■環境ブランディングという文脈では、生グリーンの調達がこれから必要になってくるのではないでしょうか。
中村 まったくそのとおり。実はイギリスのオクトパスも、最初は全部外部調達で、リテール(小売)に特化した電力ビジネスだった。しかし最近では、自分で風力発電の設備を購入し、風車にオクトパスのステッカーを貼る。「オクトパス”ファン”クラブ」をつくって、「自分の地元の風車の電気を買いませんか」というプログラムもやっている。要するに、お客様に、より再エネを意識してもらうことを考えているんです。
たしかに制度としては価値(証書)と電源は分かれているが、「環境によい行動」をした実感が、証書は感じにくい。ビジュアライズして、「わたしはこの風車の電気を買っている」というような、実感できるしくみを作っていくというのが次のステップだと思っています。
日本でも、よりお客様に環境にいいエネルギーを選択してもらおうと思ったら、「千葉県の房総沖の温暖な気候でつくられた太陽光」を使っている、という展開も考えられる。そうしたことをやっていくと、一般の消費者の意識が高まります。
再エネ社会を作る過程で、どうしても風車や太陽光のパネルでは、地域の住民の理解を得ないといけなくなる。例えば地元のひとが地元の発電所の電気を使うというような、電源と電力がうまく紐付いたしくみは、再エネに対する社会の関心と利用の促進になると思います。
英国オクトパスも、そんなふうにシフトしていった。日本にも徐々に、そうした流れが欲しいですね。
ただ、FIT制度を含む日本の制度もうまく変えていかないとできない。まずはお客様に再エネや環境を意識してもらい、(風車など)使ってみたいという声があれば我々もお客様の声に従ってサービス開発をしていく。その中でいずれは制度面の要望もしながら社会を実現していけばいいと思います。
英オクトパスエナジーの風力発電所
■日本のエネルギー会社はエネルギー効率向上に対するインセンティブサービスを十分提供してこなかった。英オクトパスはそれが充実している。日本で似た展開はあるのでしょうか。
中村 お客様がどんなエネルギーを使用しているか、どのタイミングで省エネ活動をするといいのか、お客様とのコミュニケーションを密にとってお客様にタイムリーに知らせていくことが一番大事だと考えています。
従来の電力会社は「料金はこのメニュー、月に一回自動引き落とし」で、使っていることをまったく意識させないようにしている。私たちは逆だと思っている。もっとお客様に、こんな使い方をすればもっとよくなるということをお知らせしていく。
もう一つはインセンティブを与える料金メニューの開発です。イギリスでは、電気がある時間だと余る状況です。つまり、電気代がマイナスになり、極端にいえば「いま電気を使ったらお金がもらえます」というようなことまで起こっている。再エネは需要に関係なく発電するので、今電気を使えば無駄に捨てなくていいということをお伝えする。そういった行動がインセンティブにつながるサービス設計、料金設計をやっていくことで、エネルギーの消費行動が変わる。自分の支出も抑えられることが実感できるようになる。
今後の社会では、再エネがどんどん普及していく宿命です。再エネは火力とは違い、供給側の調整ができないため、需要側の方で調整していくことが大事になる。顧客側が調整することで実感やメリットを受け取るには、小売側のサービスとセットでないと実現できない。我々小売事業者としてはその設計を目指す。それが翻って日本における再エネの電源開発が促進される波及効果があればいいな、と思っています。
■英国はオクトパストラッカーを展開していますね。
中村 日本の卸市場も高い時があるが、通常は一般のお客様には伝えない。一方でピーク時は石油火力も焚いている。そんなとき、省エネ行動をしてもらうと日本のCO2排出量も減り、価格的なメリットも顧客側にでる。これからの課題です。
■東京ガスとのJVということでこの先、ガスは売るのでしょうか。
中村 グッドクエスチョンですね。イギリスはもちろん電気とガスと両方やっている。日本もそれをやりたい。ただ、日本では電気に比べるとガスは全国に普及していない。都市ガス事業者は日本で200社。未普及エリアが半分で、プロパン設備でまかなっています。なので、ガスはエリアでどのガスを使っているかまでわからないとできない。お客様も自分の家で使っているガスがプロパンか東京ガスなのか、知らないケースが多く、意外と難しい。
ただ、いずれ電気とガスはいっしょに扱いたいと思っています。カーボンニュートラルガスでやりたいですね。
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