日本は技術・システム改革で先進国として気候変動競争に互角の戦いを 柏木孝夫 東京工業大学特命教授(後編) | EnergyShift

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日本は技術・システム改革で先進国として気候変動競争に互角の戦いを 柏木孝夫 東京工業大学特命教授(後編)

日本は技術・システム改革で先進国として気候変動競争に互角の戦いを 柏木孝夫 東京工業大学特命教授(後編)

2021/06/18

経済産業省の総合資源エネルギー調査会 基本政策分科会の委員である、東京工業大学特命教授の柏木孝夫氏に、第6次エネルギー基本計画のあるべき姿をおうかがいするインタビューの後編をおとどけする。2050年に向けて、RITEの試算に対して問題を指摘する一方、新型原子炉の必要性や次世代省エネ・エネルギーマネジメント、水素の利用、そしてレジリエントな地域づくりについて熱く語る。(全2回)

前編はこちら

シリーズ:エネルギー基本計画を考える

2050年のエネルギーミックス

― 先日の基本政策分科会では、2050年のエネルギーミックスに対する電気料金が示されました。

柏木氏:RITE(地球環境産業技術研究機構)が試算を提出しましたが、カーボンニュートラルには過大なコストがかかることが示されました。

基準ケースでは、社会が電化していくという前提で、年間の電力需要を1兆3,500億kWhと見積もっています。現在の最終エネルギー消費は、26%が電力、74%が非電力です。これに対し、ガソリンや熱需要などの非電力の脱炭素化が必要となり、そのために電化していくということになります。

例えば自動車の電化です。EVで伸びる電力需要は10%程度でしょう。製鉄では電炉が普及します。再エネが拡大することでグリーン水素が製造されるようになります。そうした前提で、2050年の電力需要は1兆3,500億kWhと見積もっています。

これに対し、参考値として示された電源構成は太陽光発電が30%、風力発電が10%、これに水力や地熱などを加え、再エネが54%になります。また、水素とアンモニアが13%、原子力10%、火力発電+CCUSで23%というものです。メリットオーダー(安価な電気から順に供給するしくみ)での供給試算では、電力コストは24.9円/kWhとなっています。

そして、この参考値に対し、再エネや原子力などの割合を変動させ、シミュレーションしているのですが、再エネ100%のケースを除くと、電力コストは参考値とあまり変わらず、ほぼ一定となっており、メリハリがありません。2050年ですから、もっとさまざまな形で数字を変化させてシミュレーションをしていく必要があると思います。

原子力が基準値として10%となっている点はともかく、2050年にはSMR(小型原子炉)も商用化されるでしょう。これらの影響を加えたコスト効果も重要となります。最近、ロシアのプーチン大統領と中国の習近平国家主席が、ロシアが協力して建設した中国の原子力の着工式にオンラインで参加し、会談しています。そこで示されたのは、両国にとって原子力が強固な同盟国家としてのアグリーメントとなっていることです。

原子力には気候変動対策と安全保障の両面の役割があります。そうしたとき、日本の原発比率の割合が重要です。原子力の比率が20%くらいないと、人材が育たないでしょう。原子力は国策として考えるべきであり、東京工業大学においても、本年6月には先進原子力工学も含めゼロカーボンエネルギー研究所が立ち上がりました。

また、コージェネレーションが総発電量の2%程度しか導入されていない点も気になります。現在でも5%は導入されていますし、第5次エネルギー基本計画では2030年に11%から12%の導入となっていました。大規模電源の場合、3%から5%が送電ロスとなっていますが、コージェネレーションにはロスがなく、また、地域の強靭化にも役立ちます。

いずれにせよ、リアリティを踏まえ、国策としてのエネルギービジョンを示すことが、シナリオ分析に求められているのではないでしょうか。


東京工業大学 柏木孝夫特命教授

グリッドパリティを通じた水素の地産地消で地域のグリーン成長も

― エネルギー基本計画では、エネルギーミックス以外にもさまざまな政策が盛り込まれます。重点政策となるのはどのようなものでしょうか。

柏木氏:日本が重要視するべきは、世界に対して高い目標を掲げることで、先進国として互角の戦いを示すことです。

日本はこれから何でグリーン成長していくのかを明確にすることが最も重要で、技術・システム改革になるでしょう。その中でも次世代省エネ・マネジメントシステムは必要不可欠ですし、供給サイドの需要を抑制する異次元の省エネとして、エネルギーマネジメントが求められますし、カーシェアリングも重要になってきます。

再エネの増加でバッテリーも増えますが、EVでマテリアルカスケード(段階的利用)をすることや、EVを“走る蓄電池”としてとらえた上での、スマートシティ構想もあります。EVについては、交通とエネルギーの2つのデータを使って、セクターカップリングによるデータベースを活用し、効率化を図ることも必要でしょう。

また、日本の国策としての水素の推進もあります。

水素を安くしていくためには、国際的なサプライチェーンの確保と、国内の地産地消の両輪で進めるべきでしょう。グリーンイノベーション基金として10年間で3,700億円という予算が最初に決まったのは喜ばしいことです。

ゼロカーボンだとしても化石燃料の利用は残っているでしょう。これはCCUSで対応することになります。ここでは化学工業と石炭火力の組み合わせなども考えられます。化石燃料とセットでの技術は、どこの国でも需要があります。

原子力については、近年はミサイル対策などでコストが上昇していますが、そうであれば地下式という方向もあります。また、既に述べたようにSMRの開発も進められています。万が一の場合でもプール内で冷却される、安全性の高い原子炉になります。さらに、現在の軽水炉について安全性を担保に再稼動させた上で、新設・リプレースを進めることができれば、20%は確保できます。さらに、原子力は一度建設したら、80年は運転します。そうすれば、発電コストは大きく下がります。

一方、どうしても電化できない部分については、航空機などの燃料の脱炭素化を進める必要があります。CO2フリーの水素を使って合成燃料を製造し、輸出することもできるでしょう。海藻からバイオ燃料を製造するということも考えられます。合成燃料製造国家として、日本は燃料の輸出国家としてグリーン成長を進めることができるのです。

― 先ほど水素については、地産地消ということも話されました。とはいえ、日本の地方でのエネルギーの地産地消はなかなか進んでいないと思います。地域のグリーン成長につなげるにはどうすればいいのでしょうか。

柏木氏:水素について言えば、日本の再エネで製造するよりも海外で製造した方が安価です。しかし、輸入するコストを考えると、地産地消は競争力があると思います。余剰の再エネを水素にすることで、エネファームなどを高効率で利用することができます。家庭や業務部門でのエネルギーとして自家発自家消費すれば、事業用と比べ、小売価格がグリッドパリティになるため、事業性が拡大し、普及が進みます。

さらに、エネルギーの地産地消は、エネルギーの強靭化ともなります。日本は地震が多い上に水害が増えていく可能性もあります。そのため、レジリエントな地域づくりが必要となってくることを忘れてはいけません。

前編はこちら

*第6次エネルギー基本計画についての委員、国会議員へのインタビューシリーズ「シリーズ:エネルギー基本計画を考える」はこちら

(Interview & Text:本橋恵一、Photo:成瀬美早緒)

柏木孝夫
柏木孝夫

東京工業大学 特命教授・名誉教授。1946年東京生まれ。70年、東京工業大学工学部生産機械工学科卒。79年、博士号取得。1980~81年、米国商務省NBS招聘研究員、東京工業大学工学部助教授、東京農工大学大学院教授を経て、2007年より東京工業大学大学院教授、2009年より先進エネルギー国際研究センター長、12年より特命教授・名誉教授。 2018年より、内閣府戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)第2期 エネルギー・環境分野プログラムディレクターに就任。現在、経済産業省総合資源エネルギー調査会基本政策分科会委員など数多くの委員を務め、長年、国のエネルギー政策づくりに深く関わる。2017年、エネルギー・環境分野で最も権威のある国際賞「The Georg Alefeld Memorial Award」をアジアで初受賞。おもな著書に「超スマートエネルギー社会5.0」、「コージェネ革命」など。

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