イギリスは、大英帝国として繁栄をきわめたのは今は昔、産業は長らく低迷し、雇用問題もたびたび取り上げられてきた。主軸となる産業がない中で長らく方向性を模索してきたが、脱炭素時代の到来は、彼らにとってまたとないチャンスを与えることになる。それが洋上風力発電だ。
イギリスは風況がよく、早い段階から風力発電の開発が進んだが、特に洋上風力が技術的に可能になってからは、周辺海域が遠浅であり、洋上風力の適地が多かったこと、そしてそれらの海域が風況としても最適な立地であったことも相まって、急速に洋上風力の開発が進む結果となった。
2016年に世界全体で気候変動対策をしていくと規定したパリ協定が発効をしたことも、そうした脱炭素の取組みを後押しすることになるが、それをさらに加速するように規模の経済が利いて洋上風力の発電コストが低下を見せ、同時並行でイノベーションも進展するという好循環が生まれるようになった。
2020年には新型コロナウイルスで世界経済が停滞を見せ、そのあおりをイギリスも受けたわけだが、そこでイギリス政府が経済復興の論点として着目したのが、脱炭素分野だ。2020年11月に発表した経済復興パッケージは「Green Industrial Revolution」、すなわち緑の産業革命と題され、脱炭素関連産業を成長させることを通じて経済成長を達成し、雇用を生み出し、カーボンニュートラルに向けた取組みを加速させるという内容になっている。このときにジョンソン政権が主軸として強調したのが、すでに成長産業になりつつあった洋上風力であった。
英政府のGreen Industrial Revolutionの概要
無論、イギリス単体で洋上風力の開発を行っているわけではなく、そこには欧州の多くの企業が参画をし、投資を行っている。しかし、そうした欧州域内の投資を受け入れながらもイギリスの洋上風力関連産業は着実な成長を見せ、結果として、世界有数の洋上風力発電関連のコンサルティング企業やエンジニアリング、製造企業を有するようになった。
また、国内の雇用についても、洋上風力分野の従事者は現在の約2万6,000人から、2026年までに7万人近くに達すると見込まれている。また、投資に関しても、今後5年間に民間部門による投資は608億ポンド(約9兆円)にのぼると見積もられているなど、イギリス政府が描いたストーリーが着実に現実のものになりつつある。
このように国内産業の育成が見えてきた段階になると、次なる一手として機動的な国際展開が見えてくる。このように表現すれば聞こえは良いが、端的にいえば、産業競争力を背景とした経済的侵略を行うものともいえる。その侵略先として非常に魅力的に映った国が、日本だ
それでは次に、なぜ日本を狙うのか、その理由を解説していきたい。
海外事業者にとって、日本は非常においしい市場・・・次ページ
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