Power Ledger - ブロックチェーンによるP2P取引でエネルギーの民主化に挑む:海外エネルギーテックインタビュー | EnergyShift

脱炭素を面白く

EnergyShift(エナジーシフト)
EnergyShift(エナジーシフト)

Power Ledger - ブロックチェーンによるP2P取引でエネルギーの民主化に挑む:海外エネルギーテックインタビュー

Power Ledger - ブロックチェーンによるP2P取引でエネルギーの民主化に挑む:海外エネルギーテックインタビュー

2020年05月22日

第1回は、Power Ledgerの共同創業者兼会長のJemma Green氏だ。Power Ledgerは、エネルギー業界におけるブロックチェーン技術を活用した取引プラットフォームのリーディングカンパニーのひとつとして知られている。Power Ledgerの現在、そして未来についてGreen氏に語っていただいた。

9ヶ国20件のプロジェクトが進行するエネルギーテックカンパニー、Power Ledgerの強みとは

―本日は、大きく3つのことについてお話を聞きたいと思っています。ひとつ目は、Power Ledgerの現在の取り組み。2つ目は、ブロックチェーンの現状と未来。3つ目は新型コロナウイルス(COVID-19)のエネルギーセクター及びPower Ledgerへのインパクトです。最初にPower Ledgerが現在何をしているのか、簡潔にお話いただけますか。

Jemma Green氏Power Ledgerはテクノロジーカンパニーであり、ブロックチェーンを活用して電力トレーディングや環境価値の取引を促進しています。設立してから4年目で、現在20件のプロジェクトを9ヶ国で行っています。
私たちはさまざまなタイプのビジネスを行っています。その1つに電力トレーディングのプラットフォームがあります。例えば、太陽光発電や風力発電からの電気のP2P(Peer to Peer)取引です。そこでは消費者がどういうエネルギーミックスの電気を使うのか、を選べるようなビジネスを行っています。
また、RECs(再生可能エネルギー証書)などの環境価値取引については、ナスダック市場に上場しているアメリカのClearway Energy社と一緒に取り組んでいます。

―Power Ledgerはエネルギー×ブロックチェーンの領域で、世界中で多くのユーティリティと提携し、たくさんのユースケースを有していますね。このように顕著な実績を作ることができたのはなぜですか? 言い換えれば、Power LedgerのUSP(ユニークセリングプロポジション)は何でしょうか。

Green氏:私たちは今、新しいエネルギーマーケットのOS(オペレーションシステム)を構築しようとしています。
なぜ私たちがこんなに多くの海外の優れたユーティリティ企業と協業できているかと言うと、Power Ledgerのテクノロジーを売りたいということよりも、パートナー企業にどのような課題があるのかをしっかり理解をしたいと考えていること、そしてパートナー企業のどういった大望をPower Ledgerのテクノロジーがサポートできるかということを知りたいということを考えているからであり、そのためにさまざまなパートナー企業と協業しています。
私たちは協業する企業をクライアントではなく、パートナーと呼んでいます。本質的な課題を解決するために一緒に戦っているというスタンスなので、さまざまなパートナーの輪が広がっているのです。

Power Ledgerウェブサイト

ブロックチェーン技術のポテンシャルは、エネルギーセクターを変革する

―Power Ledgerと他の競合企業との違いは何でしょうか。

Green氏:ブロックチェーン技術のポテンシャルは、エネルギーセクターを変革します。(ブロックチェーン技術の利点として)トランザクションの効率化と透明性を持たせるという点が挙げられます。この特性を使って、トランザクションを記録して、より取引の信頼性を高めることに取り組んでいます。

エネルギーマーケットにおけるブロックチェーンのベネフィットは、複雑なプレイヤーが介在するトランザクションをシンプルにするという点があります。
スマートコントラクト(プログラミングによりスマート化された契約のプロトコル)は、収益の流れから最大の価値を獲得するために市場を最適化することができます。より速く電力を売買することを促進するという点で、ブロックチェーンは有効です。
RECsの取引においては、実物面と金銭面の決済が重要ですが、(トランザクションが記録されることで)重複してRECsを取り扱ってしまうリスクを減らせるというメリットもありますし、透明性を担保できる点も大きいです。
以上がブロックチェーンの話です。ここからPower Ledgerが競合他社と違う点についてお話しします。

Power Ledgerはデュアルトークンモデル(2種類のトークンを組み合わせたモデル)を採用しています。これは、世界中で行われているのと同じように、エネルギーを取引する際に使われます。

Power Ledgerには、POWRとsparkzという2種類のトークンがあります。

POWRはユーティリティにとっての債券(bond)に相当し、どの程度の取引をするかによって、どのくらいPOWRを購入するかが変わってきます。そして、このPOWRトークンをsparkzにエスクロー(中立的な第三者となる仕組みを通じて交換)します。

一方でsparkzは(価値が決められた)ステーブルトークンであり、(価値の単位は)もっとも低い法定通貨に相当します。日本であれば1sparkz=1円、オーストラリアであれば1sparkz=1オーストラリアセントとなります。顧客はsparkzを使ってお互いに取引をします。より多くのsparkzが必要であれば、ユーティリティによってPOWRが購入される必要があります。これがPOWRとsparkzの関係です。

トークンを別の方法で使うエネルギー系のブロックチェーン企業もあります。例えば、ある企業はブロックチェーンにデータを書き込むためにトークンを必要としていますし、あるいは電力市場のためにブロックチェーンを開発していたりします。

私たちの場合は、POWRのために公平にブロックチェーンを使っていますし、sparkzのためのブロックチェーンを社内に持っています。
電力市場のためのブロックチェーン、およびそのブロックチェーンのニーズの特徴は、時間が経てば、より明確になり、より知られるようになると考えていますが、現時点では時期尚早だと思います。

商用化がすすむエネルギー×ブロックチェーン

― Power Ledgerのアプリケーションが商用化されている事例をご紹介ください。

Green氏:3つ事例をご紹介します。

ひとつ目は、フランスのekWateur社という小売電気事業者との協業です。
ekWateurとのプロジェクトでは、同社の約220,000世帯の顧客に対し、それぞれPower Ledgerのプラットフォームにアクセスできるようにしています。顧客はプラットフォームにアクセスすることで、自分がどういうエネルギーミックスの電気の供給を受けているのかを知ることができます。
このプラットフォームの機能を通じて、顧客はどのタイプの、どのロケーションの発電源のエネルギーを得たいかを選ぶことができます。例えば、どの太陽光発電、あるいはどの風力発電でつくられた電気の供給を受けたいかを選べるのです。

ekWateur社事例 サービスイメージ 顧客は自分が受けている電気がどこ由来かを知ることができる。

2つ目は、先ほどお話ししたアメリカのClearway Energy社の事例です。Clearway Energy社とのプロジェクトでは、Power Ledgerのプラットフォームを通じてRECsを取引するということを共同で行っています。Clearway Energy社は6GW程度の再エネ電源を保有しており、この電源由来のRECsが取引されます。

米国のRECsの市場は約30億ドルの規模があり、そのほとんどの取引はブローカーやアグリゲーターによって行われていますが、このトランザクションには多くの仲介者が介在し、複雑な手続きが必要です。この取引にあたって、多くの価格証明書を読み込むことができますが、そこには調整コストと取引決済コストが加わります。Power Ledgerのプラットフォーム上では、ブロックチェーンを活用することで、売り手と買い手の間に介在する仲介機能を必要とせず、決済的にも物理的にも取引が可能になるという価値があります。

Clearway Energy社がPower Ledgerとパートナーシップを組もうとした理由は、同社がRECsを売る際に、ブロックチェーンがもつ透明性(transparency)とPower Ledgerのテクノロジーを通じてRECsの取引に、より大きな価値を提供できると考えたからです。

Clearway Energy社事例 サービスイメージ Power Ledgerのプラットフォームを通じてRECsを取引している。

そして最後の事例は、ドイツの蓄電池メーカーsonnen社とのプロジェクトです。このプロジェクトでは、オーストラリアの電力会社Power Clubとも協業し、VPP(バーチャルパワープラント)を構築しています。蓄電池を所有する家庭が、電気の価格がピークになった際に蓄電池内の電気を放電・売電し、収益を最大化できるような仕組みを作っています。

sonnen社事例サービスイメージ VPPの中心にPower Ledger社がいる。

これら3つのプロジェクトを通じて、どのようにPower Ledgerのテクノロジーが商用化されているかがお分かりいただけるかと思います。

P2P普及が与える電力業界へのインパクト

―ありがとうございます。P2P電力が普及したら、コンシューマ、プロシューマ、ユーティリティ、TSO/DSO*にどのような影響を与えるとお考えですか?

Green氏:インパクトは大きいと思っています。
従来は電力会社が巨大な発電所を所有し、そこから電気を供給してきましたが、こうした事業のあり方が変わります。この15年で状況が変わりつつあり、例えばルーフトップソーラーやメガソーラー、風力発電が入ってきて、TSO/DSOの役割は大きく変わっています。
再生可能エネルギーは変動が大きいので、電力系統に対しての負荷が大きくなっています。したがって、火力発電所を太陽光発電に置き換えれば良いという単純な問題ではありません。

Power Ledgerのテクノロジーは、(再生可能エネルギーに)マーケットメカニズム、すなわち顧客が買うという行動を結びつけるものであり、それによってより電力系統を安定化させるということができるのです。
従来はフィジカルなシステムがあって、その上にマーケットが成り立つという状況でしたが、このテクノロジーを使うことで反転します。すなわち、マーケットを作ることによって、フィジカルなシステムを成り立たせることができるのです。

このインパクトはとても大きいと思っています。電気のP2P取引だけではなく電力ネットワーク全体を変えるものだと思います。例えば、顧客がどの発電所からどういう種類の電気を買うのか、といった購買行動を変化させ、影響を与えるものです。

―P2P電力取引をすることによって、プロシューマとコンシューマに経済的なメリットが生まれるものだと考えていますが、電力会社にとってマージン(利潤)は減るのでしょうか。

Green氏:P2Pに限らず、コンシューマは自分で電気を売るプロシューマへと変わってきています。私たちがサポートしているのは、コンシューマが系統に寄与するという関係を保つことであり、このことを通じて、買う側と売る側を繋ぎ合わせているのが、私たちのテクノロジーです。
電力会社においても、この売る側と買う側の関係性が変わっていくということは理解しないといけません。その上でなお、顧客との関係性をしっかり保っていくためにはどうすれば良いか考えなくてはいけないということです。

―P2P電力取引を普及させるために乗り越えるべき課題は何でしょうか。

Green氏:巨大な電力会社は大きな発電設備を持っていますが、顧客も自分の発電設備を持っています。

ただ、将来を見据えた考えを持つ電力会社は、自分たちがイノベーティブにならないと他の企業にディスラプト(破壊)されてしまうということを認識しています。規制の面でP2P取引は考慮されてこなかったので、(規制にとらわれずに)変わっていかなければなりません。

ただ、オーストラリア政府には規制を取っ払うことでP2Pの取引を促進する動きはあります。実際に、インドやマレーシアからは政府の視察団が来て、どうすればエネルギー市場をデジタル化できるかということをヒアリングしに来たりしています。

もうひとつの障壁としては、認知拡大、つまりしっかりと周りの人たちに、P2P取引に関する事実を知ってもらう必要があります。私たちが4年前に始めた時と今では大きく状況が変化し、P2P取引に興味を持ってくれる人はどんどん増えていますが、これをさらに広めていくにはより多くの人に理解していただくことが必要です。

*TSO:送電系統運用者(Transmission System Operator)、DSO:配電系統運用者(Distribution System Operator)

新型コロナウイルスが与えるエネルギー市場へのインパクト

―新型コロナウイルス(COVID-19)がPower Ledgerおよびエネルギー市場に与える影響についても、見解をお聞かせいただけますか? ある意味、電力需要家にとってエネルギーとの向き合い方が変わるタイミングでもあるのではないかと思っているのですが。

Green氏:良い質問ですね。ちょうど私はforbesでCOVID-19に関する記事を執筆しましたので、こちらもご参照ください。

COVID-19は第一次世界大戦のように世界的に大きな影響がありますが、それと同時に新しい変化へのカタリスト(変化のきっかけ)でもあると思っています。

第一次世界大戦を通じて多くの女性が働きに出て、選挙権が得られるようになり、化学やマスラジオ(大衆向けラジオ放送)、旅行などの多くの産業が発達しました。将来に根ざした企業となるというのは、起こると思っていなかったことを実現する企業です。今回のCOVID-19も、こういった大胆な変化をもたらすのではないでしょうか。

ハウスメーカーの中には、COVID-19によって販売する内容を絞り、価格を下げなければならない企業もあります。例えば、家はオーナーが所有しますが、太陽光発電システムは自分で所有せずPVプロバイダーが所有するというような、新しいファイナンスパッケージを提供するというものです。この場合、家のオーナーが使いきれずに余った電力を売電することで採算を取っているのです。

また、電力をやり取りすることで、ハードウェア、文具などと交換できます、というようなプログラムもあります。そういうバウチャー(クーポン)を発行することで、顧客はオンラインでもバウチャーを利用することができますし、電力会社側は新規顧客を獲得することができるので、お互いにwin-winな関係になります。こういった危機的な状況でも、いくらでも可能性を見出すことはできます。

世界中のエネルギー市場を民主化する

―では、このインタビュー時間も終わりに近づいてきましたが、Power Ledgerの今後の展望について教えてください。

Green氏:Power Ledgerにはいくつかのビジョンがありますが、そのうちのひとつに「世界中のエネルギー市場を民主化する」というものがあります。これは、エネルギーにアクセスする全ての人々がエネルギーを取引でき、それによって人々の生活も向上できるような世界観を目指すということです。
私たちは、エネルギー市場を変革することに貢献し、また世界の(電力に十分アクセスできないとされる)10億人の人々の生活を、よりサステイナブルにかつポジティブにすることに貢献した企業だと認識されたいと思っています。

―最後に、日本のEnergyShiftの読者に一言お願いします。

Green氏:オーストラリアのエネルギー市場には多くの課題があります。なぜなら、古い巨大な発電施設が引退する一方で多くの再生可能エネルギーが増えている状況だからです。
これは、日本の現状と似ているのではないでしょうか? それを大きく変えるために、レジリエントでローコストかつクリーンなエネルギーを増やしていかなければならないと思っています。そのイノベーションにおいて、日本は最先端を行っていると思います。

インタビューを終えて

2017年頃より、エネルギー業界ではブロックチェーンを活用したPoC(実証実験)が世界中で数多く行われています。しかし、PoCで留まってしまい、商用化に繋がっていない事例が大半と言っても過言ではありません。
その中で、Power Ledgerはエネルギー業界におけるブロックチェーン技術を活用する企業のリーディングカンパニーの1つとして知られており、今回のJemma Green氏へのインタビューを通じて、多くのユースケースの中から着実に商用化を進めていることが分かりました。エネルギー×ブロックチェーンの領域ではP2P電力取引がフィーチャーされがちですが、電力業界の法制度やブロックチェーンのスケーラビリティ問題等を考慮すると、実は環境価値取引がもっとも普及が早いのではないかと思いました。

井口和宏
井口和宏

株式会社シェアリングエネルギー 事業開発室長 URL:https://share-denki.com/ 株式会社アイアンドシー・クルーズにて、新電力会社設立、国内最大級プロパンガス一括見積もりサービス等、主にエネルギー領域における新規事業開発に従事。2018年1月に株式会社シェアリングエネルギー参画。太陽光発電のPPAモデル「シェアでんき」やブロックチェーンを活用したP2P電力取引のPoCをはじめ、同社の事業開発を推進する。 経済産業省委託「再エネ電力のブロックチェーンを用いた取引スキームに関する標準化調査委員(2018)」。慶應義塾大学総合政策学部卒。 twitter:https://twitter.com/kaziguchi

エネルギーの最新記事