東京モーターショーから日本のEV社会を考える | EnergyShift

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東京モーターショーから日本のEV社会を考える

東京モーターショーから日本のEV社会を考える

2019/11/28

2019年東京モーターショーで各社が発表した車を改めて振り返ると、日本特有の市場が見えてくる。日本では欧米や中国よりもEVは影が薄くなっているのだ。代わりに売れているのがハイブリッド。その違いはより鮮明になってきた。今回の東京モーターショーを改めて振り返り、「日本の」EVのこれからをモータージャーナリスト、佐藤耕一氏が考察する。

日本ではEVが売れない?

東京モーターショーでは、各社から注目すべきEVのニューモデルが登場した。

欧州や中国とは違い、EVの販売台数は日本においてはずっと低空飛行が続いている。実際のところ、日本ではEVの車種も他の市場と比べて非常に少なく、消費者からも忘れられた存在になっている。今回発表されたEVのニューモデルたちが、果たしてそのような状況を変えるきっかけになるのだろうか。

本稿においては、注目のEVニューモデルと電動化技術について紹介をしたあと、日本ではなぜEVが売れないのか。その一方で、欧州や中国ではなぜEVが売れているのか。この状況は今後変わるのか、この点について考察していきたい。

マツダ渾身の初のEV、そのインパクト

東京モーターショーで最も注目を集めたEVは、マツダ「MX-30」ということになろう。SUVのカテゴリに入るモデルではあるが、大きく傾斜したCピラーや、「RX-8」風の2ドア+αの観音開きのドアなどからしても質実剛健なSUVでないことは明らかで、どちらかと言うとSUV風のスペシャリティーカーと表現した方が近い。

マツダ「MX-30」

それよりも驚いたのはバッテリー容量の少なさだ。35.5 kWhしかない。マツダによると、欧米における実際のEVの利用状況と、バッテリー製造にかかる環境負荷を考慮した結果、このような形になったとのことだが、MX-30はベースとなったマツダ「CX-30」とほぼ同じ車格で、決してコンパクトなクルマではないため、航続距離も200キロ(WLTPモード)にとどまる。いわゆる街乗りで使うのであればなんとか許容範囲であるが、SUVとして週末のレジャーに使うという利用シーンを考えると明らかに物足りない。価格も400万円を超える(ドイツでの販売価格は3万3,990ユーロ=約410万円)ことからも、ちぐはぐな印象を拭えない。

しかしこのMX-30、本命は今回発表されたバッテリーEVモデルではなく、追って登場する見込みのロータリーエンジン搭載のレンジエクステンダーモデルである。

レンジエクステンダーとは、バッテリーのほかにエンジンなどの発電機を車載し、航続距離を伸ばす仕組みを搭載した車両のことで、マツダはこの発電用エンジンとして、得意とするロータリーエンジンを活用しようとしている。

ロータリーエンジンは、動力用の内燃機関としては構造上どうしても燃費が伸びず、世界中の自動車メーカーのなかで唯一、長年に渡ってロータリーエンジンを作り続けてきたマツダにおいても、現在は搭載車種が途絶えている状況だ。

しかし発電機として考えた場合、ロータリーエンジンの美点を活かすことができる。そのコンパクトさや振動の少なさ、そして効率の良い回転数で一定で回すことで燃費の低さもカバーできる。特にコンパクトさにおいてはレシプロエンジンの比ではなく、発電機としての合理性があると言える。

マツダは、トヨタやデンソーとともに、2017年にEV C.A. Spiritという合弁企業を立ち上げており、EV開発においてトヨタと連携している。そのトヨタ「e-Palette」が、2018年に発表された際にも、ロータリーレンジエクステンダー搭載の可能性が言及されている。それもロータリーエンジンの発電機としての適正があってのことだ。

MX-30のバッテリーEVモデルは、まず2020年に欧州で発売されることが明かされた。日本導入時期は未定とのことだ。そして、航続距離が倍になるというレンジエクステンダーモデルも、いずれ発表される見込みである。

繰り返しになるが、ロータリーエンジンは、世界で唯一マツダだけが現代まで作り続けてきたエンジンであり、マツダのユニークな技術力の代名詞として、世界中のクルマ好きが一目を置くアイコンである。そのスポーツ性能の高さで知られたロータリエンジンであるが、今度はEVのレンジエクステンダーとしてふたたび脚光を浴びることになりそうだ。

EVの定番レイアウトはRR

次に紹介するのは、ホンダ「e」。「フィット」と同じくらいの大きさのコンパクトカーだ。EV専用シャシーに、eAxle(イーアクスル・電動車軸)をリア搭載したRRレイアウトは、フォルクスワーゲン「ID.3」と同じ成り立ちである。

ホンダe

ホンダeは、コンパクトな車格からしても洒落たシティコミューターとしてのEVを提案しており、ミラーレス化されたサイドミラーや、EVならではのグリルレスのデザインなどにより、全体にフラッシュサーフェス化したクリーンな外観を実現している。

バッテリー容量は35.5kWh、航続距離は220キロ(WLTPモード)で、価格は約360万円(ドイツにおける価格)。この車格と航続距離で300万円台後半ということを考えれば、実用本位で選ばれるクルマではない。EVはいずれにせよ、現段階では航続距離や価格といった実用面でガソリン車やハイブリッド車には勝てない。であるからこそホンダとしては、EVシティコミューターのイメージリーダーとすべく、フルミラーレス化やダッシュボード全面液晶など内外装にコストをかけているということだろう。

そしてもう一台、コンセプトカーではあるがレクサス「LF-30 Electrified」を紹介したい。LF-30は、2030年に搭載されるであろう要素技術を盛り込んだコンセプトカーで、インホイールモーターや非接触充電、全固体電池などの技術が搭載されたEVを具現化したものだ。

レクサス「LF-30 Electrified」

特に注目したいのはインホイールモーターである。これは、四つのホイールそれぞれにモーターを組み込んだ究極のEVとも言われるレイアウトで、4本のタイヤそれぞれをモーターで直接駆動することができるため、エンジン車とは次元の違うミリ単位のトルクベクタリング(駆動力差による姿勢制御)が可能となる。

これが何を意味するかと言うと、自動車における究極のダイナミクス性能を実現できるということだ。フリクションサークルを限界まで使った究極のコーナリングや、一般走行時においてもXYZ軸のトルク変動を極限まで減らした異次元のスムースネスを追求することができる。

レクサスインターナショナルの澤良宏プレジデントは、この技術を「Lexus Advanced Posture Control」(先進的姿勢制御技術)とし、レクサスのEVの差別化要素として開発リソースを投入していることをプレスカンファレンスで言及した。

エンジンに代わるEVのコア部品 eAxle

EVのコア部品であるeAxleは、エンジン車におけるエンジンとトランスミッションにあたる、もっとも重要なコンポーネントのひとつである。電動化による産業構造の変革に伴い、サプライヤーの陣取り合戦が最も激化している領域であり、各国のメガサプライヤーがこぞって参入している。東京モーターショーにおいても注目すべき展示があった。

まず最初に紹介するのは、デンソーとアイシンがeAxleの開発製造のために設立した合弁会社BluE Nexus(ブルーイーネクサス)。両社は、トヨタハイブリッドシステムを開発・製造の両面で支えてきた盟友であり、ブルーイーネクサスにおいては、インバーターをデンソー、トランスアクスルをアイシン、そしてモーターは両社で共同開発という座組みとなっている。

今回の東京モーターショーでは、2020年にトヨタが発売する市販EV「CH-R EV」「IZOA EV」にeAxleを供給することが明らかになった。つまり、トヨタ初の市販EVのパワートレインは、ブルーイーネクサスが供給することになった。

それぞれの技術はいずれも世界トップレベルにあり、その両者がタッグを組んで、完成度の高いeAxleを安定供給することができる、という点がブルーイーネクサスの強みだろう。

そしてもう一つの注目展示は、日立オートモティブシステムズが発表した800Vインバーターを世界初量産するというニュースだ。EVのシステム電圧は現在400Vが主流だが、バッテリーの大容量化にともない急速充電へのニーズが高まっていることから、さらに高速な800Vのインバーターへの注目度は高まっている。

インバーターに内蔵されている高耐圧高出力 直接水冷型両面冷却パワーモジュール

パワー半導体には現在主流のIGBTが採用されているが、同社が素子を自ら開発しており、レイアウトや放熱フィンなど独自の両面冷却技術によって熱問題を解決し、800Vを実現した。なお次世代のパワー半導体と目されるシリコンカーバイドの採用については、2022年の量産を目処に進めている。

ちなみに800V対応インバーターは、ほかにも米デルファイや独シェフラーなどが対応を進めているが、量産には至っていない。現在量産車で800Vのシステム電圧を使っているのは、ポルシェの新型EV「タイカン」であるが、これに同社のインバーターが搭載されているかどうかは明かされなかった。

日本ではEVよりもハイブリッド。それでいいのか

このように、EVに関する注目すべきトピックがあった東京モーターショーだが、日本国内でのEVの販売台数は、前述の通り低迷を続けている状況だ。

具体的な数値で見ると、中国では年間自動車販売台数のおよそ3%にあたる70万台以上、アメリカでは同じく1%前後となる20万台以上、ヨーロッパにおいても同じく1%前後となる20万台近くのEVが売れているのに対し、日本においては同じく0.5%程度、年間3万台を大きく切る水準でしかない。数字の上でも日本はEVが売れていない市場であることがわかる。

なぜか。端的に言えば、EVを買う理由がないからだ。

欧州について言えば、水力発電や原子力発電、再生可能エネルギーによってカーボンニュートラルを目指す機運が働いていること、そして大気汚染や四十度を越す猛暑などを背景としたCO2削減に対する強い民意がドライバーとなってEVの販売を押し上げている。

まったく別の背景であるが中国でもEVは売れている。環境対策という側面もあるが、それよりも国を挙げて自動車産業を育成しようとする国の思惑があり、硬軟織り交ぜたEV販売促進政策としてそれは形になっている。

自動車メーカーに対しては販売台数の10%を目安に新エネルギー車の販売を義務付ける通称NEV規制(New Energy Vehicle)があるほか、消費者に対しては地方行政と中央政府からの2階建ての補助金が支給されていること、またナンバー取得の優遇や都心部への乗り入れ規制の免除など、様々な面でEV販売に対するインセンティブが働いている。

振り返って日本では、ハイブリッドカーのシェアが世界に先行して高くなっており、性能面・コスト面で現実解として非常に優れているため、EVの価格の高さや航続距離の短さといったネガティブな部分ばかりが目立ってしまっている。そして、中国や欧州のような “買う動機”がないため、日本人の感覚で言えば、EVを選ぶ合理的な理由がない、というのが正直なところだろう。

合理的に考えて買えないならば、感性に訴えるしかない。東京モーターショーで見られたEVのニューモデルは、それがゆえに先進的なコンポーネントや洒落た雰囲気など、欲しいという気持ちに訴えかける工夫がなされていた。

EVが売れなくても別にいい、という意見もあろうが、EVはエンジン車とは違い、社会への実装という面でノウハウの蓄積が必要になる。充電インフラの整備はもちろん、蓄電池としてグリッドの構成要素に活用する側面からも、EVを売れないままにしておくという手はないはずだ。

佐藤耕一
佐藤耕一

自動車ニュース媒体で取材・編集業務に従事したあと、IT企業に転職し、自動車メーカー・部品メーカーに対するビジネス開発を担当。その後独立し、自動車とITをつなぐ領域を取材・レポートする活動に従事する。

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