linkが40万円/MW・kmでもっとも高く、変電設備コストはドイツとノルウェーを結ぶNord.Linkが3,660万円/MWともっとも高かったという。
これをもとに、1,000万kW、2,500kmの海底送電線2本と11ヶ所の交流直流変換を行う変電設備のコストを試算した結果、送電線で20兆円、変電設備で4兆円かかるという。合計24兆円かかることになるが、歌川氏はこれを保守的な試算だと付け加える。
ヨーロッパの海底直流送電線で送電線と変電設備のコストがわかっているケースで試算すると、総額14兆円となる。また、自然エネルギー財団の200万kW、1,100km(稚内―柏崎)の連系線の試算を参考にすると10兆円になるという。
一方、システム技術研究所の槌屋治紀氏がWWFジャパンの依頼で作成したシナリオでは、2030年に風力発電6,000万kW、2050年に1億2,000万kWを導入すると前提した場合、必要な地域間連系線のコストは、2030年で約3兆円、2050年で約10兆円になると試算しているという。
いずれにしても、決して小さな額の投資ではない。しかし、歌川氏によると、陸上と洋上で4,000万kWの風力発電を追加で建設すれば、20年間で約18兆円の化石燃料輸入費が削減できるという。その他にも、CO2排出削減や経済波及効果に大きく寄与するものになるということだ。
※114.0円/€、103.8円/$で換算(広域系統長期方針:2017年 電力広域的運営推進機関資料より)
広域系統長期方針:2017年 電力広域的運営推進機関資料より
気候変動は人権侵害
後半のパネルディスカッションでは、いろいろな意見が交わされた。
例えば、海外との連系線については、竜宮送電計画には含まれていないが、日本と韓国、日本とロシアのサハリンとの間での連系線という考えもある。サハリンで産出する天然ガスによる火力発電所の電気を調整電源として使うことも可能だ。
また、日本全体ではなく、北海道-新潟間など部分的に建設していくことでもいいのではないか、という意見も出された。
弁護士でもある牛島氏が気候変動問題に取り組む背景には、環境問題が人権侵害だという認識があるという。
また、後藤氏は、国連において、人権デューデリジェンスの義務付けが進んでおり、一部の国で検討が進んでいるということを紹介した。人権デューデリジェンスとは、企業に対して児童労働や先住民の権利侵害などが起きていないか、評価されるというものだ。
こうした流れにあって、日本においても気候変動対策として再エネ導入を拡大する基盤となる施策として、海底直流送電線そのものは、きちんと検討されるべきものだろう。
(Text:本橋 恵一)
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