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脱炭素化を進める台湾の太陽光発電 最新導入状況:政策目標による急拡大と影響

脱炭素化を進める台湾の太陽光発電 最新導入状況:政策目標による急拡大と影響

2020年10月30日

非核家園、永続台湾

JETRO・アジア経済研究所研究員で東アジアのエネルギー問題の専門家、台湾在住の鄭 方婷(チェン・ファンティン)氏によるレポートをお届けする。前回は、台湾の洋上風力発電に関する最新の政府方針と、半導体製造世界最大手のTSMCによる洋上風力大型買電契約(PPA)に焦点を当てた。今回からは複数回にわたり、台湾で洋上風力とともに新エネルギーの主力の一つとして期待される太陽光発電について、導入状況や政策目標、開発状況、課題及び対策について紹介する。

再生可能エネルギー目標達成の要となる太陽光発電

台湾は再生可能エネルギーの拡大を目指す中で、太陽光発電を政策の主要な柱の一つに据えている。この背景には、台湾には既に太陽光発電に関する成熟した技術とサプライチェーンがあり、洋上風力と違って海外勢に頼らずとも大いに推進が可能というメリットがある。

実際、太陽光発電は政策としては以前から風力よりも重点が置かれ、より大きな数値目標が設定されている。2009年、「エネルギー管理法」の改正や「再生エネルギー開発条例」の制定で、再生可能エネルギーの普及のための固定価格買取制度(Feed-in Tariff: FIT)*が導入されたことを受け、以降台湾では、太陽光発電を中心に再生可能エネルギーの導入が進められてきた。表1は、現在の台湾における太陽光発電の分類である。

*FITとは、電力会社をはじめとする民間設備が再生可能エネルギーのみを使用して発電した電気について、一定期間中に同じ価格で買い取られるよう政府が保証する制度である。

出所:筆者作成。

太陽光発電にも風力発電と同じく陸上タイプと水上タイプがあり、どちらも基本的には設置する場所や面積により分類されている。

まず陸上タイプには地面型と屋上型があり、地面型には装置容量・設置面積の大きなメガソーラー等と、2ヘクタール以下の小規模な「小光電」の区別がある。屋上型は規模というよりは設置する建物によって、それぞれ工場型や、ビル・住宅に設置されるタイプの住宅型などがある。

水上タイプは、後述のように発電装置の設置場所によって地面型と屋上型に分けられる。設置可能な発電装置の面積によって、規模の大きなダム・遊水池等と、規模の小さな灌漑用水源・ため池等の間で区別がなされている。

ここで忘れてはならないのが陸上、水上どちらにも展開されている「ソーラーシェアリング」である。台湾では陸上用が「農電共生」または「営農型」、水上用が「漁電共生」と呼ばれ近年注目されている(写真1)。
「農電共生」の例としては、田畑の周りに支柱を立てて上方にパネルを設置し、発電しつつ屋根としても機能させるものがあり、大雨や猛暑による農作物への悪影響を緩和できるため一石二鳥である。

一方「漁電共生」には2通りがあり、水産養殖場の水面に太陽光パネルを浮かせるように設置するパターンと、「農電共生」と同じように養殖池の上方空間を利用するパターンがある。前者は水上タイプの地面型、後者は屋上型というわけだが、地面型は行政的には「土地」、屋上型は「建物」の扱いとなる。

出所:台湾経済部HPより。

全体としての政策目標:2025年までに20GW

政策として太陽光発電の拡大が推進されたのは、馬英九前政権(2008年~2016年)からである。2012年には屋上型太陽光を推進することが決定され、当時の0.23MW程度から2030年までに3,100MW(=3.1GW)程度まで増やすという目標が立てられた。

2016年に発足した蔡英文現政権は更に野心的であり、2025年の再生可能エネルギーを全体の20%にするという目標が設定されている。この目標の実現には、再エネの発電装置容量を合計27GW程度にしなければならず、政府方針では27GWのうち20GWを太陽光発電で賄うことになっている。台湾のエネルギー転換政策の成否は太陽光発電にかかっていると言っても過言ではない。

更に、太陽光発電20GWという目標のうち14〜15GWは、比較的普及が進んでいる陸上地面型とすることになっているが、この目標達成には更に約2万ヘクタールの太陽光パネル設置面積が必要となる。近年、陸上地面型のうち「小光電(小規模な発電施設)」が急速に増えてきたとはいえ、目標達成にはまだほど遠いのが現状である。一方で政府は屋上型を5~6GWまで増やし、地面型とあわせて20GWとする方針であり、一般住宅のほか公立学校、政府機関、工場、ソーラーシェアリングなどもその対象となっている。

太陽光発電の推進状況 2008年と比較してどのように増えているのか

それでは2008年以降、再生可能エネルギーの発電設備容量はどれほど増えたのだろうか。2008年と比較すると、2019年には再生可能エネルギー全体で約2.7倍、風力発電は3.4倍となったのに対し、太陽光発電は740倍と、増加率が著しく高い(図1)。前述のように太陽光発電の技術的ハードルの低さと国内のサプライチェーンが十分に整っているため、急速な拡大のために残る課題は設置スペースの確保である。

出所:筆者作成。経済部能源局データベース。

政府の2020年中期目標では、太陽光発電の設備容量を6.5GWにするとあるが、この目標達成は土地の調達で難航している。そこで経済部や農業委員会(農水省に相当)は、管轄している塩害や地盤沈下等の問題がある区域をはじめ、農耕作に不向きな土地2万ヘクタールを貸出し、営農型太陽光発電を視野に開発業者へ提供する準備を進めている。現在は開発業者や環境保護団体等との話し合いを経て、国有地や自治体が管理する土地、公営事業の所有地などを精査するという緊急の対応に追われている。

太陽光発電の乱開発に対する懸念、そして政府による緊急対応

急速に拡大する太陽光発電だが、その裏では山林での乱開発が問題となっている。原因は二つある。一つは、太陽光発電所の建設には、湿地など国の指定保有地以外であれば環境影響評価などが適用されないこと、もう一つは2ヘクタール以下の農耕地は行政手続きなしで土地用途変更ができるという、法律の盲点である。特に後者を利用した「小光電」の乱開発が問題となっており、例えば太陽光発電事業者が相場よりはるかに高い賃料で農家から農業用地を借りて発電事業を営むといった例が多く報告されている。山林の乱開発や農地転用に対しメディアや環境団体、地域コミュニティからは、耕作放棄地の増加や野生動物の生息地の消失につながるという強い懸念の声が上がっている。

この状況を受け、主管の農業委員会は、今年(2020)の7月、特段の事情を除いて2ヘクタール以下の農業地は土地用途の変更を不可とし、2ヘクタール以上の農地についても用途変更がある場合は同委員会が審査するという新たな規定を公告した。

しかしこの突然の政令に対し、国内の太陽光発電事業者が猛反発し、「このような対策であれば太陽光発電の目標達成は到底できない」と、政府の立場を厳しく批判した。

この事態を受け、行政院は統括する経済部や農業委員会など部門間で調整を行い、先に述べた通り「2万ヘクタールの農業不適合地を太陽光発電に貸し出す」ことで事態の鎮静化を図ったのである。

この事例の根底には、太陽光発電の拡大には欠かすことのできない緻密な国土開発計画が不十分であることと、政府各部門間の調整不足という大きな問題がある。さらに、生態環境、伝統的な生活様式の維持など、ローカルな環境とのバランスを取ることに関する指針も定まっておらず、課題は多い。

台湾の太陽光発電・急拡大がもたらす影響とは

今回は、台湾政府が推進してきた太陽光発電の政策目標と進捗や課題に焦点を当てた。太陽光発電の急速な拡大によりもたらされる環境・生態系の破壊や耕作放棄など様々な影響が出始めており、今後は地方自治体独自の対策も求められるようになるだろう。これらの状況については、今後の連載にて詳細に説明していく予定である。

(写真:中村加代子)
鄭方婷
鄭方婷

国立台湾大学政治学部卒業。東京大学博士学位取得(法学・学術)。東京大学東洋文化研究所研究補佐を経てJETRO・アジア経済研究所。現在は国立台湾大学にて客員研究員として海外駐在している。主な著書に「重複レジームと気候変動交渉:米中対立から協調、そして「パリ協定」へ」(現代図書)「The Strategic Partnerships on Climate Change in Asia-Pacific Context: Dynamics of Sino-U.S. Cooperation,」(Springer)など。 https://www.ide.go.jp/Japanese/Researchers/cheng_fangting.html

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