2021年6月8日、令和3年版の環境白書が閣議決定され、公表された。今年のテーマは「2050年カーボンニュートラルに向けた経済社会のリデザイン(再設計)」となっている。コロナ危機以降、脱炭素社会に向けてどのような取り組みを進めていく必要があるのか。今回の白書のポイントを解説する。
「環境白書」は、環境基本法に基づく国会への年次報告書。現在は、同じく循環型社会形成推進基本法に基づく「循環型社会白書」、生物多様性基本法に基づく「生物多様性白書」と組み合わされる形でまとめられ、公表されている。
「令和3年版 環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書」(以下、環境白書)は2021年6月8日に閣議決定され公表された。第1部「総説」と第2部「令和2年度に講じた施策」の2部構成となっているが、第1部はその年の重要なテーマに基づく内容となっている。
令和3年版では、「2050年カーボンニュートラルに向けた経済社会のリデザイン(再設計)」となっており、新型コロナウイルス感染症の拡大を通じて国内外で起きた環境面・経済面・社会面の変化と気候変動問題や生物多様性の保全に関わる内容となっている。リデザインとは、人間活動と自然との共生の再考に基づくものとなる。
第1章「経済社会のリデザイン(再設計)と3つの移行」では、最初に新興感染症の問題が指摘されている。新型コロナウイルスのような、1960年以降の新興感染症の30%以上は、森林減少や土地利用の変化などが発生要因になっているということだ。
一方、新型コロナウイルスの感染拡大は外出自粛とテレワークの拡大等で、ライフスタイルを大きく変化させ、電力消費についてもおおむね減少させている。ただし家庭部門は増加している。一方、一般廃棄物は前年比で最大12%の減少となっている。この他にも、データ通信量や物流、首都圏からの移住など、さまざまな変化が指摘されている。
また、気候変動問題という視点では、2020年の世界の平均気温は2016年と並んで観測史上最大となり、米国の森林火災や急激な寒波、九州など日本各地における豪雨が紹介され、気候リスクが高まっているとしている。また、2019年の世界の温室効果ガス排出量は約591億トンとなり、今世紀中に3℃以上上昇する、パリ協定の目標達成からは遠い状況であることも指摘している。一方、国内に目を向けると、2019年度の温室効果ガス排出量はエネルギー消費の減少と電力の低炭素化で2013年度比14%削減となったという。
いずれにせよ、コロナ危機と気候危機に対応していくためには、持続可能で強靭な経済社会のリデザインを進める必要があるとしている。
第2章「脱炭素社会・循環経済・分散型社会への3つの移行」では、それぞれに関する主要な取り組みの方向性が示されている。
脱炭素社会に向けて、最初に示されるのは、地域での取り組みだ。「地域脱炭素ロードマップ」を検討し、100ヶ所以上の脱炭素モデルケースを創出、各地でゼロカーボンシティの創出を目指すという。また、グリーン×デジタルによるライフスタイルイノベーション、社会を脱炭素に変えるルールのイノベーションとして、CO2の見える化や風力発電等の環境アセスメントの最適化、地熱発電の開発加速化、住宅・建築の脱炭素化など、ロードマップに基づくさまざまな政策が紹介される。
この他、再生可能エネルギーの拡大、カーボンプライシングの検討、石炭火力発電の輸出の厳格化やゼロエミッション火力の開発・実証、イノベーションの創出などが示されている。
大きく取り上げられているのは、ESG投資の推進だ。社会にポジティブなインパクトを与える、いわゆる「インパクトファイナンス」で、大規模な民間投資を巻き込む一方、地域金融を通じてローカルなSDGsを図るとしている。
循環経済については、サーキュラーエコノミーへの変化や、特にプラスチック資源循環が、また、分散型社会については、持続可能で強靭な地域づくりとならんで、気候変動に対応した防災や適応復興で気象災害に備えることなどが示されている。
第3章「地域や私たちが始める持続可能な社会づくり」では、さまざまな事例が紹介されている。具体的なものとしては、エネルギーの地産地消として電気バスを走らせているでんき宇奈月の事例や、より良い選択を自発的にさせる「ナッジ」を利用した楽天の実証、日本マクドナルドにおけるフィレオフィッシュなどでの持続可能な食材調達、カーボンフットプリントが表示された商品などだ。
第4章「東日本大震災からの復興」では、福島再生・未来志向プロジェクトなどが紹介され、除染や汚染廃棄物等の処理について報告されている。
さまざまな内容が盛り込まれた環境白書だが、あらためてポイントとなったのは、コロナ危機と気候危機だといえよう。そこで経済社会のリデザインをテーマとしているが、それ以上に大きな変化は、バックキャスティング型の、従来の延長線上にない取組みを行うことの必要性を示したことだ。
政策の積み上げでは、2030年温室効果ガス46%削減は不可能だが、こうした点は気候変動対策以外についても同様だろうという認識だ。
とはいえ、示された個々の政策については、これから具体的な検討に入るというものもある。白書を中味のあるものにしていくのは、これからだといえるだろう。
エネルギーの最新記事