2021年6月から7月にかけて、米国のEVスタートアップの上場が相次いだ。前回は、6月にNASDAQに上場した大型EVメーカーのProterraを紹介した。今回は、7月2日にNASDAQのオープニングベルを鳴らした、再エネ100%のEV充電サービスを展開するEVgoについてレポートする。日本ではEVの普及にあたって、充電ステーションの不足が取りざたされているが、米国においてはむしろEV普及を見越した積極的な事業展開がなされている。
ロサンゼルスに拠点を置くEVgoは、2010年に設立されたEV充電サービスのスタートアップだ。米国の35州で27万人を超えるエンドユーザーに対し充電サービスを展開している。もっとも特徴的なポイントは、再生可能エネルギー100%による充電を行っている点だ。
現在、全米で800ヶ所を超える急速充電ステーションを配備しているが、今後5年間でこの数を3倍にするとコミットしている。この達成には重要な役割を果たすあるパートナーの存在があるが、これについては後述する。
EVgoは、2019年にニューヨークを本拠に再生可能エネルギー設備の投資、開発、運営を行うLS Powerに買収され完全子会社となったが、NASDAQ上場によってLS Powerの持株は74%に減った。
EVgoの事業領域は、大きく分けて「商業顧客向け」「商用車マネジメント」「自動車メーカー」「公共団体」の4つだ。
商業顧客の領域においては、ウォルマートなどの小売店と提携し、充電設備の設計や設置、系統接続、運用やメンテナンスといった一貫したサービスを提供する。小売店側にとっては、エンドユーザーが小売店に滞在する時間を長くできたり、持続可能性に貢献していることをアピールできたりするメリットがある。
食料品店のほかにも、ショッピングセンターやガソリンスタンド、コンビニ、ホテルなどにも同様のビジネスモデルを展開中だ。
商用車マネジメントにおいては、社用車やバス、トラックといった小型車から大型車にいたるまで、さまざまなフリート・ソリューションを提供している。
ソリューションのキーとなるのは同社のクラウド型ソフトウェアだ。
このソフトウェアによって、商用車を所有・管理するコストを低く抑えられる包括的なソリューションとなっている。EV充電設備だけでなくソフト面でも有用なサービスを展開している点は、まさに気鋭のスタートアップといった印象だ。
EVgoのアプリ画面
自動車メーカーとの提携においては、日産やフォード、BMWやヒュンダイといったEVメーカー勢と共同し、プリペイド充電クレジットなどのサービスを手掛けている。注目したいのは、独自路線を走るテスラともしっかり提携している点だろう。
料金体系についても言及しておくと、現在、3つのメニューが用意されており、それぞれは電気そのものの料金、充電器の予約料金、毎月定額の基本料金の組み合わせとなっている。電気そのものの料金も時間帯別となっており、16時から21時がもっとも高い。
EVgo plusという契約では、毎月6.99ドルの定額料金を支払うことで、3ドルの予約料金不要で充電設備が利用でき、電気料金も最大25%オフになるという。
また、EVgoはさまざまな公益事業者や政府機関とも協力関係を築いており、コミュニティの充電スポットの整備も行っている。
さて、EVgoが今後5年間におけるEV充電ステーションの増設で重要な戦略と位置づけているのが、GMとのパートナーシップだ。2019年1月、GMはEVgoなど3社のEV充電スタートアップと協働し、全米の充電ネットワークをGMのシボレーボルトが利用できるようなシステム構築を開始した。
このパートナーシップについて、EVgoは2025年までに急速充電器を新たに2,700台以上設置し、現状の3倍に規模を拡大するとした。もちろん、再生可能エネルギー100%の電力のみを供給する。
一方のGMは、2021年6月、EVおよびAV(自動運転車)への投資を2020年から2025年にかけて350億ドルに増やすと発表した。2020年3月のパンデミック前の200億ドルの計画から75%も増額した。
続く同年7月には「Ultium Charge 360」というシームレスな充電サービスを目指す計画のうち、輸送用の商用車に関するプランを発表。EVgoはこのプランの優先プロバイダと位置づけられた。EVgoは、GMの電動化を充電インフラという足元から支える重要な役割を担っている。
GMとのパートナーシップ締結のプレスリリースより
8月11日に公表されたEVgoの2021年第2四半期の業績によると、売上は約480万ドル。前年同期比で約38%の伸びだ。顧客アカウントは約3万5,000件追加され、累計で27万5,000件を超えた。このまま行けば、2020年の売上1,400万ドルを軽く突破しそうだ。
EVの普及は充電ステーションの普及と表裏一体だ。その意味で、自動車メーカー各社がEVのシェアでしのぎを削っているのと同様に、充電設備各社も激しい戦いを繰り広げている。日本でも、近い将来このようなビジネスが活況をみせるのかどうか、注視していきたい。
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