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hiSky社の衛星通信活用でグローバルな遠隔IoT管理を実現 イスラエルスタートアップインタビュー(3)

hiSky社の衛星通信活用でグローバルな遠隔IoT管理を実現 脱炭素実現のツールになり得るか イスラエルスタートアップインタビュー(3)

EnergyShift編集部
2020年06月11日

現代社会は通信ネットワークなしには考えられないが、地球全体では、通信インフラが未整備である場所の方が多い。現状では衛星通信は手軽な通信手段とはなっていない。イスラエルのスタートアップ、hiSky社はこの衛星通信を、より使いやすいものとして提供しており、サービス範囲にはエネルギー分野のIoTも視野に入っているという。hiSky社VPコマーシャル・グローバルセールス部門のZeev Steinlauf氏に、サービスの特色から将来ビジョンまでのお話しをうかがった。

地球上のどんな場所でも人々とデバイスをつなげる

―最初に、御社について教えてください。

Zeev Steinlauf氏hiSky社は、音声やデータの衛星通信をより低価格で、ポータブルで、簡単に使えるように目指しています。Kaバンド(27GHz~40GHzのマイクロ波で、衛星通信や衛星テレビ放送などに使われている)のハイスループット衛星(HTS:通信容量を大容量化した通信衛星)を利用し、陸や海や空中などの遠隔地や厳しい土地でも速く簡単な接続を可能にしようとして生まれた製品が、現在提供しているSmartellite™です。 来年には、Kuバンド(12GHz~18GHz帯)にも対応します。GEO(静止軌道)の衛星と多数のLEO(低軌道)の衛星を組み合わせて通信を行っています。

いつ、地球上のどんな場所にいても、人々とデバイスをつなげることが私たちのミッションです。

hiSky社資料より

―「Smartellite™」はどのような製品なのでしょうか。

Steinlauf氏:IoT通信の需要拡大に対応するため、SVNO(Satellite Virtual Network:衛星仮想ネットワーク)として運営しています。衛星通信によるMSS(Mobile Satellite Service)とIoTサービスを結びつけるネットワークで、音声と低ビットレートデータ通信を提供するものです。

システムは、Smartellite™端末とハブで構成されており、スマートデバイスとIoTセンサーとはWi-Fi、BLEあるいはPoE(それぞれ、Bluetooth、Ethernetの電力供給を含む通信プロトコル)を通じて接続しています。さらに衛星ネットワークを経由して、クラウドサーバなどにつなげていきます。Smartellite™には、革新的なモデムとフェーズドアレイアンテナが含まれており、動いていてもIoTや音声データ接続のためのGEOとLEOの衛星の配置に対応した安定した接続を可能にします。

Smartellite™ 製品ファミリーのひとつ、Smartellite™ Dynamic。Data Rates GEOは4kbps-30kbps、Data rates LEOは0.5Mbps-10Mbps。ほかにさらに小型の「Fixed」「Static」大型の「Dynamic XL」などがある。

衛星通信利用のM2M/IoTには高いポテンシャル

―具体的にはどのような場面で利用できますか?

Steinlauf氏:衛星通信を使ったM2M/IoTの市場は成長しつつあります。2027年には、交通分野で604万ユニットが導入され、10億ドル以上の利益、エネルギー分野では124万ユニットが導入され、2.7億ドル以上の利益を見通しています。hiSkyのサービス領域は主に交通、農業、海運、エネルギーなどです。他にも行政などさまざまな分野があります。

hiSky社資料より

まず交通分野の導入例を紹介しましょう。例えば運送トラックの屋根にSmartellite™を取り付けます。そうすると、工場からスーパーへ移動するまでのトラックの位置情報やエンジン、燃料、スピード、気温などのデータ情報を把握できます。速度が超過していないか、どの道を走行しているかなどのデータから、最適で効率的な経路で走行することも可能です。このようにして車両をマネジメントすることが可能になります。

それから漁業にも導入できます。漁業は最も発展したマーケットの一つであると同時に、まだネットワーク技術が進出していない分野とも言えます。例えば漁師がマグロを釣りたい場合、政府に漁業の許可申請をすることになります。このとき、漁船に当社製品を取り付ければ、漁船をモニタリングすることが可能になります。きちんと領海内で活動を行っていることが確認でき、違法な海域で活動している場合にはアラートを発することができます。

農業も導入の効果が期待できます。農業分野においては、米国で200億ドル規模の経済効果に寄与します。さらに世界全体では500億ドルぐらいの規模になるでしょう。
導入事例としては、蜂蜜を製造している養蜂場のケースがあります。養蜂家は作物やその他の植物の受粉シーズンに合わせて、国を横断する移動をしています。そこで、巣箱にIoTセンサーなどを取り付け、一ヶ所で蜜を集めているとき、および移動中のそれぞれで、温度などを監視し、ミツバチの健康状態を向上させます。これにより、蜂蜜の収量を増やすとともに、受粉が促進されることで、作物の質も向上する可能性があります。 養蜂場のデータは衛星通信を通じてデータセンターに送られ、そこから農家のモニタリングアプリなどにデータを転送します。

導入スポットは発電所から需要家まで

―エネルギーの管理やモニタリングを行うサービスの事例は、あるのでしょうか。

Steinlauf氏:hiSkyではもちろん、水道、ガス、電気などの公益事業の設備もサービスの対象としています。

公益事業のネットワークは電力などの潮流や利用状況を管理するスマートグリッドに移行しています。そこで導入可能な仕組みとしては、例えば、発電所から各家庭へ電力を配送する送電網の各スポットをモニタリングして、データを取得するというものがあります。これにより、リアルタイムで各スポットの計測結果を視覚化できると同時に、遠隔で管理ができ、その結果として企業や家計にとっては余分なコストのカットが実現できます。

hiSky社資料より

例えば家庭で電力を消費すると、データアグリゲータへ情報が転送され、そこから接続されたhiSkyの端末Smartellite™に転送されます。そこからさらに衛星ネットワークからAMIクラウドデータ、電力会社に転送されるという仕組みです。

hiSky社資料より

―今後、世界各地に小規模な再生可能エネルギーの発電設備などが増えていきます。例えば、こうした設備の管理にあたって、省力化・効率化に使えるものなのでしょうか。

Steinlauf氏:風力発電所のオペレーションを例に取りましょう。従来ですと、何をするにも現場に行く必要がありました。しかし遠隔での監視・管理が可能になることで、企業にとっては人件費や移動費などのコストカットを可能にします。 通常の衛星通信用の機器は価格が高く、サイズが大きいのですが、hiSkyの商品は1,000ドル以下という価格でかつ小型であり、各事業者が所有するデバイスに簡単に取り付けることができます。

―hiSky社の技術や製品、サービスは、社会や人々の生活をどのように変えるのでしょうか。

Steinlauf氏:政府の意思決定が必要になるとき、遠隔地のデータが容易に扱えるようになるので、例えば津波が起きた時など、発生源付近の地域に街中の中心部にいながらアラートを出すことができるようになります。私たちは今後も、より信頼できるサービスを提供して、もっと多くの人に使ってもらえるようにしていきたいと考えています。

(Interview&Text:柴田 奈々)

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