COP26(国連気候変動枠組条約第26回締約国会議)が10月31日(現地時間)からはじまる。開催を前に、世界各国が新たな二酸化炭素排出の削減目標などを発表している。各国の動きをまとめた。
10月23日、世界最大の産油国である中東のサウジアラビアは「2060年温室効果ガス実質ゼロ(ネットゼロ)」を表明した。排出削減の年間目標値を倍に増やし、再エネには1,870億ドル(約21兆円)の投資もおこなう。
23日のサウジ・グリーン・イニシアチブ(SGI)でムハンマド皇太子が発表した。これまでの排出削減目標は年間1億3,000万トンだったが、倍の2億7,800万トンの削減を目指す。
皇太子はまた、同国での空調や淡水化などにも必要な石油への依存にも言及、排出量削減の難しさを強調し、「排出量を管理・削減するために必要な技術の成熟度と可能性を考慮し、世界のエネルギー市場でのサウジアラビアの主導的役割を守り」ながら目標を達成するとも発言。
サウジ・グリーン・イニシアチブ(SGI)で発表するムハンマド皇太子(Youtube)
サウジアラビアのエネルギー大臣であるアブドゥアジーズ王子は、「包括的な解決策でなければならない」と発言。これは、化石燃料だけでも、自然エネルギーだけでも世界のエネルギーは立ち行かず、これからも化石燃料は必要になると発言。
その発言の通り、サウジアラビアの原油生産者であり、国営エネルギー会社であるアラムコは原油の減産ではなく、日産能力を1,200万バレルから1,300万バレルまで増強する6ヶ年のプロジェクトをすすめている。同社のアミン・ナセルCEOはロイターの取材に、排出量削減を進めることと原油増産は「まったく矛盾しない」と述べている。
実はサウジアラビアの排出量は、自国内のみを対象としている。国連の会計規則では、サウジの原油を海外の自動車、工場、発電所で使用してもサウジのカウントにはならない。
とはいえ、世界で9番目に二酸化炭素排出量の多い、産油国がネットゼロを打ち出した意義は大きい。
25日には資産運用会社ブラックロックと共同で運営する国家インフラファンドの設立も明らかになった。今後10年間で最大533億2,000万ドルの基金になる。これはエネルギーや交通の化石燃料依存を下げるためにも使われる。2030年までに地域送電網における太陽光発電と風力発電の割合も5割まで引きあげ、水素利用にも多額の投資をおこなっている。また、二酸化炭素貯蔵・貯留技術の開発にも意欲的だ。
COP26のアロック・シャロマ議長はサウジの決定を歓迎している。
I welcome Saudi Arabia’s 🇸🇦 announcement that it will reach net zero by 2060
— Alok Sharma (@AlokSharma_RDG) October 23, 2021
I hope this landmark announcement at #SGIForum will galvanise ambition from others ahead of #COP26
Look forward to the detail of Saudi Arabia’s revised NDC and working together to keep 1.5C in reach
一方、UAE(アラブ首長国連邦)の指導者、ムハンマド・ビン・ラーシド・アール・マクトゥーム氏は、同国が2050年までにネットゼロを目標にし、今後30年間で再エネに1,630億ドルを投資すると10月7日に、サウジに先駆けて発表。UAEもサウジアラビア同様に、自国内での排出量のみをカウントする。UAEは2030年までに排出量を23.5%削減し、2050年までには電力の5割を再エネと原子力でまかなうという。
バーレーンも10月に2060年二酸化炭素ネットゼロを発表している。トルコは2053年ネットゼロ目標を国が承認した。
25日(現地時間)には、COPを前に、中東グリーン・イニシアチブ・サミットが開催。中東グリーン・イニシアチブを新たに立ち上げることを発表。米国のケリー気候特使は同サミットに参加し、「大きな前進」だと述べた。
石炭採掘国のオーストラリアは国内の与野党の調整が難航していたが、10月26日、2050年までのネットゼロを決定した。詳細はこれからだが、グリーン水素、再エネ、炭素貯蔵の技術開発などを目指すという。
中東グリーン・イニシアチブ(Youtube)
中国は2060年ネットゼロを目標に掲げるが、その詳細な目標を、COP26を前に公表した。
10月24日に中国・新華社通信に「新発展構想の完全かつ正確な実施によるカーボンピーキングとカーボンニュートラル作業の善処に関する中国共産党中央委員会および国務院の意見」が掲載された。
それによると中国は2030年までに二酸化炭素排出量をピークアウトさせ、2060年までに非化石エネルギーを全体の8割にまで引きあげる。
また、エネルギー消費量や二酸化炭素排出量の多いプロジェクトを「やみくもに開発せず、抑制させる」とし、石炭火力発電、鉄鋼、石油化学などへの投資を厳しく制限するという。
新華社通信のリリースでは「第1に、経済・社会発展の包括的なグリーン転換を促進する。第2に、産業構造を調整する。第3に、クリーンで低炭素、安全で効率的なエネルギーシステムの構築の加速。第4に、低炭素輸送システムの構築の加速。第5に、都市と農村の建築におけるグリーンで低炭素な発展と質の向上。第6に、主要なグリーンで低炭素な科学技術の研究・普及・応用の強化。第7に、カーボンシンク(炭素貯蔵)を引き続き強化する」と具体的な項目をあげている。
第21回気候変動枠組条約締約国会議(COP21)に出席する習近平(2015年) Public Domain
COP26開催国のイギリスは、より一層カーボンニュートラルへ踏み出そうとしている。
同国は10月19日、再エネへの転換に2030年までに最大900億ポンド(約14兆円)の民間投資を活用すると発表した。それによるとすでに10億ポンドをコミットしているEVとそのサプライチェーンに追加で3億5,000万ポンド。充電ポイントに6億2,000万ポンドを追加投資する。
持続可能なジェット燃料(SAF)には1億8,000万ポンド、グリーン水素に1億4,000万ポンド、炭素回収に10億ポンドなど、政府投資を拡大する。建物の熱効率向上と脱炭素に39億ポンド、新たなエネルギー関連テクノロジーには5億ポンドを追加し合計15億ポンドを投資する。一方、小型の原子炉(SMR)には1億2,000万ポンドの追加投資であり、他に比べるとその投資額は少なくみえる。
ボリス・ジョンソン英首相は「気候変動への影響を終わらせる英国の将来は、高給の雇用、数十億の投資、そして繁栄するグリーン産業によって道が拓ける。(英国は)最初に行動し、大胆な行動を取ることで、電気自動車、洋上風力、炭素回収技術などで明確な競争力を構築し、その過程で人々や企業をサポートします」とコメントしている。
ジョンソン英首相と子ども記者との気候変動についての記者会見 10月25日 Picture by Andrew Parsons / No 10 Downing Street
そのボリス・ジョンソン英首相は10月13日、日本の岸田首相との電話協議で「日本が国内の石炭火力を廃止する方針を打ち出すことを望む」と求めたと日本経済新聞は伝えている。ジョンソン首相は9月に「先進国は2030年、途上国は2040年までに石炭への依存を断つよう求める」と表明している。また、同国の石炭火力発電は2024年に前倒ししておこなう。
日本の第6次エネルギー基本計画には未だ石炭火力の発電を2030年に2割弱との方針が残る。COP議長国であるイギリスからの強い要請があることになる。
イギリスはLNGの高騰やBrexitの影響での人手不足などで、エネルギー価格が跳ね上がっている。しかし、化石燃料への道は自ら断っている格好だ。COPをなんとしてでも成功させ、Brexit後のイギリスのプレゼンスを保とうというジョンソン首相の意図も透けて見える。
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