コロナ禍で進む米国の再生可能エネルギー導入 シェア急落の石炭、石油と原発も苦境 | EnergyShift

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コロナ禍で進む米国の再生可能エネルギー導入 シェア急落の石炭、石油と原発も苦境

コロナ禍で進む米国の再生可能エネルギー導入 シェア急落の石炭、石油と原発も苦境

2020年07月17日

新型コロナウイルスの感染拡大が続く米国、エネルギー産業の各分野に多大な影響を及ぼしている。石油業界は、3月以降相次ぐシェール企業の破綻や、その背景にある原油の供給過剰感など、厳しい事業環境が続く。ほかに石炭も原子力も、困難な状況の業界は石油に限ったことではない。一方、再生可能エネルギーは全米での発電比率が初めて石炭を上回るなど、着実に導入が進んでいる。パンデミック(感染の大流行)の始まった過去数ヶ月に米国で起きたさまざまな変化を見ていく。

世界最多のコロナ感染

新型コロナウイルスの感染者数300万人超(7月9日)と世界最多の米国、中でも全50州で一番多いニューヨーク州は単独で40万人を超える(4月)など、深刻な状況が続いてきた。最近では感染者の減少傾向を踏まえ、段階的に規制解除、経済再開を果たしている。州内で感染者が集中するニューヨーク市内も、レストランやカフェの屋外での飲食が認められるなど、街はにわかに活気づいてきた。

WELCOME BACK NYと表示された電子看板=6月下旬、ニューヨーク市のタイムズスクエア 筆者撮影

しかし先行きは決して楽観できない。ニューヨークより先にコロナウイルス対策の規制を緩和していたテキサスやカリフォルニア、フロリダなど米国南部の州を中心に感染者が急増し、7月1日には米国全体の1日の感染者数が5万人、10日には1日の感染者は7万人を超え、第2波が押し寄せている。地域によっては経済活動の再開を見直し、中断する動きが出始めた。

夏本番を迎えている各州だが、たとえオープンしているビーチや山あいのキャンプ場といった屋外でも、マスクの着用やソーシャルディスタンス(社会的距離)の確保が求められ、例年のように自由に楽しめる雰囲気はない。向かえる場所が限られる中、外出が手控えられ、自宅で過ごす人たちが増えている。

各州で感染の第1波がピークに達して外出制限が強化された3~4月、ガソリンの需要減は顕著に表れた。EIA(米エネルギー情報局)の統計によると、前年4月下旬のガソリン需要は1日当たり950万バレル程度(4週平均)だったの対し、今年は半分近くまで急減した。

EIA This Week in Petroleum のガソリン需要より

足もとも本来期待される需要より3割ほど少なく、例年にない需要の落ち込みに見舞われている。経済活動が再開してくるにつれ、少しずつ需要が戻りつつあるものの、経済活動を再び止める動きが各都市に広まってきており、需要は再度冷え込んでいくとみられる。ガソリン需要が回復軌道に乗ったと見るのは早計だろう。

各国が国境の管理を厳しくし、水際対策を強化する中、欠航や減便を余儀なくされている航空各社の経営は大きく揺らいでいる。大幅な減便はジェット燃料となる石油製品の需要減に直結し、原油の供給がだぶついている。
一方、格付け機関大手のS&P(スタンダードアンドプアーズ)は6月下旬に公表したリポート*で、石油の需要は2019年、すでにピークに達していた可能性があると指摘した。

そうした地合いを引き継いだ2020年、供給過剰感が決定的となったのが3月のOPEC(石油輸出国機構)の盟主サウジアラビアとロシアの仲たがいによる減産協議の決裂、増産の動きだった。それを受けて原油の先物価格は急落し、シェール企業の倒産が相次いだ。

その顛末は4月の拙稿に譲るとして、米調査会社ライスタッド・エナジー幹部の分析では、WTI原油の価格が1バレル=30ドルで推移した場合、米石油・ガス開発企業約9,000社のうち、2020年に73社、2021年に170社がチャプター11(破産法11条)適用を申請して倒産すると予想している。

そうした中、1989年創業でシェール革命の旗手だった大手チェサピーク・エナジーが6月下旬に経営破綻した。コロナウイルスの感染拡大に伴う需要減と原油価格の低迷を受け、経営破綻に陥った石油・ガス開発企業は約20社に上るとされ、業界の苦境が一層鮮明となってきた。

*Oil, fossil fuel demand may have peaked in 2019 thanks to COVID-19: report, S&P Global

今夏の需要は近年で最低水準

厳しい経営を迫られているのは石油業界だけではない。

外出の規制または自粛を背景に、会社員に在宅勤務が義務付けられたり、工場やオフィスが閉鎖されたりした関係で、電力需要は各州で軒並み低下している。

EIAが6月に発表した2020年夏(6~8月)の電力需要の予想は、リーマン・ショックの影響で落ち込んだ2009年以降、最も低くなると見込まれる。

EIA expects 2020 summer U.S. electricity demand to be lowest since 2009

セクター別の2020年夏の電力需要は、商業(commercial)と産業(industrial)でそれぞれ前年同期比12%と9%の減少が見込まれる。一方、外出がはばかられる中で在宅する人が増えるとの前提から、住居分野(residential)は前年比3%の増加が見込まれる。例年なら夏はキャンプや海外旅行に忙しい米国人も、今年は家でじっとして過ごす人は少なくない。筆者の住むニューヨークも、そうした人の話をしばしば聞くようになった。

経済が再始動した米国の各都市で再び感染が広まっている事態が連日報じられるのを見聞きするに、「当面は家で安全に過ごそう」と考える人が増えることは想像に難くない。

EIA expects 2020 summer U.S. electricity demand to be lowest since 2009

夏の電力需要予想を電源別に見ると、4,670億kWhの天然ガスが最多となり、需要全体の約44%を賄うと想定される。前年同期の比率は41%(4,600億kWh)で3ポイントの増加となる。ガスの調達コストの劇的な低下に伴い、全電源に占める天然ガスのシェアは年々高まっている。

シェア2番手は原子力で、今夏に初めて石炭を上回る見通しとなった。ただ、コロナウイルスの感染予防に万全を期しながら、複雑な設備の保守・管理・修繕に当たるのは一層複雑で困難なようだ。

米国の業界団体の「原子力エネルギー協会」(NEI)はこのほど規約を改定して対応を強化した。マスクや手袋などの十分な備蓄、こまめな消毒など、作業に当たる際の項目などを指定し、細心の注意を払うよう促している。さらに6月25日には、コロナ禍における原子力業界の指針を公表、「コロナウイルスが収束後(ポストコロナ)、原子力事業による高価値の雇用を創出する」など4項目を定めた。

The four policy briefs are:

  • Nuclear power and the cost-effective decarbonisation of electricity systems.
  • Creating high-value jobs in the post-COVID-19 recovery with nuclear energy projects.
  • Unlocking financing for nuclear energy infrastructure in the COVID-19 economic recovery.
  • Building low-carbon resilient electricity infrastructures with nuclear energy in the post-COVID-19 era.

NEA launches policy briefs on nuclear’s role in economic recovery

そうした種々の取り組みを重ねるも、集団感染は起きてしまった。ニューヨーク・タイムズ紙によると、アトランタ州ジョージアで新設中のボーグル原発で、工事に携わる約9,000人の従業員のうち、171人にウイルス感染が確認された**。同原発で最初の感染者が確認されたのは4月、以来じわじわと増えてきた。

火力や水力など他の発電所に比べ、ひとたび事故や不具合が起きれば、地域、社会への影響が大きい原子力だけに、コロナウイルスとどう向き合っていくか、模索が続く。

** The New York Times:A nuclear power plant in Georgia confirmed an outbreak.

石炭の需要が急減

シェアの3番手は、原子力に抜かれる見通しの石炭だ。2010年ごろまで、かつて全発電量に占める構成比が半分以上を占めていた時代もあったが、世界の脱石炭の潮流を受け、減少の一途をたどっている。

2020年夏は、2,720億kWhで需要全体の24%を占めていた前年から1,000億kWh近く減って、1,780億kWhとなると見込まれる。

米国のエネルギー源をめぐる主役交代を象徴するデータがもうひとつある。同じくEIAが5月に公表した2019年の米国におけるエネルギー消費に関する報告書によると、太陽光や風力などの再生可能エネルギーによる総量は、1885年以降のエネルギー史で初めて、石炭の消費量を抜いた。再エネの導入が進み、石炭の消費量が落ち込む傾向は今後も続いていくとみられる。

脱炭素・再エネと大統領選

そのトレンドは、下記に示した地域別の今夏と昨夏の発電量予想でも明らかだ。再生可能エネルギー(緑色のバー)は総じて前年より多い発電量が見込まれている。再エネは、コロナ禍にあっても引き続き伸びが期待される。

Short-Term Energy Outlook Supplement: Summer 2020 Electricity Industry Outlook

この再エネ導入拡大の動きは、グリーンニューディールを掲げたオバマ前政権時代に加速した。一方、現在のトランプ政権は石炭産業を奨励したり、パリ協定を脱退したりと、むしろ再エネ導入や脱炭素と逆行している。ただそうした中でさえ、石炭の需要が急減し、再エネの導入は着実に進みつつある。

再び、「新たな」グリーンニューディールを掲げて共和党・トランプ氏に挑む民主党、その政策の実現は景気の腰折れを招くと警告するトランプ氏。コロナ禍という極めて異例の状況下での選挙戦は4ヶ月後に迫った。いずれが勝利しても、指導者には難しいかじ取りが迫られている。

参照

南龍太
南龍太

政府系エネルギー機関から経済産業省資源エネルギー庁出向を経て、共同通信社記者として盛岡支局勤務、大阪支社と本社経済部で主にエネルギー分野を担当。現在ニューヨークで執筆活動を続ける。著書に『エネルギー業界大研究』、『電子部品業界大研究』(いずれも産学社)など。東京外国語大学ペルシア語専攻卒。新潟県出身。

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