今、トヨタは脱炭素に向けて「電動車の全方位戦略」をとっている。その戦略とはEVとFCV、そして得意のハイブリッド車(HV)やプラグインハイブリッド車(PHV)だ。
2021年9月には、2030年までに少なくとも電動車を現在の4倍となる800万台販売し、そのうちEVとFCVを200万台投入する計画を掲げた。豊田氏は「電動化でトヨタより多くの選択肢を提供できる会社はない。充電インフラが行き届かない国や地域など、どのクルマを選ぶかはそれぞれの国の事情で変わる。お客さまがどれを選ぶか決まるまで全方位で戦う」という姿勢を崩していない。
だが今、自動車業界で注目を集めるのはEVだ。国内外のメーカーが相次ぎEVシフトを掲げている。
ホンダ | 2040年にすべての新車をEVとFCVに |
日産自動車 | 2030年代早期にすべての新車をEVとHVに |
三菱自動車 | 実質200万円の軽EVを日産と共同開発、2022年初頭に発売 |
マツダ | 2021年からEVを投入。2025年までにさらに3車種を投入 |
スバル | 2022年半ばまでに日本やアメリカなどにEVを投入 |
スズキ | 2025年に実質100万円の軽EVを投入 |
フォルクスワーゲン(独) | 2030年に新車の5割をEVに |
ゼネラル・モーターズ(米) | 2035年にエンジン車の販売終了 |
ホンダこそFCVの投入を掲げるが、乗用車でFCVに注力するのは世界でもトヨタくらいの状況だ。
国内外の主要メーカーがEVシフトを鮮明にする中、11月13日に閉幕したCOP26において、イギリスが2040年までに世界の新車販売をEVやFCVに転換する目標をまとめた。20ヶ国以上が合意した一方で、自動車産業を抱える日本やアメリカ、ドイツ、フランス、そして中国は参加を見送った。
参加を見送った国々は、日本も含め自動車が基幹産業の国ばかりだ。やはり、ガソリン車などの早期の販売禁止は雇用に響く。加えてEVシフトはまだまだ始まったばかりでもある。世界最大のEV導入国である中国でさえ、2020年のEVの販売比率は4.6%(115.9万台)だ。欧州は10.5%(104.3万台)とはじめて1割を超えたが(欧州自動車工業会調べ)、アメリカは2%(29.5万台)にとどまり、日本は0.3%(1.4万台)しかない。まだまだガソリン車やHVが圧倒的に多いのが現状だ。
特に日本では、HV車が充実しているうえ、EVの充電スタンド不足や再エネ由来の電力をなかなか充電できないという特殊事情もある。
こうした中、政府はEVの普及を目指し補助金を拡充するほか、多くの電力をためられる次世代蓄電池の開発などを支援するとともに、FCVなどの普及拡大も目指す。
FCVの普及を妨げる最大の課題がインフラだ。
国内には水素ステーションが整備中も含めて166ヶ所しかない(2021年8月時点)。ガソリンスタンド3万1,500ヶ所、EV充電スタンド約3万基に比べ、圧倒的に少ない。
岩谷産業は2021年11月10日、グリーンボンドを発行し総額100億円を調達すると発表。調達資金は水素ステーションの建設費にあてる。同社は現在までに国内53ヶ所、アメリカ4ヶ所、合計57のステーションを運営するが、2023年度までに国内で30ヶ所増やし、83体制にする計画を掲げている。
ただし、それでもようやく200ヶ所に届くかどうかのレベルだ。
水素ステーションが増えない要因は、高圧の水素を扱うという技術的な難しさに加えて、3億円を超える投資額がある。水素ステーションの建設には約3.3億円(2019年実績)がかかるうえ、年間約3,100万円の運営費が必要となる。それだけの投資をしても、FCVが普及していないため、水素需要は増えず、投資回収ができないという悪循環に陥っている。
出典:経済産業省
そこで政府は、世界に先駆けて策定した水素基本計画において、次のような目標を掲げている。
水素ステーション | 2030年までに1,000基 |
FCV | 2025年20万台、2030年80万台 |
FCバス | 99台(2020年時点)から2030年に1,200台 |
FCフォークリフト | 250台(2020年時点)から2030年に1万台 |
政府がFCVなどの普及にこだわるのは、日本が世界をリードする内燃機関技術をできるだけ生かしながら、脱炭素を図りたいという思惑に加え、水素社会の実現に向けて、FCVやFCトラックなどを早期に市場投入することで、水素需要創出に向けた起爆剤にしたいという狙いもある。
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