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インテリジェントビルの未来 B2G

インテリジェントビルの未来 B2G

米国では、DOE(米国エネルギー省)を中心に、オフィスビルなどの建物をインテリジェント化・スマート化し、グリッド(送配電網)と連系させ、エネルギーの利用効率を高めていくシステムとして、B2G(Building to Grid)というコンセプトが考えられている。B2Gは何を目指しているのか、その未来像を米国在住のジャーナリスト土方細秩子氏がお届けする。

DOE(米エネルギー省)が描く将来像

B2Gとは、オフィスあるいは集合住宅に充発電設備を設置し、IoTを活用したスマートなエネルギー管理を通じて、建物自体がインフラの一部として機能する、という考え方だ。具体的には、太陽光発電、蓄電システム、EV用充電設備のインフラなどのDER(Distributed energy resources)と利用機器とを連携させ、エネルギーの需要供給をコントロールする役割に充てる。つまりビル自身が電力供給のインフラの役割を果たし、その電力により例えば効率的にEVに充電する、あるいはオフィスの電力ニーズを補う、といったマイクログリッドの一種である。

DOEが「ピーク時の電力不足、大規模停電などの電力リスクを軽減させるために建物に電力供給のためのグリッド機能を」と提唱したのがB2Gの始まりだ。現在米国では実現に向けて、各業界を巻き込んでのロードマップ作りが行われている。

マーケットリサーチ会社ナビガント・リサーチ社によると、毎年世界中で建設される商業用ビルは約22億mに及び、既存の施設と合わせると世界の商業用ビルの延べ面積は2025年には約464億mとなる。世界中にB2Gが広がることを考えれば、その市場規模、導入ポテンシャルは、このくらいあるということだ。

B2G実現に向けた課題

B2Gの実現にはカスタマー、政治的規制、テクノロジー、ビジネスモデル、オペレーションという5つの分野での大きなマーケットシフトが必要となる。特に電力会社、テクノロジー企業、サービスプロバイダーの3つが如何に提携し、効率の良いエネルギー供給を行うことが出来るのかが鍵となる。

DOEによると、B2Gの実現に至るには6つのフェーズが考えられるという。

フェーズ1:デジタル基盤の構築 これはすでに一部のインテリジェントビルで行われているが、高度なデジタル処理により需給のバランスを可視化し、コントロールするシステムを指す。

フェーズ2:デバイスの統合による節電 これはスマートホームなどですでに行われているものだが、1つのコントロールパネルにより照明や温度などを操作するIoTの導入などが含まれる。建物内を一定の温度に保つ、使用されていない部分の照明を落とす、などによりエネルギー効率を図り、全体の節電を行う。

フェーズ3:既存のインフラとの連携 EVの充電設備をビルに付随する駐車場に設置するなどで、エネルギーのスムーズなやり取りが出来る環境を作る。

フェーズ4:エネルギーの創出 これは主にビル外観部分での太陽光発電となる。同時にテスラのパワーウォールなどに代表される蓄電システムを設置することも必要不可欠だ。

フェーズ5:エネルギーの需要管理をビルそのものが行うように デジタル化された需給パネルを通じて必要な場所に必要な電力を供給し、発電量、蓄電量から適正な電力使用を管理する。

フェーズ6:エネルギークラウドとの連携 電力会社のグリッドとの連結により、電力が不足する場合はグリッドから電力を買い取り、余剰電力がある場合は還元する。ビルそのものがグリッドの一部として機能し、スマートシティの一部になる、という最終形態である。

商業用ビルだけではなく、集合住宅にもB2Gは大きなビジネスチャンスがある。Google Nestのようなスマート・サーモスタットをはじめ、コネクテッド・セキュリティシステム、スマートスピーカーに代表されるスマートホーム・ハブなどを導入することにより、住民全体のエネルギーコストを低減させ、安全性・快適性を高めた、より価値の高い住宅を実現することが可能だ。

B2G実現には、多業種の提携がカギ

このようにみていくと、B2Gとは単なるハコを作るのではなく、全体的なソリューションを提供するものであり、従来のデベロッパーとITプロバイダー、電力会社などとの提携が必須条件となるだろう。

デベロッパーサイドからはITのスキルセットの獲得、あるいはデジタル機能拡張のエキスパートとのパートナーシップが必要となる。またサービスプロバイダーではこうしたビル専門のエキスパートの育成、不動産管理のソリューションを提供できる企業との提携が必要となる。そしてエネルギー・プロバイダーは従来の需給管理に加え、付加価値のあるサービスとして様々なデジタル・テクノロジーの導入、顧客への啓蒙活動などを行う必要がある。

これらの事業者だけではなく、B2Gの導入は関連する様々な業界にとって大きなビジネスチャンスとなる。なかでも最大のチャンスがあるのは、やはり太陽光発電を始めとするDER関連産業だ。すべての新規オフィスビル、集合住宅などに太陽光発電、蓄電システム、EV充電設備が設置されるようになれば、DER市場規模は莫大なものになると考えられる。

また電力の需給管理・運用管理などを行うテクノロジープロバイダーにとってもビジネス機会は大きい。エネルギーマネジメントを他のソリューションと一本化するようなサービスを提供する企業が今後生まれる可能性は大きい。米国では交通、運輸に関して「ウーバー・エフェクト」という言葉がある。最初はライドシェアサービスとして登場したウーバーだが、次第に周辺の様々なサービスを巻き込んで「交通に関するワンストップ・ソリューション」を提供するアプリに成長した。B2Gでも同様に、ビル管理とエネルギーマネジメントを含むあらゆる関連サービスを一本化するようなプロバイダーが登場することは十分に考えられる。

現時点で、この分野への参入を表明した企業はないが、大手デベロッパーとサービスプロバイダーの提携などは行われており、これがB2Gに向けた企業グループに発展する可能性が指摘されている。

期待されるプラットフォーム構築

DOEではB2G実現のために、VOLTTRONというプラットフォーム作りを同時に進めている。下部団体のパシフィック・ノースウェスト国立研究所が開発しているオープンソース・ソフトウェア・プラットフォームで、エネルギーに関するあらゆるデータを集め、効率の良いエネルギー配分や再生可能エネルギーの保存、再配分など、様々な活用が期待されている。オープンソースであり、規模の拡大が可能であることから、計画の規模の大小を問わず利用できるという強みがあり、今後VOLTTRONがエネルギー政策の要となる可能性も高い。

B2Gは、今後VOLTTRONのようなプラットフォームに集約される可能性がある。

ナビガント・リサーチのまとめによると、B2Gの開発、普及拡大の鍵となるサービスには以下のようなものが考えられているという。

1:デジタル・インフラストラクチャー IoTによるセンサーやそれらがつながるゲートウェイ、コミュニケーションのフレームワークを構築し、ビル全体にデジタルのインフラを用意する。これによりテナントが独自にサービスプロバイダーと契約することなく、既存のサービスを即時に利用することが可能になる。

2:データ分析 データをもとに、節電などの行動や制御につなげるためのソフトウェア・アルゴリズムを有するデータ分析能力は、エネルギー管理のクラウドサービスの実現に必要不可欠なものとなる。エネルギーの需要をリアルタイムに伝え、電力会社も含んだネットワークのための分析が成功の鍵となる。

3:自動化とコントロール B2Gが導入されるビル、あるいは工場などの商業用建造物は、高度な自動化(オートメーション)が前提となる。自動化によるコストの低減、またビル全体のエネルギー消費をコントロールし、エネルギークラウドと連携させるシステムもコアとなるテクノロジーのひとつだ。

4:DERの管理運用 太陽光発電などから得られるエネルギーをいかに有効に建物内で利用し、かつEV充電ステーションなどからの収益を得ることが出来るか、またDERの管理運用を既存のエネルギークラウドに集約させ、全体的なサービスの一部として提供できるのかが、求められている。

当然だが、B2G実現のためにはそれなりの投資が必要となるし、異なるセクター間での連携、ファンド設立などの段階を踏む必要がある。しかしひとたび実現すればオフィスビルのスタンダードへと成長する可能性は十分にある。今後はステークホルダーグループの設立、実現へ向けてのロードマップ作成など、様々な業界を巻き込んでの前進が期待されている。

プロフィール

土方 細秩子(ひじかた さちこ)

京都出身、同志社大卒、その後ロータリー奨学生としてボストン大学大学院留学、同大学コミュニケーション学科で修士号取得。パリに3年間居住後ロサンゼルスに本拠地を置き、自動車、IT、政治、社会などについての動向について複数のメディアに寄稿。


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