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意外なことに、イギリス最大手の電力会社はBritish Gasというガス事業者だ。1990年の電力自由化前からの盤石な顧客基盤を武器に、電力・ガスのトップシェアを誇る。親会社のCentricaは、新型コロナで打撃をこうむったものの、脱炭素化の取り組みを緩めることはない。
イギリス最大の電力会社は、ガス事業者Centrica傘下のBritish Gasだ。536万世帯に電気を、659万世帯にガスを供給し、イギリスでの市場シェアは電力で19%、ガスに至っては28%だ(2019年)。
新電力の勢力拡大で下落傾向にあるものの、依然としてトップシェアを保っている。イギリスの大手電力6社(Big6)の中でも、もともとガス会社だったこともあり、ガス市場のシェアは群を抜いている。
British Gasの親会社であるCentricaは、国際的なエネルギーサービスを提供する企業で、主に英国、アイルランド、北欧などで事業展開を行っている。2016年11月には、東京ガスとLNGの調達に関する連携協定を結んだことでも知られる。昨今は新型コロナによるガス需要減少の影響を強く受け、2020年7月には、2000年に買収した北米の子会社Direct Energyを米電力大手NRG Energyに36億2,500万ドルで売却することに合意、2021年1月5日には売却を完了している。
British Gasの特色として、7割以上が再生可能エネルギーの電気ということも挙げられる。
2019年度(2019年4月1日~2020年3月31日)のBritish Gas全社の電源構成は、原子力が24%を占め、残りの76%が再生可能エネルギーだ。すでに石炭や天然ガスといった化石燃料からは脱却し、CO2排出係数はゼロとなっている。
一方、イギリスの全国平均は石炭が4%、天然ガスが39%と化石燃料も含まれ、排出係数は0.205kg-CO2/kWhだ。英国政府は、2025年までに石炭火力をすべて廃止する方針を打ち出している。
British Gasとイギリス平均の電源構成比 British Gas ウェブサイトより
British Gasの家庭向け再エネ100%メニュー「Green Future」では、電力とガスを取り扱っている。同メニューの電源は太陽光発電や風力発電のPPAによるものだ。ガスは、食品や農業による廃棄物を使ったバイオガス由来が4%。残りの96%は、開発途上国におけるカーボン削減活動によって排出量をオフセットしたガスになる。ユニークな取り組みとしては、2019年1月からは、電力とガスの契約それぞれに対し、1年間で5本の植樹も行っている。電力とガスの双方を契約すれば年に計10本の植樹ができる。
Green Futureの料金は、従量料金と1日単位で発生するスタンディングチャージ(固定費)で構成される。スタンディングチャージとは、配電線の接続コストをカバーするものだ。料金単価は契約した月ごとに定額制で決まっており、2021年1月時点では、2022年3月までの定額料金となっている。
2020年12月26日時点での単価は、ロンドンの場合、電気の従量料金が18.563ペンス/kWh、スタンディングチャージが28.647ペンス/日。ガスはそれぞれ3.498ペンス/kWh、31.005ペンス/日だった。イギリスの標準的な家庭の条件でとった見積もりは、電気が月額55.41ポンド、ガスが41.54ポンドだった。合計で月額96.95ポンド、年間1,163.41ポンドだ。
British Gas電気料金表 Green Future 2021年2月1日、post code SW1Y 6AXで試算 British Gasウェブサイト
再エネ100%メニュー(Green Future)のほかにも、4つのメニューがある。ボイラーの管理などホームサービスカバー契約者のための「Complete Protection」、電気のみ再エネで固定料金制の「HomeEnergy Fix」、解約手数料がなく変動料金制の標準メニュー「Standard Variable」、プリペイド型の「Safeguard PAYG」がある。
この他に、EV保有者向けに深夜0時から午前5時までが格安の「Electric Drivers」もあるが、こちらは電話で問い合わせる必要がある。これらのメニューはどれもGreen Futureより安く、Standerd Variableでは電気・ガス合計で月額86.30ポンドと、かなりの開きがある。
British Gas電気料金表 Electric Drivers 2021年2月1日、post code SW1Y 6AXで試算 British Gasウェブサイト
British Gasのサービスの特色は、単に電気やガスを供給するだけではなく、生活に直結したサービスに力を入れていることだ。
例えば、住宅保険や住宅リフォームなども取り扱っている。というよりも、自社を「エネルギーサービスおよびソリューションを提供する事業者」であると定義している。
数あるサービスの中でも注目されるのは、同じCentricaグループのHiveとともに、スマートホーム事業にも力を入れていることだ。
Hiveは暖房を制御するリモコン装置や、オン・オフの制御が可能なプラグなどのスマートホーム製品を販売している。Hiveアプリではこれらガジェットのコントロールが可能で、家庭の電力消費を最適化できる。また、Hive製品はアマゾンエコーやGoogleホーム、IFTTT、アップル製品のSiriなどとも連携できる。Hiveのユーザーは150万人超だ。
Hiveの新しいサービスでは、定額制で、これまでの利用実績や天候などのデータから、効率的なエネルギー消費を支援し、光熱費を目標設定内にとどめてくれる。
もちろん、スマートホーム向けデバイスはこれだけではなく、防犯カメラやセンサー類などがそろっている。
Hiveサービス案内の動画
ガス事業者らしいホームサービス事業も展開している。24時間対応の暖房やボイラーの更新工事に加え、配管工事や電気工事など、いかにも地元のエネルギー会社といった顔も持ち合わせている。こうしたメンテナンスサービスも、月額で契約することができる。
2020年7月、British Gasは英自動車メーカーのボクスホールに1,000台のEV商用車を発注した。親会社のCentricaでは、2030年までに1万2,000台のEVを導入するという目標を掲げている。一事業者からの1,000台というEVの発注はイギリスでは最大規模だ。
実はBritish Gasは、イギリスで3番目に多くの商用車を使っており、電化による脱炭素化も急ピッチで進んでいる。
それは親会社のCentricaの2050年カーボン・ゼロ目標に沿った戦略でもある。Centricaの2030年までの野心的な目標では、2015年比で25%のCO2排出量の削減に取り組んでいる。
電源開発にも意欲的で、7GWの分散型エネルギーシステム導入も目標に掲げており、これはイギリスのピーク時の電力需要の10%に相当する。2019年には、蓄電池やデマンドリスポンスといったサービスを通して、2.7GWの導入に成功した。
今後も、脱炭素を目指す組織と提携し、生活、仕事、モビリティを変革していくということだ。
British GasのEV商用車 Centricaウェブサイトより
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