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新型コロナウイルス感染拡大で不安定化するLNG市場

新型コロナウイルス感染拡大で不安定化するLNG市場

Clean Energy Wireは、2020年4月28日に、EUと米国のLNG貿易と新型コロナウイルスによる影響をまとめたレポートを公表した。著者はジュリアン・ヴェッティンゲル氏。著者によると、EUは過去2年間、米国のトランプ大統領の要請で米国からのLNG輸入拡大を受け入れてきた。しかし新型コロナウイルスの影響による需要低迷が、LNG貿易のリスクとなる可能性があるという。同時に、ヨーロッパのグリーンディールも遅れそうだ。以下、その概要である。

EUにLNG押し付けるトランプ大統領

米国はこれまで、予測不能なトランプ大統領の対応に苦慮しており、気候変動とエネルギーの問題も例外ではないという。例えばパリ協定の離脱がある。同様に、ロシアとドイツを結ぶガスパイプライン「ノード・ストリーム2」にも制裁を課してきた。これに対し、EUは米国との緊張緩和のために、米国からのLNG輸入を受け入れてきたという。

代表的なケースは、2018年7月にホワイトハウスでトランプ大統領とジャン・クロード・ユンカー欧州委員会委員長(当時)との共同声明だった。ユンカー氏は欧州車の関税導入を回避するために、米国からより多くのLNGを輸入することを約束した。
実際にEUのファクトシートによると、2018年7月から2019年末にかけて、米国からのLNG輸入量はおよそ600%も増大している。

実際の2019年のLNG輸入量は、カタールからの30bcm(300億立方メートル)に対し、ロシアからは21bcm、米国からは17bcmとなっている。また、パイプラインとLNGを合わせたロシアからの輸入は約46%に達する(注:IEA(世界エネルギー機関)によると、EUの天然ガス需要は年間約550bcm、およそ半分が域外からの輸入となっている。また、当面は域内産の天然ガスの生産は減少傾向にあり、輸入が拡大すると予測している)。

もっとも、ロイターの2019年初めの報告によると、米国産LNGの輸入増加の主な理由は、アジアの需要減によってLNG価格が低迷し、企業が輸出先をアジアから欧州に変えたことだという。

CSIS(Center for Strategic and International Studies)のエネルギー安全保障・気候変動担当のシニアフェローであるニコス・ツァフォス氏によると、欧州にはLNGの貯蔵設備があるため、余剰LNGの受け皿になっているということだ。

テキサス州キンタナ島にあるフリーポートLNG施設。米国7つのLNG輸出ターミナルのうちのひとつ 写真:CLEW/Wettengel 2020。

減速するグリーンディールと増大するLNGビジネスのリスク

では、新型コロナウイルスの影響により、天然ガスの需要はどのように予測されるのか。

EUおよびドイツ政府は、2050年までにカーボンニュートラルにすることを目標としており、化石燃料は段階的に削減していく予定だ。
SWP(Stiftung Wissenschaft und Politik)のキルステン・ウエストファル氏によると、「EUはグリーンディールに真剣に取り組んでおり、新型コロナウイルスからの復興計画の一環としてEUが真剣に取り組むのであれば、LNGはその間をつなぐ資源であり、脱CO2は不可欠」ということだ。

しかし、脱CO2に消極的なポーランドのような東ヨーロッパでは、米国産LNGはロシア産天然ガスの代替として歓迎されているという。ポーランドのワルシャワに拠点を置くシンクタンク、Forum Energii 会長のジョアンナ・マッチコウィアク - パンデラ氏は「ポーランドのエネルギーミックスにおいてガスの重要性は高まっている」とClean Energy Wireに語っている。

ポーランドは、テキサス州西部のパーミアン盆地などの産出地域からより多くの天然ガスを受け入れる準備ができている。写真:CLEW/Wettengel 2020

米国のマイク・ポンぺオ国務長官は、2020年2月のミュンヘン安全保障会議で、中央・東ヨーロッパへの10億ドルの資金調達を発表したが、そこではポーランドなどのLNG基地の整備が主要な焦点となっている。

マッチコウィアク - パンデラ氏は、ポーランドがロシア産天然ガスに対して高い固定価格を支払っている状況を踏まえ、石炭から天然ガスへのシフトにあたって、選択肢を得たことが重要だとしている。

他方、米国は中国との間で、エネルギー製品の輸入を増やすことを条件に対中国の関税の一部を引き下げる約束をしている。

SWPのウエストファル氏は、「米国産LNGは欧州向け輸出による損失に直面し、新型コロナウイルス収束後に経済回復する東アジアに向かうだろう」と指摘する。

IEEFA(Institute for Energy Economics and Financial Analysis)のエネルギー金融アナリスト、クラーク・ウィリアムズ=デリー氏は、米国のLNG輸出事業がどのように発展するのか見極めるのは時期尚早だとしている。世界のLNG市場は不安定で投機的でハイリスクな状況になっているということだ。とはいえ、需要の伸びは鈍化しており、LNG価格は低水準にとどまる傾向にある。これは米国のLNG新規プロジェクトにとって逆風となる。

Atlantic Councilのマネージング・ディレクター、ジェニファー・ゴードン氏は、新型コロナウイルス危機の影響でガス需要が増加する可能性もあるとした上で、「ヨーロッパのグリーン化の動きはおそらく鈍化していくだろう。その代償として、ヨーロッパの人々はエネルギーミックスを再考することになるかもしれない」と指摘している。

参照

(Text:本橋恵一)

もとさん(本橋恵一)
もとさん(本橋恵一)

環境エネルギージャーナリスト エネルギー専門誌「エネルギーフォーラム」記者として、電力自由化、原子力、気候変動、再生可能エネルギー、エネルギー政策などを取材。 その後フリーランスとして活動した後、現在はEnergy Shift編集マネージャー。 著書に「電力・ガス業界の動向とカラクリがよーくわかる本」(秀和システム)など https://www.shuwasystem.co.jp/book/9784798064949.html

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