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イギリスで初めてスマートメーターを設置したのはUtilitaという新電力だ。そのUtilitaが、次世代スマートメーターをめぐり英規制当局Ofgemともめている。2020年11月には、Ofgemが新規顧客の獲得停止を言い渡すまでに事態が発展した。Utilitaのサービス概要と、スマートメーター問題について、報告する。
2005年にイギリスで初めてスマートメーターを設置したUtilita。2003年に設立され、現在イギリス全土で78万人の顧客を有する。2019年には、取引停止した小規模な新電力Our Powerの3万1千件の顧客と、Eversmart Energyの3万9千件の顧客を引き受けた。
Utilitaはこれまでに紹介した英新電力の3社とは異なり、再エネ100%電力やカーボンオフセットしたガスを家庭に供給する会社ではない。電源構成の大部分を占めるのは天然ガスの火力発電だ。しかも、その割合はイギリスの電力会社の平均値より高い。
では、同社を特徴づけるのはなにか。それは、省エネやモバイルを含めたライフスタイルの中の電力と言うコンセプト、何よりスマートメーターとの細かく連動した支払い手段の豊富さだ。本稿ではUtilitaの紹介と併せて、イギリスのスマートメーター事情についても触れたい。
Utilitaの電力・ガス料金メニューは、卸価格によって料金が変動するメニューの一本だ。ついているスマートメーターの種類によって、夜間やオフピーク時に割安な単価が適用される。例えば、夜の7時間の料金が安くなるスマートメーターEconomy 7(E7)を筆者が試したところ、Economy 7×クレジット支払いの場合、料金単価は次の通り(地域によって変動あり)。
日中(デイタイム)の単価は、最初の1kWhまでが47.032ペンス(約66円・1ポンド=140.01円換算) 、それを超えると23.520ペンス/kWhとなる。夜間は4.385ペンス/kWhと格安だ。月ごとや日ごとの固定料金、解約違約金はない。同じE7メーターでも前払い制の場合、単価は変わる。前払いの場合、最初の1kWhまでが47.903ペンス、それを超えると20.036ペンス/kWh、夜間は8.406ペンス/kWhとなる。こうした細かい料金設定がなされている。
前払いのシステムもよく考えられている。Utilitaのユーザーは、オリジナルのアプリ「My Utilita」やオンライン決済によってあらかじめ電力・ガス料金を支払う。「My Utilita」にクレジットカードを登録し、前払いもしくは請求書払いを選択する。前払いの場合、5ポンド単位で支払う額を選ぶことができる。
万が一、クレジットで支払えなくなってしまっても、アプリには「Power Up」というシステムがある。これは、先に電気を最大20ポンド分、ガスを30ポンド分利用し、後から料金を返済するシステム。
また、アプリでは使用量の確認や料金の支払いに加え「Smart Score」と呼ばれるエネルギー利用効率の評価も確認できる。省エネに関するちょっとしたヒントを提示し、需要家の省エネを促している。
Utilitaは、日本でいうところの格安スマホサービス「Utilita mobile」も展開している。「Utilita mobile」のSIMカードを購入すると、10ポンド分の電力やガスが無料でもらえるなど、サービスの相互乗り入れも行っている。
また、電力・ガスのユーザー向けに「Utilita Extra」という懸賞サービスも毎週実施している。例えば「Utilita Extra」に応募したユーザーには、抽選で50ポンドのギフトカードなどが当たる。この辺のサービスは、日本の電力会社とも共通しているようだ。また、抽選の案内は、FacebookやInstagramなどをフォローすることで、通知を受けることができる。
目下、Utilitaのトピックスは次世代型スマートメーターSMETS 2(Smart Metering Equipment Technical Specification)を巡るOfgemとのやり取りだろう。Ofgemとは、The Office of Gas and Electricity Marketsの略で、イギリスでガス・電力ネットワークに対し規制と監視を行う政府機関だ。
イギリス政府は、2024年までにすべての家庭にスマートメーターを設置するとしている。さらに、これまで普及してきたSMETS 1や前述のEconomy 7ではなく、次世代型スマートメーターと呼ばれるSMETS 2の、国を挙げての拡大を急いでいる。
旧来のスマートメーターと次世代型(SMETS 2)の違いは、小売電気事業者の変更対応だ。次世代型スマートメーターSMETS 2は、供給する電力会社が変わってもデータ通信ができるが、旧来型はそうではなかった。そのため、電力会社を切り替えメーターが機能しなくなると、手動での検針を行っていた。また、次世代型スマートメーターではセキュリティも強化される。
この次世代型スマートメーターSMETS 2に対して、Utilita側はデータ通信の信頼性がなく、前払いのシステムに支障が生じるとしている。
Ofgemは2019年6月から、すべての電力会社に対し、メーターの交換や新設時には次世代型スマートメーターに切り替えるよう求めてきた。しかし、Utilitaはこの呼びかけに応じず、第1世代のSMETS 1を使い続けてきた。
そのため、Ofgemは2020年11月27日、2021年7月31日までに15,000台のSMETS 2を設置しない限り、Utilitaの新規顧客獲得を認めないと最後通告を発した。同30日、Utilitaはこの件に関して事前の連絡がなく「ひどく不公正だ」と反論。同社は2005年から次世代型スマートメーターと支払いシステムの互換性や信頼性に疑問を投げかけてきたにも関わらず聞き入れられなかったと主張している。
2021年1月4日午前10時が、Ofgemへの異議申し立ての期限となっている(2021年1月15日現在で新しい情報はない)。
皮肉にも、最もはやくイギリスでスマートメーター普及に力を注いできた新電力のUtilitaが、スマートメーターの世代交代によって規制当局と対抗することになっている。このスマートメーターをめぐる攻防はこれからも注目される。
Utilita プレスリリース Utilita response to Ofgem final order (SMETS 2) Friday 27 November, 2020
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