牛肉が食べられない時代が来る?〜持続可能な牛肉の話~ | EnergyShift

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牛肉が食べられない時代が来る?〜持続可能な牛肉の話~

牛肉が食べられない時代が来る?〜持続可能な牛肉の話~

YouTubeチャンネル「エナシフTV」のコメンテーターをつとめるもとさんが、番組では伝えていない、脱炭素の話題について、お話しします。今回は、持続可能な牛肉の話。牛のゲップのメタンガスは実は問題になっているのです。牛肉が食べられない時代が来るかもしれません。本当のところ、どうなのでしょうか。

メタンの温室効果はCO2の25倍

温室効果ガスというと、真っ先にあがるのがCO2ですが、じつはこれ以外にもいろいろあります。
エアコンや冷蔵庫の冷媒として使われているフロンや代替フロンには、CO2よりも数千から1万倍を超える大きな温室効果があります。
フロンの場合はオゾン層破壊という別の問題があり、モントリオール議定書で利用が制約されていますが、オゾン層を破壊しない代替フロンでも温室効果があり、パリ協定での削減対象となっています。
そして今回とりあげるメタンと一酸化二窒素もまた、CO2よりも大きな温室効果があります。

メタンの温室効果はCO2の25倍、一酸化二窒素は298倍です。これは質量あたりでの換算です。メタンの温室効果はCO2の80倍ともいわれていますが、メタンは大気中で時間がたつと分解してしまうので、それを加味して25倍と見積もられています。

メタンは、天然ガス田やガスパイプラインなどから漏洩しており、これを防ぐことは石油会社にとって気候変動対策の重要な取り組みとなっています。
しかし、これ以外にも、さまざまなところからメタンが発生しています。そのひとつが、牛のげっぷです。

たかが牛のげっぷ、ではありません。
農林水産省によると、農業由来の温室効果ガスの排出量は、年間約5,000万トンで、日本の温室効果ガス排出量のおよそ4%に相当します。そして、その3割に相当する1,370万トンが、牛のげっぷと排出物由来のメタンや一酸化二窒素によるものだということです(2018年度)。

決して小さな量ではありません。そして、牛肉を輸入している日本にとって、これは日本だけにとどまる問題でもないのです。

メタンが発生する理由

どうして牛のげっぷからメタンが出るのでしょうか。

それは、牛の消化管に住む微生物のはたらきです。人の体内に腸内細菌がいるように、多くの動物の消化管の中には微生物が住んでいて、消化を助けています。
牛の第一胃に住む微生物は、草などを消化することを助けていますが、このときにメタンが一緒に発生します。

しかも牛は反芻といって食べたものを口の中に戻し、よく噛んでからまた胃に戻します。そんなことをしていれば、胃の中のメタンは出てきますよね。
さらに、糞尿が分解される過程で、メタンと一酸化二窒素が発生します。

そこで、畜産の分野でも、温室効果ガス排出削減の取り組みが必要となってきます。牛がメタンを出し続けていたら、畜産は持続可能ではないからです。
実は、畜産による気候変動問題は、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)の1.5℃特別報告書などでも指摘されており、今年6月に開催されたCOP26の準備となる補助機関会合でも話題にされていました。

こうしたことから、農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)では、牛のげっぷや糞尿からメタンや一酸化二窒素を減らす研究も行われています。

海藻を食べてメタンを削減

農研機構では、メタンや一酸化二窒素が発生しにくい飼料の開発や、メタンを発生させにくい牛の育種などのプロジェクトを行っています。
プロジェクトは5年計画で、2021年度が最終年度になるということです。

日本経済新聞の報道によると、飼料ではアミノ酸のバランスを改善して、糞尿から発生する一酸化二窒素の量を減らすことを実験しています。アミノ酸というかタンパク質を与えすぎると一酸化二窒素がたくさん発生するということです。
また、牛によってメタンの発生量が少ない個体がいるということです。まあ、人でも腸内細菌はそれぞれですからね。
また、メタンの発生を抑制する飼料の開発も行われているといいます。

すでに欧州ではメタンの発生が少ない飼料が開発され、カーボンクレジットの発行に関する認証を受けているといいます。
また、オーストラリアのスタートアップが海藻を含んだ飼料を開発し、メタンの発生を抑制するということです。
海藻がメタンの発生を抑制することはすでに知られているようで、ヨウ素などのハロゲン類にこうした効果があるとされています。
ただし、海藻が牛にとって無害とは限らないので、まだまだ研究が必要なようです。

なお、稲わらやもみ殻はメタンを発生させやすいとか。米どころの日本にはたくさんあるのに、残念ですね。

本質的問題はげっぷではないかもしれない

気候変動枠組み条約の補助機関会合で、実際に、牛肉を食べることに関するやりとりはあったようです。とりあえず、食べるのを禁止することはないだろう、という結論だったようですが。

実は、日本ではあまり報道されていないのですが、畜産を含む持続可能な農業は、気候変動枠組み条約の大きなテーマの1つになっています。

では、牛のげっぷだけが問題なのでしょうか。先のIPCCの報告書は、もっと本質的な問題を指摘しています。
第一に、畜産のための林地開発そのものが大きな問題であること。例えば、20年以上前から、ブラジルのアマゾンにおける牧場開発は問題とされていました。
そして、牧場を再び森林にすることができれば、CO2を吸収してくれることも指摘されています。

また、とりわけ牛については、育てるにあたって、鶏や豚よりもはるかに多くの水や飼料を必要とすることが指摘されています。
まして、同じ量のタンパク質に相当する大豆と比較すると、どれほどの違いがあるのか。温室効果ガスに換算して100倍くらいになるともいわれています。
そう考えると、大豆ミートというのは、これから拡大していくのかもしれません。

IPCCの報告書では、肉食は否定されていません。
しかし、持続可能な肉であることが求められています。水も飼料も大量に必要とし、メタンを発生させる牛が持続可能なのかどうか、明確には示されてはいません。
それでも冷静に考えると、持続可能な牛は難しいように感じます。

持続可能な農業を考える時代

日本には畜産に匹敵するメタンの発生源となる農地があります。水田です。そこで農研機構では、メタンの排出を減らす水田の研究もしています。
牛肉より大豆ミートがいいとしても、森林を伐採して大豆畑を作ったのでは意味がありません。

しかし、農地そのものは上手に利用すればCO2の吸収源にもなります。農地にはたくさんの微生物や生物の死がいがふくまれています。
これらが大気中にあったCO2を地中にたくわえてくれます。

今はまだ、持続可能な農業という枠組みの中で、畜産は少しずつ減少させつつも、時には牛肉を食べることは許されると思います。
でもこの先、牛肉が食べられるのかどうかは、気候変動対策全体の進捗の中で見直されることになるでしょう。

私たちはすでに、そのような時代にいるのだと思います。

もとさん(本橋恵一)
もとさん(本橋恵一)

環境エネルギージャーナリスト エネルギー専門誌「エネルギーフォーラム」記者として、電力自由化、原子力、気候変動、再生可能エネルギー、エネルギー政策などを取材。 その後フリーランスとして活動した後、現在はEnergy Shift編集マネージャー。 著書に「電力・ガス業界の動向とカラクリがよーくわかる本」(秀和システム)など https://www.shuwasystem.co.jp/book/9784798064949.html

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