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激動する欧州エネルギー市場・最前線からの報告 特別篇 緊急報告・戦後最悪のコロナ危機で苦戦する欧州諸国

激動する欧州エネルギー市場・最前線からの報告 特別篇 緊急報告・戦後最悪のコロナ危機で苦戦する欧州諸国

欧州で新型コロナウイルスの拡大が止まらない。今回は特別篇として第二次世界大戦後、最悪の試練と呼ばれるコロナ危機の現状について、感染者数が急増しているドイツからジャーナリスト、熊谷徹氏がレポートする。

イタリアの死者数が世界最悪に

米ジョンズホプキンス大学のデータバンク*1によると、2020年3月25日の時点で世界中の感染者数は41万人を超え、死者数は約1万8,600人に達した。

ジョンズホプキンス大学の新型コロナウィルスマップ 2020年3月25日(日本時間)にキャプチャ(最新の状況はこちら

欧州疾病予防管理センター(ECDC)*2によると、この内約42%にあたる約16万人が欧州の感染者だ。特に大きな被害を受けているのがイタリアで、約6万9,000人が感染している。これは中国(約8万1,600人)に次いで世界で2番目に多い。イタリアの死者数は約6,800人に達し、中国(約3,300人)を大幅に上回ってしまった。

日本のメディアは十分に伝えていないが、いま欧州は「準・戦時下」とも言うべき状態になりつつある。各国政府は感染者への対応や野戦病院の設営、医療物資の搬送などに、軍隊も投入し始めている。


ECDCの感染マップ 2020年3月24日付。

人工呼吸器不足で医師が患者の「選択」を迫られる異常事態

特に被害が甚大なのが、今年(2020年)2月に最初の感染者が見つかったイタリア北部のロンバルディア地方のクレモーナ、ベルガモなどの町だ。
イタリアの死者の大半は、高齢者か、心臓病、ガン、腎臓病、糖尿病などの基礎疾患を持つ人たちだ。これらの町の病院ではあまりにも患者数が多いので、呼吸困難に陥った人のための人工呼吸器が圧倒的に不足している。

クレモーナの病院の女医は、ドイツの日刊紙フランクフルター・アルゲマイネ(FAZ)のインタビュー*3の中で、「重症者の数があまりにも多いので、基礎疾患がなく、助かる見込みがある人に優先的に人工呼吸器を回し、重い持病があり助かる見込みがない高齢者には、人工呼吸器をつけない。つまりどの患者の命を救うかという、選択を行うことを強制されている。体力的にも、精神的にも限界だ」と語っている。本来医師は、倫理規定によって「どの患者を救うか」を選択することを禁じられている。イタリアの状態は、医師がこの倫理規定に反する決断を迫られるほど悪化しているのだ。

政府と市民がウイルスを軽視して、急拡大

イタリアで死者数が異常に多くなっている原因のひとつは、医療関係者や政府が1月中旬頃に新型コロナウイルスが拡大し始めたのを気づかなかったことだ。
多くの医師は、季節性のインフルエンザと勘違いして患者に接したため、自分自身が感染してしまった。この地域の医療関係者の約10%が感染し、患者の治療にあたることができなくなった。

つまり未知の病原体は、1ヶ月近くにわたってイタリア政府が知らないまま、北部地方を汚染していたことになる。さらにロンバルディア地方の自治体関係者や市民が、新型コロナウイルスの感染性の強さや、高齢者に与える危険について十分知らず、この病原体を軽視していたことも災いした。

たとえばあるイタリア人の企業経営者は、普通の風邪だと思って仕事を続けていたところ容態が悪化して病院に搬送された。彼は自宅で世話をしていた腎臓病の父親を感染させてしまい、父親は死亡した。彼は病床からネット映像チャンネルBRUTの記者とのインタビューに応じ、「新型コロナウイルスを軽視してはならない」と訴えている*4

イタリアでは、3月中旬から下旬にかけて毎日数百人が死亡しており、1日の死者数が約800人に達した日もある。私のイタリア人の友人はドイツ人と結婚してミュンヘンに住んでいるが、「イタリアからのニュースは、あまりにも悲しくてもう読めない」と語っていた。

同国では厳しい外出禁止令が敷かれている他、政府は食料品など生活必需品を生産する企業を除き営業禁止を命じている。ローマやベニスなど、ふだんは観光客でにぎわう町が、ゴーストタウンになった。

似たような事態は、スペインやフランスでも起き始めている。ドイツ西部のバーデン・ヴュルテンベルク州、ラインラント・プファルツ州、ザールラント州の病院が、フランス東部の重症者を受け入れ始めた。フランス東部では、集中治療室や人工呼吸器が不足しているのだ。

ドイツ・バイエルン州が初の外出制限令

ジョンズホプキンス大学のデータバンクによると、3月25日の時点で私が住んでいるドイツの感染者数は、約3万3,000人。死者数は157人だ。
感染者数が最も多いのが、ケルンやデュッセルドルフがあるノルトライン・ヴェストファーレン州で、約6,300人。ここでは3月の謝肉祭(カーニバル)の人込みで感染が拡大した。私が住むバイエルン州の感染者数は約5,754人。やはり謝肉祭の休暇で、イタリアやオーストリアでバカンスを過ごした人々がウイルスを持ち帰ったものと見られている。

ドイツは連邦制を取っているので、州政府の権限が非常に強い。バイエルン州政府のマルクス・ゼーダー首相は3月21日から、食料の購入や通院、テレワークが不可能な仕事などを除く外出制限令を施行した*5。さらにスーパーマーケットや薬局、銀行などを除く商店、劇場、映画館、クラブなどの娯楽施設、スポーツジム、児童公園、体育館などの閉鎖を法律で命じるとともに、テイクアウトを除いてレストランや喫茶店の営業も禁止した。学校や幼稚園、託児所は閉鎖されているほか、ブンデスリーガなどのサッカーの試合、教会のミサやコンサートなどの催し物も禁止されている。


バイエルン州マルクス・ゼーダー首相の外出制限令のメッセージ。3月22日。

私が住むミュンヘンでも、警察のパトカーが、拡声器から「外出制限措置を守って下さい」というメッセージを流しながら、市街地を巡回している。この命令に違反すると、最高2万5,000ユーロ(300万円・1ユーロ=120円換算)の罰金を科される可能性がある。また、ザクセン州とザールラント州も、バイエルン州に似た外出制限令を敷いた。

これに続き連邦政府も、市民間の接触を一段と厳しく制限する措置に踏み切った。メルケル首相は3月22日、「2人を超える市民が集まることを禁止する」と発表した。ドイツ全土に、史上初の「接触制限令」が発布されたのだ*6

この命令によって、同じ世帯に住んでいる家族、仕事のために必要な場合を除いて、2人を超える市民が会ったり、集ったりすることは禁止された。たとえば夫婦が子どもを連れて、別の世帯に住んでいる両親に会うことも禁止される。高齢者は重症化のリスクが高いからだ。

屋外、屋内を問わず、多数の人が集まる宴会やパーティーは禁止。ひとりの友人と一緒に散歩することは許されるが、2人の友人と固まって散歩することは禁止になる。ひとり、または家族と行う散歩やジョギングは許される。1945年5月に第二次世界大戦の戦火が止んで以来、これほど市民の行動の自由や私権が制限されるのは、初めてだ。

首相は、「我々は第二次世界大戦以降、最大の試練に直面している。他人と会う時には、1.5メートルから2メートルの距離を必ず取ることが、命を救う。市民ひとりひとりが強い責任感を持って、規則を守らなくてはならない」と強調した。

メルケル首相は、3月11日に「遅かれ早かれ、ドイツの人口の60~70%が感染する可能性がある。しかしそれがどれくらいの期間に起こるかはわからない」と語った*7。この発言は、ドイツ社会での危機感を一気に高めた。この国のコロナ危機との戦いの潮目を変えた発言だった。

人口の大半の感染が1年後に起こるか、2年後に起こるかでは大きな違いがある。ドイツの集中治療室の数は、約2万8,000床。だがイタリアのように感染者と重症者が急増した場合、集中治療室や人工呼吸器の数が足りなくなる可能性がある。
このためドイツ政府は、市民の間の接触を強制的に減らし、感染者数のピークを遅らせることによって、イタリアのような事態が起きるのを防ごうとしているのだ。政府は2万8,000床では足りないとして、ホテルや見本市会場、公会堂などを改造して、この数を2倍に増やす作業を行っている。

市民の不安は日増しに強まっている。その表れが、食料品やトイレットペーパーの買いだめだ。政府は「消費物資は十分にあります」と盛んに広報している。しかし私が住む地域の最寄のスーパーでは、スパゲッティや米、トイレットペーパー、食用油、消毒液などが数週間にわたって売り切れになっている。

知人によると、スーパーの宅配サービスも2週間先まで予約できないそうだ。各国が国境を閉鎖しているため、トラック輸送の物資が届かないという事情もあるのかもしれない。グローバル化と国際分業には利点も多いが、今回のような危機の際には裏目に出ている。携帯で何でも宅配を受けられる中国に比べると、ドイツは意外と脆弱かもしれない。


ミュンヘンのスーパーマーケットでも、パスタやトイレットペーパーのパニック買いが始まった。(筆者撮影)

ドイツの失業者数が180万人増加する?

経済への影響も深刻だ。ドイツの大手自動車メーカーは、欧州での自動車製造を次々に停止。多くの中小企業や商店では突然仕事がなくなり、売上高がゼロになった。各国が国境を封鎖しているほか、バカンスや出張客が激減したため、航空会社ルフトハンザはフライトの95%を停止。国家支援を受けるべく、政府と協議している。

ミュンヘンのIfo経済研究所は3月23日に、「コロナ危機のために今年の国内総生産(GDP)は前年比で7.2~20.6%減少し、最悪の場合失業者数が180万人増える可能性がある」という悲観的な予測を明らかにした*8
同研究所は、景気後退(リセッション)への対応のために政府が投じなくてはならない額を、2,550億~7,290億ユーロ(31~87兆円)と推定している。これは、2008年のリーマン・ショックによるグローバル不況よりもはるかに深刻な事態だ。

ドイツ政府、戦後最大の企業支援措置

2008年以来、好景気にわいていたドイツは未知の病原体のために、急転直下リセッションに追い込まれる。

メルケル政権は、経済や市民への悪影響を抑えるべく、矢継ぎ早に対策を打ち出している。

たとえば政府は、まず3月13日に国営金融機関KfWを通じて無制限の融資を実施することにより、企業倒産を防ぐ方針を発表した。さらに短時間労働制度の条件を緩和したり、納税の延期、苦境に陥った企業の部分的な国有化などの措置も行う方針だ。

ドイツは2014年以来財政黒字を記録していたが、今年はコロナ対策のために巨額の借り入れを実施する。3月23日には、企業倒産の増加を防ぐために、1,560億ユーロ(18兆7,200億円)の補正予算を計上する方針を発表した。これは、第二次世界大戦以降、最大の経済支援プログラムである。

資金繰りに行き詰まった中小企業に対し、返済不要の支援金を供与する他、収入がなくなって家賃が払えなくなったフリーランサーを支援する。また家賃を滞納した市民との賃貸契約を、家主が解除することも禁止する方針だ。

電力業界が料金滞納者にも通電継続を決定

ドイツの電力業界も、コロナ危機のために失業して生活に困窮する市民が増えると見て、対策を取り始めた。大手電力エーオンやイノジーは、3月18日に「電力料金を滞納している市民に対する、通電停止措置を当分の間見合わせる」という方針を発表した。

大手電力EnBWも、「現在料金滞納が原因で電力やガスの供給をやめている家庭への、供給を再開する」と述べた*9。また各地の地域電力供給会社(シュタットヴェルケ)も、料金滞納者への電力やガスの供給停止措置を、一時見合わせる。


コロナウィルスへの対応を伝えるEnBWウェブサイト

ドイツの電力会社やガス会社は、料金の滞納額が100ユーロ(1万2,000円)を超えた場合には、滞納者の家庭に対して、電力やガスの供給を止めることを許されている。
連邦系統庁によると、2018年には490万人の市民が滞納によって督促状を受け取り、29万6,000世帯で実際に電力供給が止められた。

感染者数がドイツで3番目に多いノルトライン・ヴェストファーレン州消費者連合会は、「政府が不要不急の外出をしないように命じているため、多くの市民は自宅で1日の大半を過ごす。そのような時に、電力は不可欠だ」として、電力会社に対して、コロナ危機が続いている間は通電停止措置を中止するよう求めていた。

ドイツの電力会社は「コロナ危機の間にも電力の安定供給が確保できるように、必要な措置を取っている」として、市民に安心感を与えようと努めている。

ドイツ政府の諮問機関であるロベルト・コッホ研究所のロター・ヴィーラー所長は、「国民の半数以上が感染して、ウイルスの拡大が終わるまで、2年間かかるかもしれない」と語っている。ドイツ政府と経済界は、氷河期を2年間にわたって耐え忍ぶべく、必死の対策を取りつつあるのだ。新型コロナウイルスとの戦いは、これからが天王山である。

この記事の著者

熊谷 徹(くまがい・とおる)

1959年東京生まれ。早稲田大学政経学部卒業後、NHKに入局。ワシントン支局勤務中に、ベルリンの壁崩壊、米ソ首脳会談などを取材。90年からはフリージャーナリストとし てドイツ・ミュンヘン市に在住。過去との対決、統一後のドイツの変化、欧州の政治・経済統合、安全保障問題、エネルギー・環境問題を中心に取材、執筆を続けている。著書に「ドイツの憂鬱」、「新生ドイツの挑戦」(丸善ライブラリー)、「イスラエルがすごい」、「あっぱれ技術大国ドイツ」、「ドイツ病に学べ」、「住まなきゃわからないドイツ」、「顔のない男・東ドイツ最強スパイの栄光と挫折」(新潮社)、「なぜメルケルは『転向』したのか・ドイツ原子力40年戦争の真実」、「ドイツ中興の祖・ゲアハルト・シュレーダー」(日経BP)、「偽りの帝国・VW排ガス不正事件の闇」(文藝春秋)、「日本の製造業はIoT先進国ドイツに学べ」(洋泉社)「脱原発を決めたドイツの挑戦」(角川SSC新書)「5時に帰るドイツ人、5時から頑張る日本人」(SB新書)など多数。「ドイツは過去とどう向き合ってきたか」(高文研)で2007年度平和・協同ジャーナリ ズム奨励賞受賞。
ホームページ: http: //www.tkumagai.de
メールアドレス:Box _ 2@tkumagai.deTwitter:@ToruKumagai

Facebook:https://www.facebook.com/toru.kumagai.92/
ミクシーでも実名で記事を公開中。


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