ロシア産天然ガス依存を大幅に削減する方法をIEAが発表 依存度が高い欧州、脱ロシアなるか | EnergyShift

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ロシア産天然ガス依存を大幅に削減する方法をIEAが発表 依存度が高い欧州、脱ロシアなるか

ロシア産天然ガス依存を大幅に削減する方法をIEAが発表 依存度が高い欧州、脱ロシアなるか

ロシアによるウクライナ侵攻を受けて、欧州ではロシア産天然ガスへの依存の引き下げが課題となっている。EUで消費される天然ガスのおよそ40%はロシアからの輸入によるものだ。こうした状況を受けて、IEA(国際エネルギー機関)は、ロシアからの天然ガスの輸入を大幅に削減する方策についてとりまとめたレポートを公表した。ここに示された10のプランを実行することで、ロシア依存を3分の1以上削減するだけではなく、温室効果ガス(GHG)排出削減にもなるという。

欧州グリーンディール推進ともなるロシア依存低減

2022年3月3日、IEAは、EUの「ロシア産天然ガス依存を削減する10のプラン」と題するレポートを公表した。レポートでは、プランを実行することで、1年以内に輸入を3分の1以上削減できると分析している。

EUはロシアから年間155bcm(10億立方メートル)も輸入しており、消費量の約40%、輸入量の約45%に相当する。うち140bcmがパイプライン、15bcmがLNGによる輸入だ。

一方、懸念されるのは発電所の代替燃料としての石炭利用の増大だ。しかしIEAはこれに対し、欧州グリーンディールにそった方策のみを提案している。

レポートでは、プランをすべて実行していくことで、50bcm以上の輸入量削減となり、さらに追加措置を講じることで80bcm以上が削減できる可能性があるという。

また、これらの措置を実施することによって、停滞気味だったEUの気候変動対策が進むことにもなる。

実施に当たっては経済的なコストがかかる。また、ガス輸出国をはじめ輸入業者、政府、産業界、消費者の協力が不可欠な要素となってくる。

では、レポートが提案しているのは、どのようなプランなのだろうか。

・天然ガス供給

EUとロシアのガス会社であるガスプロムとの間では、毎年15bcmを超える長期の輸入契約が終了することになっている。そのため、新たな契約をガスプロムと締結するかわりに、他の供給源と契約し、輸入を減少させることができる。

・供給の多様性

ロシアの代替となる産ガス国は、パイプラインではアゼルバイジャンやノルウェーなどがある。こうした国から最大10bcmの輸入増となる。

LNGについてはさらに多様な輸入先があり、特にアジアの輸入業者の供給余力を利用することができる。理論上は60bcmが可能だ。ただしLNG市場のひっ迫と価格高騰にもつながりかねない。そのため、レポートでは20bcm増加を織り込んでいる。

また、輸入にあたっては、パイプラインなどからの年間2.5bcmと推定される漏洩などの対策も不可欠だ。

短期的には難しいが、長期的にはバイオガスやグリーン水素で代替していくことも検討される。いずれも2050年カーボンニュートラルの達成に必要だ。

こうした取組みを通じて、ロシア以外から30bcmが追加で供給される。

・ガス貯蔵

ガスの貯蔵施設を追加することは、次のような役割がある。欧州ではガス価格は季節で大きく変動することから、需要期前にガスを貯蔵していくことに、十分な価格インセンティブがある。来冬までに、18bcmの貯蔵が必要となる。

・電力

2022年には再エネによる電力量は100TWh以上の増加が見込まれる。これは前年比15%増だ。これに対し、EU各国の協調的な政策を通じて、さらに20TWhの追加が可能だ。また、補助金(およそ30億ユーロ)を利用して屋根上型太陽光発電を追加することで、さらに15TWhが発電される。これにより、ガス需要を6bcm削減することができる。

・原子力とバイオマス

フィンランドで建設中の原子力発電所を運開させることで最大20TWhが発電される。また、閉鎖が予定されている原子力発電所5基の運転を一時的に継続すること、およびバイオマス発電所の稼働率を、現在の50%から引き上げることで、最大50TWhが追加で発電され、13bcmのガス需要が削減される。

・価格高騰に対する消費者対策

現在の電気料金は電力会社によって大幅な利益が出せる構造になっている。EUにおけるガス火力、石炭火力、原子力、水力の超過利潤は最大2,000億ユーロに達しているが、企業に対する課税を強化し、エネルギー料金の引き下げのために用いることで、消費者の負担を減らすことができる。

・ガスボイラーからヒートポンプへの移行の加速

ヒートポンプによる暖房はガスボイラーよりも効率的だ。そのため、EUにおけるヒートポンプの設置率を現在の2倍にすることで、2bcmのガスが節約できる。事業用のガスボイラーをヒートポンプに置き換えることも可能だが、時間がかかる可能性がある。

・建物等の省エネの加速

EUの建物のうち、改修されているのは全体の1%程度だが、さらに0.7%上乗せし、断熱を強化する。このことにより、1bcm以上のガスが節約できる。

EUのエネルギー効率化指令と建物のエネルギー性能指令の2つの政策は、建物のガス需要を45%削減することが見込まれており、この政策を加速させる。

家庭の暖房をスマートサーモスタットでコントロールすることで省エネを加速させることができる。現在、年間100万戸のペースで設置しているが、これを3倍にすることで、0.2bcmのガスが削減できる。またそのために必要なコストは10億ユーロである。

この他にも、温水ボイラーの適切な点検や中小企業の省エネ支援などを通じて、2bcmのガスが節約され、エネルギーコストの削減、産業の活性化が進む。

・一時的な暖房の設定温度の調整

現在、EUの建物の暖房温度設定は22℃以上となっている。これを1℃下げることで、10bcmのガス需要を削減することができる。

・横断的な対策

電源の多様化や脱炭素化を進めるためには、電力システムの柔軟性の確保や需要のシフトも必要となる。現在は、ガス火力が柔軟性を主に担っている。これを代替するエネルギー資源として、DR(デマンドレスポンス)やエネルギー貯蔵システムの拡充が必要となる。

10のプランを実行しても輸入はゼロにはならない?・・・次ページ

もとさん(本橋恵一)
もとさん(本橋恵一)

環境エネルギージャーナリスト エネルギー専門誌「エネルギーフォーラム」記者として、電力自由化、原子力、気候変動、再生可能エネルギー、エネルギー政策などを取材。 その後フリーランスとして活動した後、現在はEnergy Shift編集マネージャー。 著書に「電力・ガス業界の動向とカラクリがよーくわかる本」(秀和システム)など https://www.shuwasystem.co.jp/book/9784798064949.html

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