IEAが2020年11月に公表したレポート「Renewables 2020」によると、2020年は世界的なコロナ危機であるにもかかわらず、2021年に向けて、再生可能エネルギーの成長は加速しており、総電力容量の約90%を占めている。さらに2025年までの見通しも示しているが、さらに成長させるためには、持続的な政策、とりわけ送電線の拡充などが必要になる。
2020年11月10日、IEA(国際エネルギー機関)は年次レポート「再生可能エネルギー2020(Renewables 2020)」を公表した。
このレポートによると、2020年は全世界におけるコロナ危機にもかかわらず、他のすべての燃料が需要減であることに対し、再生可能エネルギーによる発電は7%増加する。また、正味の発電容量は、約4%増加し、ほぼ200GWに達する。この増加した発電容量のうち、約90%が再エネとなる。
特に太陽光発電と風力発電については、補助金などの期限切れを目前にした、中国と米国での開発が目立つ。建設の遅れについても、5月には物流の問題が解消され、回復しているということだ。
さらに新規稼働に向けてオークションによって決定した発電容量は、2019年上半期より15%増となり、過去最高となっている。一方、資金調達活動は、上半期こそ停滞したが、下半期は再び増加する見通しとなっている。
今後の予測にあたっては、中国など主要市場での政策決定や、家庭・企業などの投資の優先順位の変更などにより、2022年までに太陽光発電だけでさらに毎年150GWが追加される可能性があるという。
さらに、風力発電と太陽光発電は、多くの国で最も安価な発電となり、その総容量は、2023年には天然ガス火力発電を、2024年には石炭火力発電を追い抜く方向だという。洋上風力発電については、2025年には風力発電市場の5分の1を占めるまで急増するという。
コロナ危機に対し、各国は経済対策として、合計で4,700億ドルのエネルギー予算となっており、そのうち約1,080億ドルがクリーンエネルギーを中心とした対策となっている。
2021年には、欧州連合(EU)とインドでの拡大が加速していく。IEA 2020. All rights reserved.
2025年には再生可能エネルギーが石炭を抜いて最大の発電源となる。IEA 2020. All rights reserved.
以下、再生可能エネルギーの分野別に見ていく。
太陽光発電については、2020年には107GWに達すると予想されており、2021年はさらに加速し、117GW近くが設置されると予測している。中国と米国は支援策が終了するため、欧州とインドの加速が目立つ。
米国の場合、2020年には17GWの太陽光発電が設置される見込みだが、これを推進しているのは、電力会社に再生可能エネルギーの発電を義務付けるRPS制度だ。ただ、2022年には投資税額控除の減額やPPA需要の減少の可能性から、発電所設置の加速が止まる可能性がある。
一方、インドは2020年こそ設置が減速したものの、2021年以降は毎年10GWを超える設置が見込まれている。課題は送電網のボトルネックと用地取得だ。
欧州では、2020年に16.5GWが設置される見通しだ。2021年はドイツ、フランス、ポルトガルでのオークションによって21GWが設置され、2025年頃には年間25GWまで成長する。EUの政策支援がこれを支えていくという。各国がオークションを通じて増加させることに対し、スペインではPPAによる増加も大きい。
国・地域別の太陽光発電の容量追加量、2015年~2022年。IEA 2020. All rights reserved.
風力発電については、2020年には65GW増加しうち5.3GWが洋上となる。2021年はさらに加速して68GWうち7.3GWが洋上となる見込み。2022年もほぼ同じ規模、2023年は少し落ち込むものの、2025年頃は再び65GW程度の開発になる見通しで、100GWになる可能性もある。
FIT制度が終了する中国では2021年には新規稼働が減少するが、それを英国やフランスなどの欧州、およびインドがカバーする。中国の2022年以降の増加にあたっては、第14次五ヶ年計画次第となる。また、多くの国では太陽光発電と同様にオークションによって増加するが、米国ではPPAによる増加が中心となっている。PPAの拡大やRPSの目標設定などにより、さらなる増加が進む。
課題は、騒音などに対する社会的受容と、送電網の整備だ。
洋上風力発電については、急成長が見込まれ、直近では英国やフランスで増加し、2024年には米国がオークションを通じて最大の市場の1つになると見込まれている。
一方、2025年までに180GWを超える風力発電が運転開始から15年目を迎える。これらのリパワリングや改修も課題となってくる。
風力の増加量全体に占める洋上の割合は倍増し、2025年には20%に達する。IEA 2020. All rights reserved.
今回のレポートでは、トレンドとなるトピックがいくつか紹介されている。
まずは石油・天然ガス会社による再生可能エネルギーへの投資の状況だ。実際に石油メジャーなどは再生可能エネルギーへの投資を増やしており、2019年には約5GWの容量に対応した株式を保有している。特に欧州の石油メジャーの成長の95%は再生可能エネルギーによるものと予測される。
これに対し、米国と中東の石油会社は再生可能エネルギーに関する目標を発表していない。また、こうした取り組みにもかかわらず、2025年の世界の再生可能エネルギーのうち、石油・天然ガス企業が所有するものは全体の2%にとどまるという。
太陽光発電や風力発電などの変動する再生可能エネルギー(VRE)が増加したことで、出力制御の指令が出されること(いわゆるディスパッチダウン)が増えている。特に中国が多く、2016年には全世界で60TWhを越える制御がなされるうち、およそ50TWhが中国だ。しかし、2017年以降、地域間送電線の容量拡大と市場操作によって、減少傾向となっている。
米国カリフォルニア州のシステムオペレーターCAISOでは、2020年4月に318GWhを制御した。とはいえ、ディスパッチダウンは経済的観点から、送電線や蓄電池などの整備と比較してメリットを上回る可能性があると指摘している。
また、航空機や船舶のバイオマス燃料についてもレポートでは大きく注目している。
航空会社は、とりわけコロナ危機の影響を受けており、経営すら危うくなっている。こうした状態で、脱炭素化に向けて、SAF(Sustainable aviation fuel)の利用を拡大することは、生産規模とコスト面から難しい。30の航空会社で燃料に2%のSAFを混入させるだけで、年間27億Lが必要となるが、これは現在の生産レベルの50倍以上となる。生産能力を整備するには、約20億ドルの投資が必要になる。
海運は貨物輸送の4分の3を占めており、2019年のエネルギー消費は石油換算で2億2,100万トン、ブラジル1国分のエネルギー消費に相当する。この分野についても、水素やアンモニアなど低炭素燃料が不可欠だ。2022年から、5,000トン以上の船舶については、EU排出量取引制度に含まれることとなっている。
(Text:本橋恵一)
IEA:再生可能エネルギー2020(Renewables 2020)
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