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2050年、脱炭素社会においてソーラーシェアリングは主力電源の一角を担う(前編)千葉エコ・エネルギー 馬上丈司さんに聞く

2050年、脱炭素社会においてソーラーシェアリングは主力電源の一角を担う(前編)

2020年10月19日

これまで、ソーラーシェアリングの現在と将来に向けた課題について、本サイトで連載を続けている、千葉エコ・エネルギー株式会社代表取締役社長の馬上丈司氏に、あらためて起業の経緯から、将来に向けての展望、課題についておうかがいした。(全2回)

後編はこちら

大学発スタートアップとしての千葉エコ・エネルギー

―ソーラーシェアリングに関連した事業を展開し、今日はこうしておじゃましているように、農業もはじめられたということです。最初に、これまでの事業の経緯からお話しいただけますでしょうか。

馬上丈司氏:千葉エコ・エネルギーを設立したのは、2012年になります。当時、千葉大学法経学部で特任講師を務めていたのですが、そのときに設立した、いわば大学発のベンチャー企業になります。当時学生だった創業メンバーのうち2名は、現在は取締役になっています。

最初に取り組んだ仕事は、自治体向けの再生可能エネルギー事業に関するコンサルティングで、補助金を活用した調査事業の支援を受託していました。

当時は太陽光発電のFITの買取価格が40円/kWhで動いていましたが、銀行からは再エネ発電事業の事業性評価について、外資系企業からは日本の法制度に関するデューディリジェンスの相談などもあり、こうしたきっかけから、私自身も再エネ発電事業について学んでいきました。

千葉エコ・エネルギー 馬上丈司 代表取締役社長

―そこから、野立てや屋根置きの太陽光発電ではなく、ソーラーシェアリングへと進むわけですね。

馬上氏:ソーラーシェアリングに取り組み始めたのは、2014年からです。当時は農業がわかるスタッフも社内におらず、苦労しました。

きっかけは、各自治体で太陽光発電が増えるにしたがって、農業と太陽光発電事業が対立するようになってきたからです。そうなると、この先、太陽光発電の拡大に支障になってきます。そこで両立を図る方法として、ソーラーシェアリングに取り組むことにしたんです。

近隣自治体に事例を見に行ったりもしましたし、最初の案件は10kW程度のものでしたが、なかなか融資が決まらないといった経験もしました。その後、千葉県匝瑳市の案件をサポートし、2017年には2億円以上の融資を受けてメガソーラー規模のソーラーシェアリングをつくることもできました。

また、こうした経験を全国に伝えるために、今では年間40回から50回程度の講演活動を行っています。

―再生可能エネルギーには太陽光だけではなく、風力やバイオマスもあります。なぜ太陽光なのですか。

馬上氏:そもそも、大学では地域の再エネで何をするかということが研究テーマでした。したがって、小水力、風力なども手掛け、バイオマスや地熱、洋上風力の調査をお手伝いしたこともあります。そうした中にあって、数千億円単位で地場の企業、地域が参加できる事業というのが、太陽光発電なのです。

2016年に匝瑳市で自社のソーラーシェアリング1号機を建設したときは、周囲の方が本当に事業として成り立つのかを疑問視していましたが、今では太陽光発電のメインストリームの事業となっています。

なぜ疑問視されたかというと、ソーラーシェアリングはEPCコストの面からも高コストだし、農作物や農作業に影響の少ない架台設計についても確立していませんでした。

もっとも、ソーラーシェアリングをやらなくても、野立て案件のビジネスが活発だったということもあります。

しかし、FITの買取価格が下がる一方で、ソーラーシェアリングのコストそのものも大きく下がっています。こうした背景から、21円/kWhの案件を仕込んだ方は少なくありませんし、18円/kWhから14円/kWhのソーラーシェアリング案件のIDを確保している事業者も増えています。

ソーラーシェアリングが持つ野立てに対する優位性とは

―コストの話が出ましたが、どのように変わってきたのでしょうか。

馬上氏:野立てとは事業全体のコスト構造が異なります。パネルの価格は大きく下がりました。一方、土地の造成ですが、こちらはソーラーシェアリングには伐採や伐根など林地開発のコストがないという点で、野立てより優位性があります。

また土地代も低く、農地は1haあたり年間10万円程度から借りることができます。また、固定資産税も、農地であれば年間1万円/ha程度ですが、宅地並み雑種地だと100万円/ha以上もかかることがあります。

他にも、ソーラーシェアリングは草刈りが不要ですし、熱が放散しやすいので、相対的に夏でも発電量が多いですね。両面パネルを使い、農地に白い反射シートを使うと、それだけで発電量は10~15%は上がります。

―今回はインタビューにあたって、千葉市緑区大木戸にあるソーラーシェアリングの発電所・農場におうかがいしているわけですが、ここはどのような経緯で開発されたのでしょうか。

馬上氏:自社で取り組む案件を探している中で、2017年にこの場所に行き当たりました。そして、ソーラーシェアリングとして開発するにあたって、自分たちで農業もやってみることにしました。

条件は恵まれていて、FIT単価は27円/kWhですし、建設コストは18万円/kWとなっています。系統連系にかかる工事負担金も数百万円ですんだということも幸いでした。

さまざまな農作物の栽培が可能

―ここではどのような農作物を育てているのでしょうか。また、一般的にどのような作物が適しているのでしょうか。

馬上氏:最初はニンニクを栽培してみました。現在は新たにショウガにも取り組んでいます。ショウガは多湿な場所で育つので、ソーラーシェアリング下が適しています。

今後は、レタスやキャベツもやってみたいと考えているのですが、課題としては、泥はね対策でしょうか。雨だれが決まった場所に落ちてくるので、地面に何かかぶせておく必要があります。あるいは畝を高くするなどの工夫もして、さまざまな実験をしています。
この他にも、トマトやナスなども生産し、出荷できています。

他の地域では、サツマイモやジャガイモの栽培も行っているし、サトイモは出荷量が上がるという報告もあります。落花生やイチゴもうまくいっているようですし、収穫期が長くなる傾向もあります。

観光農園などでブルーベリーを栽培し、5年間続いているというケースもあります。

―コロナ危機の影響はありましたか。

馬上氏:ニンニクは外食産業向けだったので、出荷先は減りました。ただ、農業生産が落ち込んでも、太陽光発電による収入があるので、安定した事業になるという点では、心強いです。

将来予測に織り込まれた開発規模

―ところで、これからの太陽光発電の拡大にあたっては、ソーラーシェアリングに対する期待は高まっていると思います。

馬上氏:野立てなどソーラーシェアリング以外の太陽光発電ももちろん増えるとは思うのですが、そうした中にあって、JPEA(太陽光発電協会)が将来の導入想定量でソーラーシェアリングについても数字を入れていただいた影響はあると思います。

2050年の太陽光発電の導入想定量では、420GWのうち110GW以上が農地になっています。あるいは、国内の再生可能エネルギーの導入目標を引き上げるために、2030年までに150GWないし200GWの太陽光発電を導入する必要があるという予測もあります。

実際にソーラーシェアリングの導入ポテンシャルは高いのです。日本の農地は現在およそ440万haあります。このうち5~6%にソーラーシェアリングを導入すれば、150GW~200GWが十分実現できると思います。全国に250万haある水田は、農地としても集約化がすすんでおり、導入しやすいと考えられます。問題は、その開発を誰が担うかということです。

―実際にそれだけの開発を進めていくには何が必要なのでしょうか。

馬上氏:第一にEPCを担える事業者が少ないことです。EPCの業界ではまだソーラーシェアリングの設計・施工経験が少ない。

第二にファイナンスの問題ですが、こちらはJAバンクが融資をはじめています。加えて、日本政策金融公庫が前向きになってくれば、地銀や信金が協調融資に応じるでしょう。

第三に主体となる事業者がいないことです。農家を事業主体にするといっても、農家そのものが減少しています。実質的な農業従事者は100万人程度に減少していく見通しで、これで100GW、農家1人あたり1MWを担うのは無理でしょう。そうすると、誰が担うのか。

1つは自治体や地域新電力です。あるいは地域が大手資本をどこまで受け入れるのか。地方創生でも企業の受入れを進めていますが、どうでしょうか。実際に、50kWの案件を地場の建設会社が自社開発して農業まで行っている事例はあります。

まだ250kW未満であれば、全量FITの対象として残っています。この規模でまだまだできるのでしょうか。実は、500kW未満まで全量FITで入札外として残していただきたいと経済産業省に提案していたのです。というのも、農地は1ha単位で考えられていますが、これがDC1MW、AC500kWのサイズになるのです。この規模であれば、農業はやりやすいですし、コスト効率的な導入ができます。

ソーラーシェアリングのメリットは地域への貢献です。農業を行っているということで、地域に密着した取り組みというストーリーをつくりやすい。これは野立てにはないことです。

最近、企業の新人研修で農業をやってもらう、という事業を考えています。実際に農場を提供しているところは千葉県内にたくさんあります。こうした研修を通じて、企業と農業をつなげていくことができれば、その先の顧客も引き寄せることができます。そうしたところでストーリーをつくっていけます。問題は、つなげていく役割を担う新電力が育っていないことです。

―その点では、生活協同組合などはどうでしょうか。

馬上氏:そこはぜひやって欲しいところです。ただ、それに限らず、千葉県だけではなく、埼玉県や神奈川県に首都圏近郊型の農地がたくさんあります。郊外型のショッピングモールであればPPAによって自営線で供給することもできると思うのです。

(後編はこちら)

(Interview&Text:本橋恵一、前田雄大、小田理恵、Photo:岩田勇介)

プロフィール

馬上丈司
馬上丈司

1983年生まれ。千葉エコ・エネルギー株式会社代表取締役。一般社団法人太陽光発電事業者連盟専務理事。千葉大学人文社会科学研究科公共研究専攻博士後期課程を修了し、日本初となる博士(公共学)の学位を授与される。専門はエネルギー政策、公共政策、地域政策。2012年10月に大学発ベンチャーとして千葉エコ・エネルギー株式会社を設立し、国内外で自然エネルギーによる地域振興事業に携わっている。

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