バイオマス地域熱供給の実態と可能性 -西粟倉村の事例から- | EnergyShift

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バイオマス地域熱供給の実態と可能性 -西粟倉村の事例から-

バイオマス地域熱供給の実態と可能性 -西粟倉村の事例から-

2020年11月11日

岡山県西粟倉村では、地元の林業から生産される低質材などを用いた、バイオマス地域熱供給が、2018年に運転開始している。課題を抱えつつも、それを解決しながら稼働をし脱炭素の取組みを続けている。このバイオマス事業運営を委託されている、株式会社sonraku代表取締役の井筒耕平氏が、その将来像も含めて報告する。

低質材の有効活用として始まった、地域熱供給事業

西粟倉村は、2009年から始まった百年の森林事業の中で、低質材がうまく活用できていないことをきっかけとして、2013年度にバイオマス事業の可能性調査を行い、2014年度から順次、村内の温浴施設3ヶ所に薪ボイラーを導入してきました。こうして生まれた1,000tの『業務用薪』の需要創出の次に、公共施設をターゲットとした「地域熱供給」の構想を立ち上げ、2018年度に運転開始に至りました。

2017~2019年度 地域熱供給システム整備事業の概略工程

地域熱供給とは、一般的な熱供給形態である『設備』と『熱源施設』を1on1のような形でつなぐスタイルではなく、大きなボイラーから熱媒体(お湯であることが多い)を熱導管と呼ばれる管を通して複数の施設に送り込み、熱を供給する方式のこと。欧州では非常に普及が進んでおり、フィンランド、デンマーク、オーストリア、イタリアなど南北を問わず欧州で盛んな熱供給の方法です。

西粟倉村に敷設された熱導管

燃料チップの全量村内調達に向けた課題

西粟倉村の事業は、熱道管の総延長約4km、熱供給エリアはボイラー設備より半径500m圏内の施設とし、ボイラーは300kWと230kWを併設させ、175tの蓄熱タンクをセットしました。これによって、2018年には、同年に開所したこども園への熱供給を行い、ここでおよそ112t(2019年実績)のウッドチップを利用。2020年度に入り、新図書館および診療所の暖房、さらにデイサービスには暖房と給湯へ熱供給を開始し、今後2021年度からは小中学校、役場新庁舎へ熱供給を行うことになっています。これらを足せば約800m3(約700t)のウッドチップを利用することになります。

西粟倉村のウッドチップ

チップ材については、今後すべて村内から調達を予定しているそうで、C材と呼ばれるウッドチップになるような低質材(末口14cm以上)と、さらに林地残材として山林に放棄されてきた放棄材(末口14cm未満)を想定しているとのことです。放棄材は2019年度から搬出が進んでおり、放棄材だけで3,000m3を搬出した(2019年度実績)とのこと。

現状、村内の低質材需給が逼迫しており、放棄材の搬出が進むことでバイオマス利用の安定性は高まり、かつ林地内がきれいになるという効果を目論むことができます。ただし、放棄材搬出は、その販売単価が安いために素材生産業者が赤字負担しており、山主様へのある意味サービスとして提供されていることから、経済的な観点での持続性は低いとも言えます。

さて、気になる総工費ですが総額4.2億円(設計費含む)で、これは一次側(需要施設外までの設備一式)のみであり、環境省の補助金を活用しています。残る二次側(施設内の設備)も補助金を活用していますが、村単独予算の割合もそれなりにあるとのこと。運営に必要な燃料加工、運搬、ボイラーメンテナンスなどは、すでに村内でのバイオマス事業運営に実績をもつsonrakuに委託しています。

民間への事業継承という将来へのチャレンジも

順調に稼働しているように見える地域熱供給事業ですが、「燃料をいかに安く乾燥させるかが課題」と西粟倉村役場の白籏佳三氏は言います。

乾燥していないチップを使用した場合、ボイラーが傷んだり、チップ搬送装置が詰まるような問題が発生することにつながり、実際に何度も改良が加えられてきました。

現在、村内の3つの小規模製材所から端材を仕入れ、チップ化しており、これはもともと乾燥しているため問題ありません。ただ、この燃料は合計100tに満たないため、不足分を隣接する智頭町から仕入れているとのこと。ただし、運賃もかかる上、今後もチップ需要が増加するため、村内からの全量調達はやはり目指すべき道筋です。

とはいえ、現状は村内には強制乾燥装置がないことから、原木をチップ化して乾燥させることができないことが課題となっているわけです。

この課題に対しては、来年度にチップ保管庫の導入までは予定されてはいるものの、強制乾燥装置の検討はまさに現在行っており、コージェネ(熱電併給)やバイオマスボイラーなどがアイデアとして挙がっている段階です。

こうした課題が解決し、ある程度の規模感と安定性を高めた1~2年後には、運営を単なる『作業委託』から、『事業』として受け継いでほしいと白籏氏は言います。作業だけでなく、燃料仕入れや顧客課金、保険などがその対象となり、よりインフラとして民間側の緊張感が増すことになり、よりよい結果が望めるのではないでしょうか。

バイオマス地域熱供給の日本での拡大の可能性は?

さて、欧州で広がる地域熱供給ですが、今後、日本で広げていく必要性や可能性などはどう考えるべきなのでしょうか。

実は、地域熱供給は日本国内では珍しいものではありません。特に都市圏では、大きな駅周辺などのビル群において、地域熱供給を行っている事例が(一社)日本熱供給事業協会により多数報告されています。

ただし、西粟倉村のような地方圏では、熱需要が分散し、規模・利用期間が些少であり、地下配管工事が高額であることなど、イニシャルコストの割に売上が小さく、超長期では投資回収は可能なものの、事例も少ないためにデューデリジェンスも難しく、民間資金を投じることは難しいと言えます。

実際、国内事例は北海道下川町、岩手県紫波町、山形県最上町など10に満たない状況で、かついずれも民間ではなく行政が中心となって事業を進めており、提供される熱単価も決して安くないのも課題と言えます。

欧州では「集中的に排煙することで地域的な環境負荷が低い」「もともと化石燃料で運転していたため熱源をバイオマスに変更するだけで実現」などの理由、さらに「協同組合制度が一般的であること」や「地下配管工事がそれほど高額ではない」、「補助制度などの政策的優遇」もあって広まってきたようで、こうした政策的、経済的、環境的という複層するインセンティブや規制などが広がっていくポイントなのでしょう。

また、欧州ではテクノロジー面でもハード・ソフトの両側から成長を続けているようで、こうした技術移転なども重要な論点だと考えます。こうした技術移転については、例えばデンマーク大使館と環境エネルギー政策研究所が中心になって、「第4世代地域熱供給」というキーワードをもって調査やイベントなどを行う動きも出ています。

今後も、地方での実践と、実践からの課題に基づく政策面への反映などの仮説検証ループを回しながら、少しずつ社会実装していく取り組みに期待しています。

参考

井筒耕平
井筒耕平

1975年生。愛知県出身、神戸市在住。環境エネルギー政策研究所、備前グリーンエネルギー株式会社、美作市地域おこし協力隊を経て、2012年株式会社sonraku代表取締役就任。博士(環境学)。神戸大学非常勤講師。 岡山県西粟倉村で「あわくら温泉元湯」とバイオマス事業、香川県豊島で「mamma」を運営しながら、再エネ、地方創生、人材育成などの分野で企画やコンサルティングを行う。共著に「エネルギーの世界を変える。22人の仕事(学芸出版社)」「持続可能な生き方をデザインしよう(明石書店)」などがある

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