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FIT終了後を見据えた太陽光発電のO&Mを改めて考えてみる

FIT終了後を見据えた太陽光発電のO&Mを改めて考えてみる

2020年07月21日

健全な太陽光発電には健全なO&Mを

日本の太陽光発電において、FITの買取期間20年間だけでなく、その先の未来社会を支えていくためには、適切なO&M(Operation & Maintenance)が欠かせない。メンテナンスフリーだと誤解していると、20年ももたずに廃止となりかねない。とはいえ、O&Mはコストがかかる。では、O&Mはどうすべきなのか。afterFITで品質管理 O&M 統括を担当する小林悦郎氏が解説する。(第1回)

O&Mは太陽光発電の健康管理

他の設備と同様に、太陽光発電も完成したときには十分な発電を行っています。しかし、こうした状態を続けていくには、適切なO&Mが必要になります。

私たち人間は、日々健康に気をつけて生活し、定期的な健康診断を受けることで、問題があれば治療しています。太陽光発電のO&Mも同じことです。日々の発電量監視があり、定期的な検査やメンテナンスがあります。人間も太陽光発電も、悪いところがあれば、治す/直すことになります。とりわけ、太陽光発電所は人間と違って「これから成長する」ということはなく成長し切った段階からスタートします。それは若者がだんだん歳を取っていき色々と体にガタが出てくるのと同じことが起きるという事です。

もし、適切なO&Mを行っていなければ、今は順調に発電していても、劣化がどんどん進み、気づくと発電量が一気に下がる、というようなことにもなりかねません。どんなによくできた発電所であっても、パネルやパワコンなどはどうしても経年劣化していきます。人間も、歯を磨かなければ虫歯にもなるし、歯周病でいきなり歯が抜けたりもします。これと同じことです。

まして、最初の工事に問題があるような場合は、積極的な修繕や機器の交換が必要となってきます。

O&Mという業務は、今そこにある太陽光発電所ができるかぎり発電効率を落とすことなく、安定して発電していけるようにしていく、そのための保安業務なのです。

株式会社afterFIT O&M 統括 小林悦郎氏

発電所オーナーはO&Mにもっと関心を

しかし実際には、適切なO&Mが実施されていない太陽光発電所は少なくありません。
その理由のひとつに、発電所のオーナーがなかなか発電所を見る機会がないということがあります。残念ながら、レベルの低いO&M事業者が担当されているようなケースでは、オーナーに報告書こそ提出されているものの、実際には草がぼうぼうに生えていたり、あるいは地面に洗堀(せんくつ)ができていたり、そういった荒れた状態になっていることもあります。

そんな状態であっても、発電量は維持できていると、オーナーは問題に気付きません。しかし、実際には、発電所の状態に問題があるため、明日にはどうなっているかわかりません。

また、太陽光発電パネルの異常劣化も起こります。ドローン+サーモカメラで検査するとその劣化が進んだホットスポットとよばれるような状態が発生しているのがわかります。これはパネルにおいて何等かの理由で発電できなくなった場所で、それゆえ熱を持ちます。こうしたホットスポットがどんどん増えていても、対処しなければ、一気に発電量が下がることがありますし、あるいはじりじりと2年、3年かけて下がっていくこともあります。

ホットスポットの例。パネル上で白くなっているところがホットスポット

オーナーも、少なくともFITの売電期間となる20年間の安定した収入を目的のひとつとして、発電所に投資したのですから、その間は設備が維持できるようにすべきです。

かつて一部では、太陽光発電はメンテナンスフリーだと言われていました。しかし現実はそうではないということです。

そもそも施工に問題があるケースも

現実は、さらに問題が多いと感じています。O&M事業をてがけるようになってから、さまざまな太陽光発電設備を見る機会ができましたが、かなり多くの物件で、設計・施工段階から問題があったというケースが見られました。本来であれば、少なくとも発電所が20年運転できるという設計思想が必要なのですが。

例えば、造成工事に問題があったというケースがあります。手抜きの造成工事であっても、最初は地面が平らになっていて、問題ないように見えるかもしれません。しかし何年かたつうちに、大雨や地震の影響で法面(のりめん)が崩れ、架台が斜めに傾いている場所さえありました。

しかも、1度は修繕した跡も見られたのですが、同じレベルでの修繕となっているため、雨水をうまく逃がすことができず、再度の法面崩壊となっていたのです。

こうした場合は、メンテナンスの領域を超えて、適切な修繕が必要になってきます。

また、斜面に無理に設置したケースも、しばしば問題を抱えています。ある発電所では、パネルを支える架台の杭部分に洗堀ができて、非常に危険な状態になっていたのです。洗堀も小さいときに手当てしておけばいいのですが、放っておくとどんどん大きくなってしまいます。

洗堀の状態例。土台まで見えはじめている。

また、草刈りなどもメンテナンスにおいては重要となってきます。

草が成長してくると、パネルに影がかかってくるので、発電量に影響を与えます。特に本州地方や九州・四国地方の太陽光発電所の場合、パネルが低い位置にあることが多いので、草の影響も大きくなります。草が成長する時期を考え、効率的な草刈りを行うことも必要ですし、特に配線がころがしになっているような場合は、配線を切らないようにしなくてはいけません。そのため、草が伸びないように、後付けで石を敷き詰めることもあります。

また、成長するのは草だけではありません。周辺の樹木も20年間の間には成長していきます。成長した木を切ることができるのであればいいのですが、他人の土地だとそうはいきません。場合によっては、周辺の土地を買い取った上で、木を切るということもあります。

太陽光発電施設での草刈りは重要

O&Mの適切なコストはケースバイケース

では、O&Mにどのくらいコストをかけたらいいのか。実は、ケースによって異なる、としかいえません。

例えば、FITの買取り単価が、40円/kWhや、36円/kWhの発電所であれば、十分なコストをかけてもいいでしょう。例えば、パネルの洗浄をしっかりやって発電量を増やしても十分にメリットがあります。しかし、18円/kWhや14円/kWhの発電所では、パネルの洗浄のコストの方がかかってしまう場合があります。

そもそも施工に問題がある発電所の場合は、どうしてもO&Mのコストがかかってしまいます。また、修繕が必要なこともあります。それでも、オーナーが発電量収入を計画通り得ていくためには、必要なコストとなってきます。

私たちがお客様からO&Mを受注する場合は、発電所の査定や調査からやらせていただいています。どうしてもO&Mの内容は、オーダーメイドに近くなっているというのが現状です。
FITの売電単価や発電状況、施工の品質などを検証し、必要なO&Mとかけられるコストを見極めなくてはいけません。また、特に問題を抱えた発電所の場合は、アラートが頻繁にあがり、現地に足を運ぶ回数が増えますし、それがコストとなってはねかえってきます。

とはいえ、いたずらにコストをかければいいというものではありません。例えば、運転期間中にはどうしても交換が必要なパネルが出てきます。パネルの交換にも手間(人件費)がかかりますから、故障したパネルが1枚や2枚しかない段階ではあえて交換せず、故障が数枚になったときにまとめて交換する、といった対応をすることもあります。

もちろん、O&Mを実施する側としても、できるだけ少ない人数で効率的に対応する工夫は必要です。例えば、交流部分と直流部分の両方を見ることが出来る主任技術者を配置しておくことや、一部の技術者にはリモートでの指示にまわってもらう、といったことです。

いずれにせよ、再エネが主力電源となっていく時代においては、太陽光発電は社会を支える重要なインフラとなっていきます。

FITの買取期間以降も順調に発電を続けていくためには、適切なO&Mが必要だということは間違いありません。また、そうした努力があってはじめて、発電所のオーナーがきちんと投資回収できるのではないでしょうか。

次回からは、O&Mの具体的な事例を通じて、O&Mによってどれほど発電量がことなってくるのか、といったことを紹介していく。

小林 悦郎
小林 悦郎

1963年生まれ。山口県岩国市出身。 メーカー、IT人材派遣等といった各ステージ期の企業にてプロジェクトマネージャー、経営企画を歴任。その後、afterFITにて分析チーム、情報システムチーム、総務チーム担当を歴任。2019年6月より品質管理チームのマネジメントを担当。

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