太陽光発電急拡大の裏で急増する災害リスク 国も規制強化に本腰 | EnergyShift

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太陽光発電急拡大の裏で急増する災害リスク 国も規制強化に本腰

太陽光発電急拡大の裏で急増する災害リスク 国も規制強化に本腰

2021年09月14日

脱炭素社会の実現に向けて鍵を握るのが、太陽光発電など再生可能エネルギーの普及だ。しかし、太陽光発電が急速に拡大する裏で、豪雨や台風などで太陽光パネルが崩れ落ちる事故が相次いでいる。自然災害が発生するたびに事故が起これば、太陽光発電の普及拡大の足かせとなるばかりか、再エネを最大限導入するという国の政策にも影響を与えかねない。国も災害対策に本格的に動きはじめた。

太陽光発電施設が誘発する土砂崩れ

太陽光発電施設での災害が各地で相次いでいる。

2012年度8件だった事故件数は、2019年度には137件に増加した。なかでも多いのが土砂崩れだ。

2018年の西日本豪雨では11件の土砂災害が発生し、山陽新幹線の線路脇の太陽光パネルが崩れ落ち、新幹線が一時運転を見合わせるなど、周辺地域に被害をもたらした。


出典:経済産業省

2021年4〜8月に発生した43件の太陽光発電施設の事故のうち、約7割が土砂崩れや地盤沈下による設備被害だった。

急速な拡大に伴う土砂崩れや、景観の悪化を懸念し、大規模な太陽光発電施設の建設に反対する住民が増えている。

9月7日に開催された第15回 再生可能エネルギー等に関する規制等の総点検タスクフォースにおいて、全国再エネ問題連絡会の山口雅之共同代表から、メガソーラー建設の実態が報告された。

山梨県甲斐市の事例

山梨県甲斐市の山間に建設中のメガソーラー。およそ10ヘクタールの敷地に太陽光パネルが敷き詰められ発電出力は十数MWになる。このメガソーラーをめぐり地元住民から反対運動が起こっているという。

なぜか。「法面崩壊が複数発生しており、調整池もまったく機能していない」(山口代表)という。また調整池は道路の擁壁に使うブロックを積んだだけで、基礎部分が崩落しており、さらに敷地内に降った雨水は調整池に流れず、下流にある田畑に流入する構造になっているという。

山梨県も、事業者側が県に提出した排水設備の施工方法が申請と異なっていることがわかり、2020年秋に、整備計画の修正を求めてきた。しかし、十分な防災対策がとられずに工事は止まっており、県には地域住民から災害時の影響を不安視する意見が多く寄せられていた。事態を重くみた、長崎幸太郎知事は2021年8月31日、発電事業者である中部電力の子会社、トーエネックに対し防災対策を含めて、速やかに工事を完了させるよう指導を行った。


出典:全国再エネ問題連絡会

全国各地に広がる反対運動

大分県杵築市では、発電所敷地内に産業廃棄物を埋めたり、違法な森林伐採が行われていたことが、「事業者の内部告発によって明らかになった」(山口代表)。

住民からの通報により、県は林地開発違反を確認、事業者に対し、2020年5月27日づけで「林地開発違反行為中止指示書」が出され、工事は止まっているという。

静岡県函南町では、約65ヘクタールの事業地に約10万枚の太陽光パネルを設置する「函南町軽井沢メガソーラー」計画に対しても反対運動が起こっている。

計画地から東に約4キロメートルのところには、今年7月、土砂災害が発生した熱海市の伊豆山がある。計画地は被害地と「地形、地質すべてが酷似している」(山口代表)という。山口代表は「風光明媚な景観が壊される以上に深刻なのは、山の中腹に2万4,000トンのダム式調整池をつくろうとしていることだ。その直下には砂防指定地(丹那沢)があり、その下には小学校、幼稚園、集落がある。2万4,000トンの調整池が崩れ落ちたらどうなるか」と不安視する。

また「国土地理院の断層地図から調整池の直下には活断層の存在が確認できる」という。「伊豆山の土石流災害で現地調査をした地質学者の塩坂邦雄氏にも現地調査をしてもらった結果、やはり直下には活断層があり、巨大な建造物をつくることは論外だ」と指摘を受けたという。


出典:全国再エネ問題連絡会

奈良県知事は工事の中断を要請

青森市新城山田地区や埼玉県飯能市阿須、奈良県平群町などでも反対運動が起こっている。

そのひとつ、奈良県平群町では約48万m2の山林を切り開いて、約5万枚の太陽光パネルを設置するメガソーラーの建設工事が進んでいたが、荒井正吾奈良県知事は今年6月「(事業者から)申請された設計内容に意図的とも思える誤りがあった」とし工事を中断させたうえで、「法令の基準に適合するまでは工事の再開を認めないと通告した」と記者会見で述べている。

さらに「行政側は、業者が規則通りの手続きを踏んで、必要書類を揃えていたら許可をしなくてはならない。いくら担当者が、個人的にその計画に胡散臭さを感じても、それで許可判断を変えるわけにはいかないだろう。逆に業者側から訴えられかねない。また、いくら住民の不安や反対の思いが強くても、それだけを理由に訴えても、行政や司法は動きにくい」と述べたうえで、今年度中にメガソーラー設置に関する県独自のガイドラインを策定すると発表している。

奈良県のように、太陽光発電の建設を規制する条例を導入する自治体は急増している。

156の自治体が立地規制など条例を制定

2020年度時点で、134の自治体が事前の届出や協議、許可などの手続きを定めるなど建設を規制する条例を設けており、2016年度26件から5年で約5倍に増加した。また、134自治体のうち、66の自治体が一部の区域で建設を抑制したり、禁止したりしており、なかには埼玉県川島町のようにすべての地域で太陽光発電の設置を規制する自治体もある。

条例を制定する自治体はさらに増え、2021年7月時点で4つの県(岡山、山梨、兵庫、和歌山)と、152の市町村にのぼり、今後さらに増える見込みだ。背景には、国が定めた法律やガイドラインでは対応が困難だという現状がある。

再エネで発電した電力は、大手電力会社が発電事業者から買い取ることが法律で義務づけられている。このFIT(固定価格買い取り制度)で発電事業を認定する際、国は景観法に基づく届出の提出を求めたり、地すべりなどのおそれがある場所に建設する場合には、必要な林地開発許可を得ているかなど事前に審査している。また、大規模な太陽光発電施設については、環境への影響を評価するアセスメントの実施が事業者に義務づけられているほか、対象外の発電施設についても環境に配慮し、地域と共生した形で事業を行うよう求めている。

FIT法、森林法、環境アセス法などで規制しているが、山林の多い日本では、土砂災害のリスクがある区域であっても必ずしも設置をすべて規制できるわけではない。その一方で、山の斜面などの場所は土地の価格が安く、日当たりがいいため、多くの発電施設が建設されてきたという背景がある。

山口代表は「森林法には決定的な欠陥がある」と指摘する。森林法第10条の2に林地開発許可があるが、都道府県知事は、次の4つの要件を満たしていると認めるときは許可しなければならないと規定されている。

  1. 災害の防止
  2. 水害の防止
  3. 水の確保
  4. 環境の保全

たとえば環境アセスで違反があり、都道府県知事が建設に反対しても、上記4つの要件を満たしていれば、林地開発許可は下りるという。山口代表は、「他法令で違反していれば、林地開発許可が下りないような法体系を整備すべきだ」と指摘する。さらに「環境アセス法には罰則規定がなく、林地開発にも取り消し規定がない。悪質事業者を追放するには罰則や強制性など、法律改正が欠かせない」と縦割り法令の改善を訴える。

国も取り締まり強化に本腰

地域に根づいた再エネを円滑に導入するにはどうすべきか。

再エネタスクフォースの委員のひとり、原英史氏は「問題の根源は規制のねじれだ。荒廃農地のようにもっと導入できるはずの場所には過剰な規制をかけ、その一方で災害防止の観点から本来は規制しなければいけないところには十分な執行がなされていない」と述べ、乱開発を防ぐよう、林地開発の許可基準の厳格化などを求めた。

また、高橋洋委員は「FIT法の弊害として、設備認定の手続きにおいて、立地問題はほぼ配慮されてこなかった。特に太陽光発電はリードタイムが短く大量の投資が集中した。それに対する経産省の執行体制が十分ではなかったのではないか」と指摘したうえで、「取り締まりの強化は極めて重要であり、かつ緊急だ。縦割りではなく環境省や林野庁、自治体と協力できるような知識やノウハウを持った人材、「再生可能エネルギー専門官」を各地に配置すべきだ」と提言した。

経産省も取り締まりの強化に動きはじめている。

2016年の改正FIT法を機に、太陽光発電などの発電事業者に対し、情報開示や設備の適切な維持管理に向け、事業者名や本社所在地を記した標識や柵へいの設置を義務化した。さらに未設置など法令違反に対する指導を強化しており、2020年度の指導件数は前年度比3.9倍となる757件にのぼった。

しかし、757件のうち646件が改善待ち・対応確認中であり、事業者の対応は遅い。また、自治体なども事業者の実態把握をすることが困難な状況が続いている。

そこで、経産省ではこれまで認定後にしか事業者や事業内容などの状況を自治体に提供してこなかった制度を変更し、申請があった時点で情報を共有する仕組みを整備した。

さらに、土砂災害のリスクにも対応する。土砂災害危険区域など全国データと認定情報を重ね合わせ、どこに太陽光発電所があり、どういう状況なのか。立地場所を特定し、リスクを把握するデータベースの作成を進めている。その情報を自治体と共有するとともに、「土砂災害危険区域に立地する事業者に報告徴収をかけていく」(経産省)方針だ。

環境省も対応を急ぐ。

再エネタスクフォースの開催日同日に、今年5月に成立した改正地球温暖化対策推進法の詳細制度を検討する有識者会議の初会合を開いた。熱海市の土石流被害などを受け、自治体が再エネ導入を推進するために設定する「促進区域」について、土砂災害などの危険がある地域は除外する方針を示した。

林野庁も、縦割り法令の見直しに向け、経産省や環境省との連携を深める意向だ。

地域に根づく再エネを導入するには

河野太郎行政改革担当大臣は、「法令違反を繰り返している悪質事業者に対しては、徹底した取り締まりをお願いしたい」と述べた。

山口代表は「今までの延長線上では、全国各地の反対運動は沈静化しないだろう。なぜ、地元住民が反対しているのか。その原因をしっかり把握し、いかに改善していくかにかかっている。そこが地域共生を図る一番のポイントだ」と語った。

河野大臣は、「再エネがNIMBY(Not In My Back Yard(うちの裏庭にはやめてくれ))の連鎖にならないように」と述べたが、太陽光発電などの再エネは迷惑施設として捉えられはじめている。環境省が取り組むような、導入を推進する区域と抑制する区域を定め、地元住民に受け入れられる開発をしなければ、日本の脱炭素社会は実現しないだろう。

Text:藤村朋弘)

藤村朋弘
藤村朋弘

2009年より太陽光発電の取材活動に携わり、 その後、日本の電力システム改革や再生可能エネルギー全般まで、取材活動をひろげている。

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