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7大商社、脱炭素で事業見直し 石炭権益を相次ぎ売却

7大商社、脱炭素で事業見直し 石炭権益を相次ぎ売却

2021年08月19日

脱炭素への取り組みが加速する中、7大商社の間でCO2排出量が多い石炭開発事業の売却や石炭火力発電からの撤退など、事業見直しが相次いでいる。住友商事は8月17日、発電用燃料に使われる一般炭の権益を保有するオーストラリアの「ロレストン炭鉱」をスイスの資源大手、グレンコア子会社に売却すると発表した。

脱炭素に反する石炭事業は、企業価値を大きく下げる

石炭火力発電など、化石燃料を多く使う企業やプロジェクトは脱炭素に後ろ向きだとして、欧米の金融機関を中心に投資撤退の動きが広がりつつある。石炭をめぐっては、日本のメガバンクも投融資を停止する方針を掲げている。銀行や機関投資家から、脱炭素に消極的な企業だとみなされると、資金が引き揚げられ、企業価値が大きく下がりかねない。

7大商社は、これまでオーストラリアなど海外の一般炭鉱の権益を獲得し、国内の大手電力会社などへ発電用燃料として石炭を供給するなど、石炭事業を収益源のひとつとしてきた。しかし、世界的に脱炭素が加速する中、石炭事業の継続が逆に収益を悪化させかねず、事業見直しはもはや避けられない状況となっている。

7大商社の一角である住友商事は2003年に、伊藤忠商事などと共同で権益を取得したオーストラリアクイーンズランド州にあるロレストン一般炭鉱について、保有する12.5%分の権益をグレンコア子会社に売却することを決めた。

住友商事は今年5月、CO2排出量が多い石炭火力について、一般炭鉱山の新規権益は取得せず、2030年に持ち分生産量をゼロにするなど、脱炭素への取り組みを厳格化していた。さらに石炭火力についても、新たな発電事業および建設工事の請負から撤退し、2040年代後半にはすべての事業を終え、石炭火力発電事業そのものから撤退する目標も掲げている。

目標達成に向けては、ロレストン一般炭鉱の保有は許されず、今回、権益売却に至った。

双日、丸紅、伊藤忠も脱石炭

他の7大商社も脱石炭に舵を切る。

双日は今年3月、脱炭素実現に向け、一般炭権益を2025年までに半分以下、2030年までにゼロにするといった目標を表明した。石油権益に関しても2030年までにゼロとし、2050年までに原料炭権益をゼロにすることで、完全撤退を決めた。

丸紅も同時期に脱石炭を掲げ、2025年に石炭火力の発電容量を半減させ、2030年には約1.3GWまで低減させる方針だ。

伊藤忠商事は2023年度までに、発電用燃料に使われる一般炭の権益から完全撤退する。売却する権益は南米コロンビアのドラモンド炭鉱、オーストラリアのモールス・クリーク炭鉱とレブンスワース・ノース炭鉱の3つだ。同社は脱炭素を受け、完全撤退に踏み切った。

三菱商事、ベトナム石炭火力から撤退報道

CO2排出量が多い石炭火力をめぐっては、環境NGOなどから撤退を求める声が高まっている。

そのひとつが、ベトナムで計画中の石炭火力発電所だ。ベトナム南部で建設が計画されていた「ビンタン3」には日本から三菱商事などが出資し、2024年の稼働を予定していた。しかし、気候変動に対する懸念から、協調融資団から英スタンダードチャータードやHSBCなどが撤退を表明、三菱商事も今年3月、「ビンタン3」からの撤退方針を固めたと報じられている。

ただし、三菱商事は同じくベトナムで計画中の「ブンアン2」石炭火力発電所に関しては撤退せず、「ブンアン2」を最後に新たな石炭火力には取り組まない方針だ。

石炭火力に対する国際世論の反応は厳しく、三井物産も今年1月、モザンビークのモアティーズ炭鉱はじめ、関連する鉄道・港湾インフラ事業をブラジルの資源大手、ヴァーレに売却すると発表している。さらに今年6月にはインドネシアのパイトン石炭火力発電所の株式をタイのRATCH社に売却することを決めた。

石炭に代わる収益源を育てなければ

7大商社は石炭事業からの完全撤退が避けられない中、石炭に代わる収益源を育てようと、新たな事業創出に取り組んでいる。収益源のひとつに期待するのが、燃焼時にCO2を排出しない水素やアンモニアである。

三菱商事や三井物産は千代田化工建設などと組み、安価で大量の水素をブルネイから日本に輸送しようと、サプライチェーンの構築を目指し、実証実験に取り組む。

住友商事と丸紅が参画するコンソーシアムは今年3月、オーストラリア産水素の大量輸送に向け、ビクトリア州に水素精製設備や積荷基地などを建設し、2021年中にも日豪間での水素輸送試験を実施する計画だ。

水素はLNG(液化天然ガス)に代わる燃料としてだけではなく、FCV(燃料電池車)や航空機、船舶燃料のほか、水素還元製鉄など、自動車、航空、海運、鉄鋼業界などで活用され、使用量は膨大になると想定されている。実際、日本政府は2030年に最大300万トン、2050年には2,000万トンの導入目標を掲げている。

また、アンモニアは石炭に代わる発電燃料として期待されており、伊藤忠商事は東シベリアからアンモニアを日本に輸送しようと、事業化調査を進めている。

豊田通商は、船舶用燃料の脱石油を目指し、シンガポールで廃棄食用油から製造したバイオ燃料を日本企業の外航船に供給する実証をはじめている。このほか、三井物産などはCO2を回収し地中にためるCCUSの事業化を狙っており、丸紅はイギリスなどで洋上風力の開発に参入している。

7大商社は、水素・アンモニアなど脱炭素に関連する事業を石炭事業に代わる収益源に育てたい考えだ。

EnergyShift編集部
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