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ドイツの緑の党・政権入りの可能性強まる。非炭素化政策を加速へ(前編)脱炭素へ前進

ドイツの緑の党・政権入りの可能性強まる。非炭素化政策を加速へ(前編)脱炭素へ前進

2021/05/05

ドイツでは2021年9月に連邦議会選挙が行われる。アンゲラ・メルケル首相の政界引退、現在の与党の支持率の低下など、次期政権がどのようなものになるのか、目が離せない状況だ。こうした中にあって、支持率が上昇しているのが緑の党である。選挙後の政権入りが視野に入っており、女性首相候補を指名したことも話題だ。ドイツ在住のジャーナリスト、熊谷徹氏が報告する(前後編)。

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緑の党、初の女性首相候補を指名

2021年9月26日にドイツで行われる連邦議会選挙は、この国の歴史を大きく変える。2005年から16年間にわたり政権の座にあったアンゲラ・メルケル首相が、政界から引退する。この選挙では、環境政党・緑の党が連立政権入りし、二酸化炭素(CO2)削減のための政策に拍車をかける可能性が強まっている。電力市場にも大きな変化が生じることは必至だ。

緑の党執行部は、2021年4月19日のオンライン記者会見で、アンナレーナ・ベアボック共同党首(40歳)を、連邦議会選挙での首相候補に指名したことを発表した。満面の笑みを浮かべたベアボック氏は、「ドイツは大きな底力を持っています。政治を変えることによって、このパワーを解き放ちましょう」。緑の党初の女性首相候補に選ばれたベアボック氏は、こう言って党員と支持者たちにさらなる団結と奮起を求めた。

アンナレーナ・ベアボック共同党首
アンナレーナ・ベアボック共同党首 Grüne im Bundestag, S. Kaminski

旧西ドイツのハノーバー生まれのベアボック氏は、ハンブルク大学で政治学と法学を学んだ後、2004年から2年間ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスに留学。2005年に緑の党に入党し、同年から2008年まで、欧州議会のエリザベート・シュレーダー議員(緑の党)の事務所のリーダーを務めた。2009年から2012年まで欧州緑の党の役員会にも属した。英語を流暢に話すベアボック氏は、緑の党きっての国際派でもある。

ベアボック氏は巧みな弁舌と鋭い理解力・洞察力、高いネットワーク力によって、緑の党の中で急激に頭角を現した。同氏は急進的な左派勢力とは無縁の、「実務派」として知られる。

興味深いことは、ベアボック氏が党内の様々な勢力をうまく統制しており、他の政党に比べて情報管理や党内規律の確保に成功しているということだ。今回の首相候補選びも、他の党に比べてはるかにスムーズに行われた他、事前のメディアへのリークも皆無だった。ベアボック氏の「鉄の規律」は、多くの政治記者たちを驚嘆させた。

彼女は2009年に緑の党ブランデンブルク州支部の共同支部長に選ばれた後、2013年には連邦議会選挙に初当選。2017年まで議員団で気候変動についての政策を担当する責任者を務めた。

同氏は、2018年の党代議員集会で、ロベルト・ハベック氏(シュレスヴィヒ・ホルシュタイン州政府の元環境大臣)とともに緑の党の共同党首に選ばれた。2019年のドイツでの欧州議会選挙では、地球温暖化問題を他党よりも熱心に取り上げることによって、得票率を前回の約2倍に増やすという快挙を成し遂げた。

共同党首として分刻みのスケジュールをこなす一方で、10歳と6歳の娘を育てている。若い頃はトランポリン競技の選手だったこともある。早朝から深夜までの激務にもかかわらず、メディアの前に現れる姿は、常に活力とエネルギーに満ちている。

緑の党執行部がハベック氏ではなくベアボック氏を首相候補に選んだ背景には、フェミニズムを重視する同党が「男性と女性がともに同じ資格を持っている場合、レディーファーストの原則に基づいて女性を優先する」という政策を掲げているからだ。メルケル首相が政界を去る今年、ベアボック氏を首相候補に擁立することで、女性票を引きつけるという思惑もある。

アンナレーナ・ベアボック共同党首
アンナレーナ・ベアボック共同党首 2018年 Heinrich-Böll-Stiftung from Berlin, Deutschland, CC BY-SA 2.0, via Wikimedia Commons

緑の党の支持率増加、保守党は急落

ドイツのメディアは、ベアボック氏が首相候補に指名されたことを、大きく報じた。その理由は、この党が今年秋の連邦議会選挙で連立政権入りする可能性が高まっているからだ。

世論調査機関アレンスバッハ人口動態研究所が今年4月中旬に公表した政党支持率調査の結果によると、緑の党への支持率は去年4月には19%だったが、今年4月には23.0%に4ポイント上昇した。メルケル首相が属する政権与党の一つ、キリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)に次いで第2位である。

これに対し今年3月のCDU・CSUへの支持率は、去年4月の38%から10ポイントも減って28.0%になった。

 出典:Allensbacher Archiv, IfD survey for Frankfurter Allgemeine Zeitung 期間 2021年4月6日~4月15日 1,051人の回答者

その理由は、メルケル政権に対する市民の不満が強まっているからだ。感染者数が毎日2万~3万人ずつ増え、1日の死亡者が100~200人に達する中、コロナワクチンの接種が英国などに比べて遅れていること、簡易検査などに関する政策が右往左往していること、4人のCDU・CSU議員たちが中国からのマスクを省庁に斡旋する見代わりに、複数の企業から総額1,150万ユーロ(14億9,500万円・1ユーロ=130円換算)もの仲介手数料を受け取っていたスキャンダルが発覚したためである。

つまり保守政党に対する有権者の不満は、刻一刻と高まっている。CDU・CSUと緑の党の支持率の差は、じりじりと狭まりつつあるのだ。

特に市民の間で怒りが高まっているのが、予防接種の遅れだ。オクスフォード大学のデータバンク「Our World in Data」によると、5月2日までにワクチンを1回打たれた人の比率は、イスラエルが62.43%、英国が50.95%、米国が43.97%だったが、ドイツでは28.04%と大幅に低い。イスラエルでは国民の58.46%が2回予防接種を受けているのに対し、ドイツではわずか7.94%に留まっている。

Coronavirus (COVID-19) Vaccinations - Statistics and Research - Our World in Data

ドイツのロベルト・コッホ研究所によると、4月23日には感染者数が2万7,543人増え、265人が死亡した。

コロナワクチンは1回打つだけでも、重症化・死亡のリスクを引き下げる。もしもドイツ政府がもっと早く予防接種を行っていたら、この265人は死亡せずに済んでいたかもしれない。その意味で、ドイツでのワクチンの遅れは、生死を左右する問題である。

ドイツは、世界で初めてコロナワクチンを開発したベンチャー企業、ビオンテックがある国。そのようなワクチン先駆国で、肝心の国民に対する予防接種が遅れていることについて、多くの市民が首をひねっている。

現在の状況を見ると、ドイツが去年のパンデミック第1波で「欧州のコロナ対策の優等生」と呼ばれたことは、まるで嘘のようである。

緑の党の連立政権入りはほぼ確実

コロナ対策の躓きによって、CDU・CSUの支持率が急速に下がっているため、現在ドイツの政界・論壇では「どの党も緑の党抜きには、連邦議会選挙後の連立政権を組むことは難しい」という見方が有力だ。今のところ、単独で議席の過半数を占められる党は、一つもない。

今ドイツでは、様々な連立オプションが模索されている。1つの可能性は、緑の党とCDU・CSUが連立政権を組むやり方。もう一つの方法は、緑の党が社会民主党(SPD)と自由民主党(FDP)とともに三党連立政権を樹立する方式だ。また、緑の党がSPDと左翼党とともに、左派連立政権を作る可能性もゼロではない。

だがCDU・CSUの凋落傾向がさらに悪化し、緑の党の支持率がさらに増えた場合、同党が主導で連立政権を組む可能性もある。その場合、ベアボック氏がドイツ初の緑の党の首相として、メルケル首相の後継者の地位に就くかもしれない。現在緑の党の「連邦首相府に入る」というモメンタム(勢い)は凄まじく、低落傾向が色濃いCDU・CSUとは際立った対照を見せている。

緑の党の弱点は、旧東ドイツでの支持率が西側に比べると低いことだ。さらに、環境保護に力を入れる同党は大都市に住む大卒の高所得層、インテリの間で人気があるが、労働者階級の間の支持は弱い。ベアボック候補が大臣はおろか地方自治体の首長を務めた経験を持っていないことも、批判される材料である。

だが16年間にわたるメルケル政権を経験したドイツの有権者たちの中では、CDU・CSU主導の政府に飽き飽きして、変化を求める人が増えつつある。9月26日の投票日に同党に期待を寄せる市民は少なくないだろう。

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熊谷徹
熊谷徹

1959年東京生まれ。早稲田大学政経学部卒業後、NHKに入局。ワシントン支局勤務中に、ベルリンの壁崩壊、米ソ首脳会談などを取材。1990年からはフリージャーナリストとし てドイツ・ミュンヘン市に在住。過去との対決、統一後のドイツの変化、欧州の政治・経済統合、安全保障問題、エネルギー・環境問題を中心に取材、執筆を続けている。著書に「ドイツの憂鬱」、「新生ドイツの挑戦」(丸善ライブラリー)、「イスラエルがすごい」、「あっぱれ技術大国ドイツ」、「ドイツ病に学べ」、「住まなきゃわからないドイツ」、「顔のない男・東ドイツ最強スパイの栄光と挫折」(新潮社)、「なぜメルケルは『転向』したのか・ドイツ原子力40年戦争の真実」、「ドイツ中興の祖・ゲアハルト・シュレーダー」(日経BP)、「偽りの帝国・VW排ガス不正事件の闇」(文藝春秋)、「日本の製造業はIoT先進国ドイツに学べ」(洋泉社)「脱原発を決めたドイツの挑戦」(角川SSC新書)「5時に帰るドイツ人、5時から頑張る日本人」(SB新書)など多数。「ドイツは過去とどう向き合ってきたか」(高文研)で2007年度平和・協同ジャーナリ ズム奨励賞受賞。 ホームページ: http://www.tkumagai.de メールアドレス:Box_2@tkumagai.de Twitter:https://twitter.com/ToruKumagai
 Facebook:https://www.facebook.com/toru.kumagai.92/ ミクシーでも実名で記事を公開中。

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