自宅や工場の屋根に取り付けたり、空き地に設置したり、太陽光発電は設置場所に関して厳しい制約を受けません。さらに、発電に伴って二酸化炭素を排出することはなく、FIT制度により発電した電気を一定価格で買い取ってもらえるなど、多くの魅力を備えた発電方式です。
ここでは、太陽光発電のメリットとデメリット、FIT制度の終了を踏まえた今後の見通しについてご説明します。
目次[非表示]
太陽光発電は、太陽光をエネルギーとして電気を作る発電方式です。
火力発電に使われる化石燃料や、原子力発電に使われる核燃料は限りがある資源ですが、太陽光は自然エネルギーであるため枯渇する心配がありません。そのため、持続可能な発電方式の1つとして、将来的に主要電源となることが期待されています。
太陽光発電のうち、発電出力が10kW未満の小規模なものを住宅用太陽光発電と呼びます。一般的な住宅の屋根に設置されている太陽光発電設備は、ほとんどが住宅用太陽光発電に分類されるものです。
住宅用太陽光発電は、発電した電力を自家消費しつつ、余った電力を売却できる「余剰売電」の対象です。
太陽光発電のうち、発電出力が10kW以上のものを産業用太陽光発電、あるいは事業用太陽光発電と呼びます。工場や商業施設の屋根、空き地へ広範囲にわたって設置されている太陽光発電設備が、産業用太陽光発電に該当します。また、住宅に設置する場合であっても、発電出力が10kW以上であれば区分は産業用太陽光発電です。
2020年度から、50kW未満の産業用太陽光発電は原則として余剰売電の対象となり、発電した電力すべてを売却する「全量売電」は50kW以上の場合にのみ適用されます。
なお、発電出力が10〜50kWの太陽光発電設備は「低圧」に、50kW以上の太陽光発電設備は「高圧」に分類されることとなっており、高圧は低圧にはない以下のような設備・手続きが必要となります。
事業を行うために必要なコストが増え、手続きにかかる時間や労力が増えるため、個人の発電事業者は10~50kWの低圧物件を扱うケースがほとんどです。
太陽光発電は、太陽から届く光エネルギーを直接電気に変換する「太陽電池」を使うことで発電しています。太陽電池は、2種類の半導体を接合して構成されています。
2種類の半導体を貼り合わせた太陽電池に太陽光を当てると、太陽電池に生じた正孔(+)はp型シリコン半導体に、電子(-)はn型シリコン半導体に集まるのです。太陽光が当たっている太陽電池は、上記の特性によってプラス極とマイナス極のある乾電池と同じ状態になり、電線をつなげると電気が流れます。
*太陽光発電協会「太陽電池とは」
太陽光パネルは、いくつもの太陽電池を接続して構成されたパネルです。最小単位を「セル」、セルを複数つなげたものを「モジュール」、モジュールを複数つなげたものを「アレイ」と呼びます。
上記のように複数の太陽電池が組み合わさり、太陽の光エネルギーを電気に変換する太陽光パネルとなります。太陽光パネルによって変換された電気は「直流」となっており、家庭で使ったり電力会社に売却したりするために、パワーコンディショナと呼ばれる機器を使って「交流」の電気に変換します。その後、分電盤と呼ばれる機器を通じて家庭内に供給したり、電力会社へ送電するため電柱に送られたりする仕組みです。
太陽光発電の普及拡大を目的として、政府は2012年にFIT制度を施行しました。FIT制度により住宅用太陽光発電に取り組む場合は10年、産業用太陽光発電に取り組む場合は20年のあいだ、発電した電気は電力会社が一定価格で買い取ることとなったのです。
しかし、FIT制度は電気の消費者である国民が、電気料金の一部として「再エネ賦課金」を負担することで成り立っています。そのため、FIT制度が適用される太陽光発電所が増えるほど、国民が負担する再エネ賦課金は大きくなってしまうのです。
以下のグラフは、FIT制度施行後における再エネ賦課金の推移を示しています。なお、再エネ賦課金は太陽光発電以外の再生可能エネルギー発電にも使われているため、グラフに記載された金額すべてが太陽光発電の売電に投じられたわけではない点に留意してください。
*資源エネルギー庁「法制度」の観点から考える、電力のレジリエンス ⑤再エネの利用促進にむけた新たな制度とは?」
年々、FIT制度を支えるための国民負担が大きくなっており、FIT制度の継続は「電力市場の実態から切り離された電気の取引」を続けることにほかなりません。このような、電力市場に関係なく一定価格で売電が行われる状況から、段階的に電力市場と連動した売電へ移行するために創設された制度が「FIP制度」です。
2022年4月1日、FIT法(電気事業者による再生可能エネルギー電気の調達に関する特別措置法))に代わり、再エネ促進法(再生可能エネルギー電気の利用の促進に関する特別措置法)が施行される予定です。
再エネ促進法では、市場価格に一定の補助額(プレミアム)を上乗せして電気を取引するFIP制度が創設されます。売電価格が一定となるFIT制度とは異なり、FIP制度では補助額が一定であるものの、売電価格は市場価格に連動して上下します。
*資源エネルギー庁「FIP制度の詳細設計とアグリゲーションビジネスの更なる活性化」
なお、FIP制度の適用対象は段階的に拡大し、2022年度は以下のように発電出力に応じてFITとFIPの選択制、あるいはFIP入札が適用される見込みです。
*資源エネルギー庁「太陽光発電について」
余剰売電と全量売電、自家消費の相違点をあらためてまとめました。
項目 | 概要 |
余剰売電 | 自家消費できなかった分の電気を売却する |
全量売電 | 発電した電気をすべて売却する |
自家消費 | 発電した電気をすべて自家消費する |
FIT制度が施行された当初は売電価格が高く、住宅用・産業用のいずれも1kWhあたり40円台でした。当時であれば、電力量単価(1kWhあたりの電気料金)を売電価格が上回っていたため、住宅用太陽光発電であれば余剰売電、産業用太陽光発電であれば全量売電がお得であったといえます。
しかし、売電価格は年々低下しており、2020年度の時点で住宅用太陽光発電の売電価格は21円、産業用太陽光発電は入札対象を除いて10円台となりました。2021年の売電価格も、引き続き低下するものと予想されています。
以上の理由を総合すると、住宅用太陽光発電と産業用太陽光発電は、今後新たに導入するのであれば「可能な限り自家消費を行う」ことがお得だといえるでしょう。住宅用太陽光発電であれば、余剰電力を一旦蓄電して自家消費するための蓄電池を併設。産業用太陽光発電であれば、工場やオフィスへの電力供給を前提として導入するなど、発電した電気をできる限り自家消費に充てる工夫をすることで、よりお得に太陽光発電を活かせます。
2019年時点において、日本の電源構成のうち太陽光発電が占める割合は、全体の7.4%です。
*環境エネルギー政策研究所「2019年(暦年)の自然エネルギー電力の割合(速報)」
2019年時点では、太陽光発電の割合が風力発電に並んで高いものの、2030年までにはやや割合を落として再生可能エネルギー発電のなかでは2番手となる見込みです。以下の画像は、2010年・2018年・2030年度における電源構成の割合を示しています。
*資源エネルギー庁「エネルギー基本計画の見直しに向けて」
上記のグラフをもとにすると、2030年度に実現を目指している電源構成において、太陽光発電の割合は全体の7%です。これは太陽光発電所の数・規模の縮小を想定しているわけではなく、他の再生可能エネルギー発電の導入量が拡大することを考慮し、相対的に割合が低下する予想を示したものです。太陽光発電所の数は、今後も増えていくものと想定されます。一方、日本以外の電源構成は、以下のような割合になっています。
*自然エネルギー財団「統計|国際エネルギー」
上記グラフは、電力消費量における再生可能エネルギー発電の割合を示した、2019年度のデータです。日本が再生可能エネルギーにより供給している電力消費量は多いといえないものの、太陽光発電の割合に関しては他の主要国と同等、あるいは他の主要国よりも大きい傾向にあります。
太陽光発電は、将来的に日本の電力供給を支える主要電源の1つになることが期待されています。火力発電や原子力発電など、これまで日本の電力供給を支えてきた発電方式と比べて、太陽光発電は以下の点で優れています。
太陽光発電は、発電の際に二酸化炭素を排出しません。また、太陽光発電は設置場所の制約が比較的少なく、住宅や工場の屋根、空き地など日射量を確保できるあらゆる場所に設置可能です。立地条件や必要面積に制約がなければ、発電所の導入はハードルが下がるため、普及拡大が容易だといえるでしょう。
そして、太陽光発電は発電のための燃料を調達する必要がありません。主要電源である火力発電は化石燃料、今後再稼働が検討される原子力発電は核燃料が燃料として必要であり、これらの大部分は輸入によってまかなわれています。現状の「エネルギー供給を海外に頼っている状況」は、太陽光発電を始めとする再生可能エネルギーの普及拡大によって解消されることが期待されます。
太陽光発電には優れた点が多くある一方、デメリットもあります。
太陽光発電の発電効率は20%程度であり、発電効率が80%程度の水力発電、20~40%程度の風力発電に比べて低水準です。また、太陽光発電の発電状況は日射量に左右されます。日が昇っていない時間帯は発電できないため、夜間の電力需要に対応できないことが課題とされています。
発電が日射量に依存する特性上、天候の変化による発電量の変動も避けられません。想定より悪天候が続いて発電量が予測を下回ることも、好天候が続いて発電量が想定値を超えることもあり、予測が困難である点はエネルギー供給の手段として心もとないといえるでしょう。能動的に発電量を調節できる火力発電や原子力発電と比べて、太陽光発電は「安定的な発電」という観点に課題が残っています。
投資的な観点だけでいえば、太陽光発電はFIT制度の施行当時よりも収益性が低いと考えられます。一方、光熱費削減や停電時の電力供給といった、売電収入以外のメリットも踏まえた費用対効果を考慮するなら、導入を検討する価値は大いにあります。
輸入した燃料に電力供給を依存しない日本を実現したり、発電に伴う二酸化炭素の排出量を減らしたりといった点では、投資する意義のある将来性の大きい発電方式だといえるでしょう。引き続き、主要電源化を目指して発展していくことが期待されます。
二酸化炭素を排出せず、発電のための燃料調達が必要ない、新たな主要電源として期待される太陽光発電についてご説明しました。FIT制度の施行当初に比べて収益性は劣りますが、光熱費削減や停電時の非常用電源としては、依然有力な選択肢だといえます。
サステナブルガイドの最新記事