日本は2050年カーボンニュートラルを宣言したが、福島第一原発事故を契機に原子力の割合が低下したこともあり、エネルギー供給における化石燃料割合が非常に高い。電源構成の中では7割を超える比率が火力発電となっている。カーボンニュートラル実現に向けては、火力への依存度の低下と再エネの供給拡大は避けては通れない論点なのだが、国土の狭い日本において太陽光を大幅に増加させてそれを賄うことには限界がある。
そのため、政府が注目したのが海の活用だ。政府は、グリーン成長戦略やエネルギー基本計画などにおいて、洋上風力について「再生可能エネルギーの主力電源化に向けた切り札」であると表現し、これからの脱炭素化の軸の1つに据えている。
つまり、これから火力の依存度を低下させ、洋上風力が導入されていくことになる。経済停滞が叫ばれて久しいとはいえ、いまだ世界第3位の経済大国の電力需要を満たすために投資が行われるわけなので、巨額の投資がそこに行われるのは自明だ。これは世界の洋上風力セクターにとってはビジネスチャンス以外の何物でもない。
そして、洋上風力を自国の経済復興の鍵に据えているイギリスにとっては涎が出てしまって仕方ない展開になっているわけだ。いま、国際的にも競争性を有している状況において、早い段階で日本市場を取り込み、自国の利益につなげたい、そのためには日本が石炭火力に固執するようなことがあっては困るわけだ。そうした背景から、ジョンソン―岸田電話会談で、イギリスは「就任おめでとう」の言葉も早々に「石炭火力をやめてくれるよね」という希望表明を日本に対してしたわけである。
さて、これの何が問題かというと、日本の洋上風力市場が海外勢の草刈り場になる可能性がある、ということだ。これには3つの理由が存在する。それでは、次に日本の洋上風力市場が草刈り場になる理由を解説したい。
日本の洋上風力市場が海外勢の草刈り場になるのか?
一つには日本は再生可能エネルギーに力を入れてこなかったために、外資の知見を頼らざるを得ないという側面が挙げられる。世界では、デンマークのオーステッド、ドイツのRWE、スウェーデンのバッテンフォールなどが洋上風力発電事業者の上位を占めており、そこに日本勢の名前はない。
発電に必要不可欠な風車に関しても日本勢は完全撤退をしており、風車を納入するとしてもいまは海外製品に頼らなくてはならないというのが実態なのだ。つまり、日本において洋上風力マーケットが開くにもかかわらず、外資が日本勢に対して圧倒的な競争性を持って参入できる状態になっている。
2つ目に、洋上風力について外資の参入を規制する形に現状なっていないという点が挙げられる。これには理由がある。洋上風力についてはこれから日本に導入されるものであり、導入実績が日本には実証事業以外にはない。したがって、海外の成功事例を輸入する以外に日本に洋上風力を根付かせる方法がないのだ。このため外資を規制するという手段すら講じられない段階にあるといってもいい。
これから切り札になると政府がいっている手段について、このような状況になっていることは寂しいといわざるをえないが、この点については政府も割り切っており、「これまでの国内の風車メーカー撤退等の経緯を総括し、海外企業との連携や国内外の投資を呼び込むような」政策が必要であると認めている。
そして3つ目として、洋上風力を日本に導入するためにはまだ市場原理に任せて導入できる段階にないため、発電した電力を政府保証の下で買い取る固定買取制度の適用が想定されている。この価格設定はもちろん導入年次にもよるが、現在導入に向けた議論が進展しているいくつかの事業については1kWhあたり20円台後半以上の価格づけが念頭に置かれている。
太陽光のコストが11円を下回っていることからも、どれだけインセンティブ付けがされているかが分かるが、ここについて日本という信頼できる国の政府保証が付くのであるから、海外の事業者からすればこれ以上、予見性をもって収益を稼げる場はない。
このような3つの理由から、海外事業者にとっては、日本は非常においしい市場なのだ。
それでは日本がこのままやられっぱなしであるか、というとそうではない。では、日本にやり返す手はあるのか、その点について最後に述べたい。
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