未来を予測し、その準備をするためには、半年から1年くらいじっくり時間をとって「未来のシナリオ」を考えてもいいと思います。そして、考えをまとめた上で、変化に応じて実行していきます。このように未来のシナリオを考えて、それに応じた行動を進め、未来を実現していく方法を、「シナリオプランニング」といいます。
シナリオプランニングをビジネスに最初に適用したと言われる会社が、ロイヤル・ダッチ・シェルです。
1971年当時、シェルは原油価格の予想がなかなか当たらないことに頭を痛めていました。そこで、軍事に活用されていたシナリオプランニングを応用し、原油市場の未来の姿をいくつか考えてみたのです。まず、原油市場に影響を与える中東の産油国の動きと需要国である欧米や日本の動きを分析し、推論を立てました。その結果、需要はほぼ確実に伸びるものの、供給には不確実性があることに気づきました。
そして、「供給が確保される」シナリオと「供給不足になる」シナリオの2つを軸に、これをさらに細分化した6つのシナリオを描きました。シナリオ考察の2年後である1973年には、第4次中東戦争を引き金とした「オイルショック」が発生し、シナリオの1つが現実となったのです。そして、他の石油会社が大困難に陥り迷走する中で、シェルは想定し準備していたシナリオを実行することで、迅速かつ適切にオイルショックに対応することができました。
最近では、気候変動問題に対してどのようなリスクと機会があるのか、シナリオプランニングをしている上場企業も多いはずです。
シナリオプランニングでは3つのステップを経て、戦略の検討を進めます。
例えば、カーボンニュートラルをテーマとしたシナリオをつくる場合を見てみましょう。
1番目のステップでは環境分析とシナリオ設定をします。
カーボンニュートラルの実現に向けて、どのような技術が主役になるのか、あるいはどのような組み合わせになるのか、いくつかの設定が考えられます。エネルギー分野においては、CCUS(CO2回収利用貯留)が主役であれば、化石燃料の利用は続くことになります。一方、再生可能エネルギーや原子力発電が主役であれば、化石燃料の利用は減っていきます。また、設定を組み合わせて考えることもあるでしょう。それに加えて、そもそもカーボンニュートラルは無理だと社会があきらめる設定も必要でしょう。この場合、気候変動が進んだ社会を想定することになります。
自動車について言うと、電気自動車と燃料電池自動車のどちらが普及するのか、また国によってどのように政策が異なるのか、ということも考えることになります。
2番目のステップでは、設定したシナリオごとに、目指すビジョンとそれを実現するための戦略を検討します。戦略の実現には、必要な技術開発やロードマップの想定、さらに新規事業の検討も必要でしょう。
3番目のステップでは、戦略の実現に向けた具体的な計画を検討します。そのために、複数の戦略と可能性のあるシナリオに基づくストレステストや、複数の戦略のベストなミックスも検討します。こうした準備をすすめることで、シナリオが現実になったときに、自社が機動的に対応することができるようになります。
このように、未来予測は、短期的にはなかなか当たらない一方で、むしろ長期的なシナリオを描くことは可能だといえます。また、未来予測に合わせてシナリオプランニングを行ない、戦略を立案していくというプロセスも紹介しました。
しかし、ほとんどの企業にとって、未来予測を受け入れ、これまでの戦略を転換していくことは、容易ではありません。なぜなら、経営者にとって、常識と成功体験を捨てるのが一番難しいからです。
例えば、2000年頃までの日本企業はかつて、世界中に良いものをより安く提供することで、事業を大成功させてきました。しかし現在、同じ戦略をとることは自殺行為だと言えます。昔の日本は、安価な製品を製造することで競争優位に立ちました。しかし現在、この成功体験を追い求めようとすると、以前の日本と同じ戦略で勝負をしてきている中国などと価格競争をすることとなり、よほど強い商品がないかぎり勝ち目はありません。
また、良いものといっても、昔のように高い品質のものを作るのが難しい時代であればともかく、分野によっては比較的容易に質の高いものが製造できてしまいます。現在、多数のプレーヤーと競争する必要があり、そこで勝つのは簡単ではありません。
前提が変われば、これまでの常識や成功体験は通用しません。変化する前提条件をあらためて見直し、必要に応じて常識と成功体験を捨てることもしなければならないのです。
(続く)
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