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世界的に不足する半導体を国家事業として強化 経産省が2022年度の重点案示す

世界的に不足する半導体を国家事業として強化 経産省が2022年度の重点案示す

2021年08月25日

世界的な半導体不足が深刻化する中、経済産業省は8月23日、2022年度に向けた経済産業政策の重点案を公表した。脱炭素に欠かせない半導体や蓄電池の基盤強化に国家事業として取り組み、EV(電気自動車)の大胆な普及、そして水素、洋上風力などの産業育成などを展開する方針だ。

半導体がなければ、脱炭素もデジタル化もできない

洋上風力や太陽光発電、自動車のEV化、そしてデジタル化などに欠かせない半導体が世界的に不足し、長期化するおそれが浮上している。

トヨタなど日系自動車メーカーは相次ぎ減産や工場の稼働を一時停止する事態に陥り、われわれの生活に身近な家電製品の一部が品薄になるなど、経済社会に与える影響は非常に大きい。

半導体をめぐっては世界各国が巨額の資金を投じて開発競争を繰り広げており、日本も三菱電機が今年11月に、電力を効率よく動力に変換するパワー半導体の工場を新たに稼働させるなど、2025年度までに1,000億円の投資を計画する。また、ソニーグループは2023年度までの3年間で半導体事業に7,000億円を投じる計画だ。

その一方で、米中による技術対立の激化は先鋭化しつつある。また台湾や韓国の台頭もあり、日本の半導体産業は過去30年間でシェアを10%程度まで大きく落としたほか、最先端の半導体製造は台湾などに依存している状況だ。

こうした中、経済産業省はデジタル化や脱炭素に欠かせない半導体について、経済の安全保障に直結する国際戦略物質と位置づけたうえで、エネルギーや食料確保と同じように、政府が国家事業として国内製造基盤の強化に取り組むなどとする、2022年度に向けた新たな重点政策をまとめた。

蓄電池も戦略物資、生産基盤強化へ

8月23日に開催した第29回産業構造審議会総会で公表した。

半導体と同様に国内の生産基盤の強化を進めるとされたのが蓄電池だ。

カーボンニュートラルに向け世界的なEVシフトが起こるなど、蓄電池の重要性も大きく変貌している。中国や韓国などは車載用蓄電池からはじまる生産基盤の強化に国をあげて動いており、世界最大手の中国CATL(寧徳時代)は、生産能力を60GWhから200GWh超に拡大する大型投資を計画する。また、韓国のLGは106GWhの生産能力を250GWh超まで拡大する予定だ。

アメリカやEUも、設備投資や研究開発など財政支援することで基盤強化を狙っている。

一方、日本は蓄電池材料などの技術優位で先行するも、海外と比べると国内投資が大幅に遅れている。このままでは2025年の国内生産能力は39GWh程度となり、中国の754GWh、欧州726GWh、アメリカ205GWhに大敗する可能性すらある。

そこで、経産省では蓄電池に関しても生産基盤強化に向けて取り組む方針だ。

EVやFCVなどを大胆に導入

2022年に向けた経済産業政策の重点案は、コロナ禍における足もとの対策と、コロナ禍を経たあとを見据えた対策の2つからなる。

まずはALPS処理水など汚染水処理対策など、福島復興を着実に進めることを最重要課題に位置づけた。

次が、コロナ禍を経て、新たに成長できる産業構造の転換に向けた戦略だ。

脱炭素に関する戦略は3つあり、1つ目が経済と環境の好循環である。

具体的には、蓄電池の大規模製造立地にはじまり、EVやFCV(燃料電池自動車)などの大胆な導入。さらに水素・アンモニアや洋上風力など成長が期待される分野について、政策を総動員して産業を育成するとした。また、非化石エネルギーの使用拡大など、需要サイドの行動変容に向けた制度も検討し、成長に資するカーボンプライシングも促進するとした。

2つ目が経済の安全保障の強化だ。

米中の技術覇権をめぐる争いや新型コロナウイルスの感染拡大で、半導体などの重要物資のサプライチェーンの脆弱性が顕在化したことを受け、半導体について産業基盤全体を支援するとした。また、希少資源であるレアアースの調達先の多様化なども図り、経済の安全保障を強化する考えだ。

3つ目が誰もが実感できる成長の実現だ。

脱炭素社会の実現には、産業構造の転換が欠かせず、石炭火力やガソリン車など負の影響を受ける産業も多い。こうした負の影響をしっかり受け止める労働市場の改革も欠かせない。

具体的には企業の業態転換を支援することで雇用を生み出す。また働く人のスキルチェンジなど人材づくりを強化し、ジャストトランジション、いわゆる公正な移行に取り組むとした。

半導体や蓄電池などの生産基盤の強化に乗り遅れると、脱炭素やDX化など国の政策にも影響を与えかねない。また、カーボンプライシングをめぐっては、欧米などが脱炭素への取り組みが不十分な国からの輸入品に関税をかける「炭素国境調整措置」の導入を検討しており、環境や人権などが貿易ルールに入りつつある。

こうした世界的な変化をとらえ、経産省では今回の経済政策案をもとに、日本の経済成長に向けて、産業構造の転換を図っていく方針だ。

EnergyShift編集部
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