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米国テキサス州では、2021年2月15日、厳しい冬の嵐と寒さのため、風力発電の多くが停止し、十分な電力供給ができなくなった。電力市場の価格上昇は100倍を超える一方、非常事態宣言が発令され、計画停電を実施。この原因として、電力市場の不備を問う声が出ている。ただ、この冬は、英国や日本でも電力市場は高騰しており、原因は単純なものではなさそうだ。
2021年2月、米国中西部から北東部にかけて、猛烈な冬の嵐が起こり、各地に大雪をもたらした。米国気象庁によると、長期に続く寒さは、米国各地で最低気温が更新されるというものだった。これほど寒冷な天候は、米国ではおよそ100年ぶりだという。
この寒さの影響をもっとも強く受けたのが、テキサス州であり、電力系統を運営するERCOT(Electric Reliability Council of Texas)だった。
2月14日午後6時には、冬の電力需要としては、それまでの記録であった6,591.5万kWを超え、6,915万kWに達した。その一方で、供給力は、風力発電の凍結と火力発電用の天然ガスの不足によって、十分ではないことが予測された。この時点で、レベル1の非常事態宣言が出され、需要家に対して節電が要求された。
#ERCOT set a new winter peak demand record this evening, reaching 69,150 MW between 6 and 7 p.m. This is more than 3,200 MW higher than the previous winter peak set back in January 2018. Thanks to everyone who has been conserving today. We appreciate it! #conserve #saveenergy pic.twitter.com/eq56LLxcAS
— ERCOT (@ERCOT_ISO) February 15, 2021
6,915万kWの記録を伝えるERCOTのTwitter
2月15日午前1時過ぎには、レベル3の非常事態宣言が出され、計画停電が実施された。これは地域ごとに順番に電力供給を停止するもので、停電時間は15分から45分程度続く。こうした状態は2月17日まで続く見通しとなっている。停電となるのはおよそ400万世帯だ。
同様に、ノースダコタ州やオクラホマ州を含む14州の送電網を運用するSPP(Southwest Power Pool)や中西部の独立系統運用者のMISO(Midcontinent Independent System Operator)も計画停電を実施し、さらに計画停電は隣国のメキシコにも及んでいる。
ダラスやヒューストンでは気温がマイナス12℃以下となったが、そうした中で人々は電気を使わずに過ごすこととなった。
一方、電力市場の価格は高騰し、2月10日の時点では、1kWhあたり50セント以下だったものが、2月15日には9ドル以上(日本円で945円以上)となった。
これは、この冬に発生した日本の電力市場の高騰をはるかに上回るレベルだ。
計画停電を実施せざるを得なかったのは、3,000万kWにおよぶ電源の脱落があった。その中には、凍り付いた風力発電と燃料が不足した天然ガス火力発電が含まれる。
とりわけ風力発電は設備容量の23.3%を占めている。ERCOT全体の設備容量は7,720万kWなので、風力発電がすべて脱落したら、その時点で冬の最大電力需要に対応することはできなかったことになる。さらにこれらの電源の脱落の影響で、連鎖的な石炭火力発電や原子力発電の脱落もこれに続いた。
こうした事態を招いたことに対し、ERCOTに対して十分な電源を確保してこなかったという批判がある。
Energy Only Market(電力量取引のみの市場)であるERCOTでは、日本で昨年から開始された容量市場のようなしくみは存在しない。取引市場ではあくまで電力量(kWh)の取引のみが行われる、シンプルな市場だ。
そのため、通常は市場価格が低く、発電事業はなかなか利益につながらないが、何年かごとに電力価格が高騰し、それによって発電事業者は利益を得ることになる。直近では2019年8月に、それまでの最大電力を更新する一方、取引価格は今回と同様に1kWhあたり9ドル程度まで上昇した。
ERCOTの電力市場価格 急激に高騰しているのがわかる
しかし、こうした市場ゆえに、競争力のない石炭火力の多くが廃止され、電力供給の予備力が不足していたという指摘がなされている。容量市場が機能し、こうした発電所が廃止されなければ、電力の供給に余力があったのではないか、ということが指摘される理由だ。
とはいえ、ERCOT自身も2019年の高騰という経験を踏まえ、供給信頼性を高めるために計画準備金を積み立ててきた。DR(ディマンドレスポンス*)についても、200万kWを確保していたという。さらに2021年夏には、予備力は15.5%まで引き上げられると予測していた。
米国を襲った強い寒さは、10年に一度しか起こらない極端な気象状況だということはできるだろう。こうした極端な場合のためだけに、通常は使わない発電所を維持していくことはコストがかかりすぎるという指摘もできる。こうした発電所が、容量市場を通じて維持可能なのかどうかは、議論の余地があるだろう。
容量市場を導入しているPJM(米国北東部のペンシルバニア州、ニュージャージー州、メリーランド州を含む米国北東部の地域系統運用者)でも、石炭火力発電は天然ガス火力発電に対して十分な競争力を持っていない。そうであっても、容量市場を通じて十分な設備容量を確保するのであれば、高コストではあっても発電設備を維持できるかもしれない。
一方、実際に容量市場が取り入れられているにもかかわらず、価格が高騰しているケースもある。
2020年末から2021年にかけて、英国でも電力の市場価格が高騰している。主な原因は、天然ガス価格の上昇だ。2021年1月6日には、1kWhあたり約1.5ポンド(約220円)を記録した。これも日本の電力市場並みの高騰といえる。このときは、十分な予備力に対し、110万kWの電源が不足したという。
この高騰を受けて、英国のガス・電力市場局(Ofgem)は、電力・ガス料金の上限を4月にも引き上げる予定だ。電気とガスを併せて、年間80ポンド(約2,269円)の値上げになるという(The Guardianの記事)。市場連動型の料金メニューが普及している英国では、価格の上限設定が消費者を保護しているが、それでもこうした措置が必要ということだ。
容量市場によって、設備利用率が低い発電所が運用されているものの、そうした発電所が運用される状況では、結果として需給が不安定になることは避けられないという見方も出ている。
米国テキサス州と英国のそれぞれに起きた出来事から、何を学べるのだろうか。
電力の市場価格の高騰を防ぐためには、容量市場だけでは万全ではないということはいえるだろう。それでも容量市場があれば、停電を回避することが可能なのだろうか。
しかし、同時に問われるのは、10年に一度以下しか起こらない異常気象のために火力発電を維持していくことが合理的なのかどうか、ということでもある。実際に、2019年を除けば、ERCOTは低い電力の市場価格を享受してきた。
米国テキサス州では、風力発電という変動する再生可能エネルギーの増加が、供給の不安定さをもたらしているともいえる。とはいえ、再エネの導入拡大は避けられない。そうだとしたら、これまで以上に設備利用率の小さい発電設備を容量市場なり他の容量メカニズムで維持していくことになるのだろうか。
米国テキサス州の計画停電と価格高騰は現在進行中である。日本や英国における価格高騰と併せて、今後、きちんとした検証がなされるべきだ。その上で最適な電力市場の設計が、再エネ主力電源化に不可欠であることは、どの国においても同様だ。
(Text:本橋恵一)
*DR(ディマンドレスポンス):需要家側エネルギーリソースの保有者もしくは第三者が、そのエネルギーリソースを制御することで、電力需要パターンを変化させること
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容量市場なしで予備力を確保するアメリカ・テキサス州 山家公雄
参照
U.S. Department of Energy : Extreme Cold & Winter Weather | Update #1, 2021.2.16
Power Mag : Texas Gov. Declares ERCOT Reform ‘Emergency’; Millions Still Without Power, 2021.2.16
Power Mag : ERCOT Sheds Load as Extreme Cold Forces Generators Offline; MISO, SPP Brace for Worsening System Conditions, 2021.2.15
ARS Technica : Texas’ power grid crumples under the cold, 2021.2.16
Reuters : Cold snap leaves one dead, over 4 million without power in Texas, 2021.2.15
Reuters : Texas electric grid prices spike more than 10,000% amid outages, 2021.2.15
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