油価急落で米シェール企業破綻 着実に忍び寄るコロナの負の影響 交錯する米露サウジの思惑 | EnergyShift

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油価急落で米シェール企業破綻 着実に忍び寄るコロナの負の影響 交錯する米露サウジの思惑

油価急落で米シェール企業破綻 着実に忍び寄るコロナの負の影響 交錯する米露サウジの思惑

2020/04/14

新型コロナウイルスの感染拡大が世界経済にも着実に、そして急速に暗い影を落とし始めた。好不況の温度計とも言われる株価が世界各地の市場で大暴落した2020年3月、その引き金となったのは原油をめぐる産油国の不協和音不調和だった。一旦たがが外れた相場は、株価も油価も崖から転げ落ちるように急降下し、今も二番底を探るような際どい値動きが続く。急落から1ヶ月ほどの間に、欧米を始めたとした主要国はコロナの猛威に見舞われ、ビジネス環境は悪化の一途を辿った。エネルギー業界でも需要予測の下方修正や設備投資の見直しが相次いでいる。

湾岸戦争以来の油価急落

事件が起きたのは2020年3月9日月曜日。この日、ニューヨーク株式市場でダウ工業株30種平均が前週末比2,013ドル76セント(7.8%)安の2万3,851ドル02セントで取引を終え、当時として過去最大の下げ幅を記録した。市場の安定化を図るために全銘柄の売買を一時停止する「サーキットブレーカー」の措置が取られたが、再開後さらに売りに押されて下げ幅は一時2,100ドルを超え、大荒れの相場となった。

きっかけは前週末の3月6日金曜日、サウジアラビアが主導する石油輸出国機構(OPEC)とロシアの協調減産に向けた協議が決裂したことだ。既にコロナウイルスが猛威を振るい、世界経済が停滞すると見込まれていた折、サウジアラビアは需給の引き締めを示唆し、市場関係者の予想も大方は減産継続だった。ところがロシアはさらなる減産を拒否、協議は物別れに終わった。

OPECの盟主を自任するサウジアラビアは、このロシアの「裏切り」を看過しなかった。サウジアラビア政府は販売価格を下げ、増産に転じるとの意向を表明、サウジアラビアとロシアによる価格競争勃発の様相を呈した。これを受け、国際的な指標となるブレント原油の先物価格は3月9日、一時3割余りも下落し、5月限が1バレル14.25ドル安の31.02ドルを付けた。これは湾岸戦争以来の下げ幅である。同日のニューヨーク商業取引所(NYMEX)の米国産原油WTI先物も一時11.28ドル(27%)安の30ドルまで急落した。

ロシア造反の誘因は米国にあった

そもそもロシアが造反に動いた背景には、米国による漁夫の利を許すまじとする意図があったとされる。

OPECとロシアによる枠組み「OPEC+1」が協調減産を続ける一方、2019年は年間を通じてWTI原油*が概ね50~60ドルのレンジで推移していた。この比較的安定した油価に旨みを感じていたのは他でもない米国、そして次世代型エネルギー「シェールオイル」を開発する企業だった。OPEC+1が減産で供給を絞るほど、米企業が増産してシェアを広げていく構図だ。

世界がコロナウイルスという今世紀最大の危機の下、サウジアラビアとロシアの不和は火に油を注ぐ形の悪材料として市場に受け止められ、世界の株式相場の上値を重くしている。9日以降もダウ平均は断続的に急落を繰り返し、3月はさらに2回サーキットブレーカーを発動する異常事態となった。

各国が外出自粛の指示・要請や事実上の国境封鎖といった人とモノの移動を制限する動きは日を追うごとに強まり、世界経済は停滞する一方だ。つまり飛行機が飛ばず、物流のトラックも走らない。これにより、輸送燃料の需要減がことさらに意識されるようになる。3月30日には米原油先物は一時1バレル20ドルを割り込み、2002年以来18年ぶりの安値圏に突入した。年初に、米イランの対立激化で70ドルを超えていた頃が遠い昔のようにすら感じられる。

*WTI原油:西テキサスで産出される原油のこと、及びその先物商品。ニューヨーク・マーカンタイル取引所(NYMEX)で取引されている。

シェール企業、経営破綻の衝撃

ある意味、ロシアの思惑通りと言うべきか、作戦勝ちとも言うべきか。
強気の自国第一主義「アメリカ・ファースト」を掲げ、大規模減税などで好景気の、強い米国を演出してきたトランプ大統領。株式市場の好況は「トランプ相場」とも言われた。しかし3月のダウ平均の変調を受け、トランプ氏はにわかに浮足立った。

その要因のひとつとなった原油安はガソリン安につながり、車社会米国の国民に歓迎される面もあるため、本来なら米政権にとって悪いことばかりではない。ただ、コロナウイルスの惨禍が広がり、米国内の移動や物流が大幅に制限される現状、低油価、ガソリン価格下落はさほど重要視されていない。

4月に入っても雲行きは怪しく、むしろ不透明さを増している。4月1日、サウジアラビアは約2割の増産を実行へと移す。そして同じ日、海を隔てた米国では、下げ止まらない原油相場を受け、中堅のシェール企業、ホワイティング・ペトロリアムが米連邦破産法11条の適用を申請、経営破綻した

現在、シェールオイルの生産は一般に原油価格1バレル50ドルが採算ラインと言われる。足もとの1バレル20ドル台では到底事業が成り立たない。第2のホワイティングとなる企業倒産が続いてもおかしくない状況だ。

シェール企業の発行する社債は、事業のリスクが比較的大きいことなどから「低格付け債」が多く、今後シェール企業の倒産が続出するような事態となれば、新たな金融不安の火種になりかねない。米国の焦りはそこにある。
米・ロ・サウジ、世界の石油生産のトップ3が三つどもえ、三者三様の事情で痛み分けをしている状況とも映り、我慢比べにも消耗戦にも似た様相を呈している。

経営破綻を伝えるホワイティング・ペトロリアムのウェブサイト

危うい合意形成

シェール企業の苦境を察知してか、トランプ氏も行動に出る。3月30日には、プーチン氏と電話会談を行い、原油市場の安定に向けて担当閣僚レベルで協議することで一致した。ロシア大統領府によると、会談の提案は米国からなされ、長時間に及んだ。

既に米シェール企業の倒産という「実」を上げたロシアは4月9日、サウジと再協議に臨み、大幅な減産で合意した。
サウジとロシアの協議を前にして、トランプ氏は得意のツイッターで先走った。両国が「日量約1,000万バレルの減産に近く合意する」と投稿、さらに「1,500万バレルかもしれない。みんなにとって素晴らしいニュースだ!」とはやし立てた。これを受け、原油相場は持ち直し、株式市場も反応、上げ相場の展開となった。

トランプ氏の2020年4月2日のTwitter

4月3日にはプーチン氏も、閣僚らとのビデオ会議で、日量1,000万バレル程度の削減の必要性に言及した。一方で協調減産には米国も加わるべきだと提案し、米国による協力も匂わせた。

すると今度は英経済紙フィナンシャル・タイムズが4月4日、サウジとロシアが協調減産の再開について早期に合意できない場合は、両国から米国とカナダが輸入する石油に制裁的な関税の導入を検討していると報じた。同日、トランプ氏は記者会見で、原油安に喘ぐ自国のエネルギー産業を守るために「何でもする」(I’ll do whatever I have to do.)と語った。

OPEC+1を超える枠組み、OPEC+米ロが実現するか。注目に値するが、トランプ氏の政治思想に照らせば、その公算は大きくないだろう。

著しい原油の需要減

他方、合意に至った減産量について、数字の妥当性も問われている。EIA(米エネルギー情報局)やOPECなどは従来、2020年の世界の原油需要を日量1億バレル余りと予想してきた。

世界の液体燃料 生産と消費のバランス 出典:EIA Short-Term Energy Outlook P.17

しかし3月初旬の油価急落以降、潮目が変わった。関連の各種レポートは軒並み需要量の減少傾向が示される。
IEA(国際エネルギー機関)は3月9日、まるでこの日の原油価格の急落を待ち構えていたかのようなタイミングでレポートを発表、2020年の世界の石油需要が前年比で日量9万バレル減少すると予測した。リーマン・ショックの金融危機後の2009年以来11年ぶりとなる通年でのマイナスの見通しだ。

さらに、ゴールドマン・サックスは3月18日に2020年の世界需要が日量110万バレル減るとの見通しを示し、IHSマークイットは4月までに需要が最大日量1,000万バレル減る可能性を指摘した。

既に世界需要は日量2,000万~3,000万バレル規模で減り始めたとの見方もある。協調減産が数百万バレルでは到底、実需と供給のバランスが整合しなそうだ。

企業の下方修正相次ぐ

こうした予測を裏打ちするかのように、石油メジャーや各国NOC(国営石油)が相次いで2020年の設備投資計画を見直している。ロイヤル・ダッチ・シェルが250億ドルから200億ドルに、シェブロンが200億ドルから160億ドルといずれも2割減としたのをはじめ、サウジアラムコは350億ドルから250億ドルへ約3割削減する見通しだ。

4月1日のIEAのレポートによると、石油各社は総じて当初計画を20~35%下方修正している。感染拡大の煽りを受け、天然ガスなどの他の燃料資源のほか、技術開発などにもマイナス影響が及ぶだろうと指摘している。

一部の石油・ガス会社が2020年の設備投資額の改定を発表 出典:IEA

「米国電力業界への新型コロナウイルスの影響はまだわずか」(リンク:https://energy-shift.com/news/48cfdaf9-0d34-41c2-9f0b-0fc59f899f76)とするフォーブスの記事もあったが、ロイター通信が「わずか2週間前の予測すら、すぐに陳腐化する」(Even forecasts made less than two weeks ago, now seem outdated. (リンク:https://www.reuters.com/article/us-global-oil-demand/demand-destruction-analysts-race-to-lower-outlooks-for-oil-idUSKBN2172B9)と記したように、刻一刻と時勢が変転している。

フランス・アレバ(AREVA)の原発事業を引き継いだEDF(フランス電力公社)は、コロナウイルス感染拡大を踏まえ、2020年における原子力発電の目標値の下方修正に動いている。エネルギー関連情報を配信するS&P グローバル・プラッツによると、フランスの営業停止や外出禁止令などに伴い、3月のある木曜は、例年3月の平日の電力需要を15%ほど下回っているという

米国内の石油以外のエネルギー業界にも、徐々に影響が及び始めている。米原子力エネルギー協会(NEI)は、国内原発での新燃料の装荷に際し、エネルギー省(DOE)に必要な支援を求めている。通常、装荷作業は百人規模の態勢で数十日間に及ぶが、コロナウイルス感染予防により各地で多くの宿泊や飲食の施設が営業を取りやめているため、作業に支障を来さぬようあらかじめ訴えた形だ。

また、米東海岸諸州が対象地域の北米最大となる電力卸売市場「PJM」は、感染拡大を抑えるための会議を毎週開き、有効策(ベストプラクティス)をネットで公開、共有している。

ベストプラクティスを共有するPJMのウェブサイト

より消費者に近いところでは、ニューヨーク州で電力小売りなどを手掛けるコン・エジソンが、コロナウイルス感染拡大に伴い増えている失業者の状況を踏まえ、支払い期限を猶予するなどの措置を取っている。同時に、混乱に乗じて増えている、同社関係者を装った訪問やダイレクトメールによる高額支払いの詐欺に騙されないよう注意を呼び掛けている。

米国で国家非常事態宣言が出されたのは3月13日、それに先立ちニューヨークが州独自の非常事態宣言を出したのは3月8日。まもなくひと月が経とうとする中、いろいろなことがあった。感染者や死亡者の増加はピークを迎えつつあるが、経済への影響は今後より深刻な形で、時間差で出てくるはずだ。動向を一層注視していく必要がある。

南龍太
南龍太

政府系エネルギー機関から経済産業省資源エネルギー庁出向を経て、共同通信社記者として盛岡支局勤務、大阪支社と本社経済部で主にエネルギー分野を担当。現在ニューヨークで執筆活動を続ける。著書に『エネルギー業界大研究』、『電子部品業界大研究』(いずれも産学社)など。東京外国語大学ペルシア語専攻卒。新潟県出身。

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