日本政府が目指す2050年の脱炭素社会に向けて、太陽光発電などの再生可能エネルギーの普及が進んでいる。ただ、その裏側で一般家庭の電気料金がさらに増える可能性が出てきた。国民負担は最大で年間1,170億円にのぼると試算され、2023年度から電気料金の値上げが実施されるかもしれないという。いったい何が起こっているのか、解説する。
経済産業省は、送配電網を使って電気を送る使用料、いわゆる託送料金を再エネ発電事業者含めたすべての発電事業者が一定額負担する、新たな制度の導入を2023年度から予定している。再エネ発電事業者などが負担する使用料は「託送料金の発電側課金」と呼ばれている。
この発電側課金の負担をめぐっては、国が目指す再エネ主力電源化を妨げる可能性が何度も指摘されてきた。5月12日に経済産業省が開催した再生可能エネルギー大量導入・次世代電力ネットワーク小委員会において、発電側課金を再エネ発電事業者に代わって、国民が負担する案が示された。国民負担は最大で年間1,170億円にのぼるという。
発電した電気を送るために欠かせない送配電網は、東京電力や関西電力などの大手電力10社が建設、そして維持・管理してきた。この建設、維持にかかる費用を託送料金と呼び、電気料金に上乗せされて国民が負担する仕組みになっている。現在までのところ、託送料金は国民が100%負担している。
ところが、送配電網の多くは高度成長時代の1970年代までにつくられたものがほとんどで、老朽化が進んでおり、今後、建て替えなど維持管理コストの増加が避けられない状況にある。
さらに太陽光発電を中心とした再エネの導入拡大には、再エネ電気を各地に送る送配電網の増強が必要なため、新たな建設コストの増加も課題となっている。
その一方で、人口減少によって電力需要が伸び悩むという予測があるなか、太陽光発電を屋根などに設置する一般家庭が増え、太陽光発電でつくった電気を自分たちで使う、自家消費比率の割合も年々増加している。電力需要が減り、さらに自家消費比率が上昇すれば、電気料金に上乗せしていた託送料金が徴収できなくなってしまう。
大手電力会社にすれば、送配電網を維持するために託送料金を値上げしなければならない。しかし、託送料金を値上げすればするほど、値上げを嫌がる人たちは住宅屋根に太陽光発電を導入し、離脱が進む。そうなると、ますます託送料金が徴収できなくなってしまう。こうした負のスパイラルが生じると、送配電網を維持するだけの費用を徴収できず、最終的に電力インフラが崩壊し、安定的な電力供給ができない事態に及んでしまう。
電力インフラの崩壊を回避するためにも、発電事業者も電気を送るために送配電網を使っているのだから、相応の使用料を負担すべきではないか。そうして浮上したのが、発電側課金であった。
だがここにきて、日本政府が2050年の脱炭素社会の実現を表明した2020年を境に、発電側課金をめぐる状況が一変する。
国は再エネの普及拡大に向けて、再エネでつくった電気を大手電力会社が一定期間、決められた価格で買い取ることを義務づけたFIT制度を2012年から実施している。このFIT制度のもと、太陽光発電を中心に再エネは急速に普及しつつある。
しかし、発電側課金を2012年までさかのぼって、FIT制度で認められた再エネ発電事業者に一律に適用することに多くの異論が噴出してきた。
異論の多くは、「過去の遡及適用によって、太陽光発電事業などの事業収支が悪化する」。あるいは「過去への遡及適応は、将来、さらなる制度変更が実施されるというリスクを高め、ひいては国やFIT制度の信頼性を揺るがす。再エネへの新規投資を妨げる」とし、「再エネ発電事業者にかけられる発電側課金は、「賦課金」として一般家庭など国民が負担する仕組みを導入すべきだ」と主張してきた。
こうした意見をもとに、5月12日開催の審議会において事務局は、再エネ発電事業者に対する負担軽減策として、「賦課金投入」案を提示した。国民負担額は最小で年間約320億円、最大約1,170億円にのぼるという。
委員会では、賦課金投入は国民負担の増加につながるだけに反対の意見が多数あがった。ある委員は、「賦課金の投入は、将来の再エネ投資に充てるべき原資を使うことになるため、再エネ導入にブレーキをかける可能性が高い」と明確に反対の姿勢を示した。賛否両論あがるなか、議論は簡単に収束しそうにない。
脱炭素社会の実現に向けて太陽光発電など再エネをさらに普及させるためには、発電事業者による経営努力だけでなく、一般家庭も一定の負担を負うことが避けられなくなっている。
だが、発電側課金まで国民負担とするのか。
脱炭素に向けて、今後、電気料金がどれだけ値上がりするのか、もはや見通せない状況だ。再エネ普及と国民負担のバランスは将来どうなるのか。脱炭素社会を実現するためにも、国は国民に対して丁寧に説明するべきだろう。
(Text:藤村朋弘)
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