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アップデートが進む岡山県西粟倉村のバイオマス利用

アップデートが進む岡山県西粟倉村のバイオマス利用

2019/11/26

ローカルベンチャーが活性化する、人口1,400人の村 岡山県西粟倉村

岡山県西粟倉村が、2008年に「百年の森林構想」というマスタープランを提起してから11年。岡山県北東端にあるこの小村*1は、いまや地方創生の旗手として全国から注目を浴びる存在になった。市町村合併を拒み、イニシアチブを握り続けることで村を主体的に運営したいという行政の意気込みは、新たに34の起業を生み出すまでに至っている。

ローカルベンチャー(以下LV)と呼ばれるこうした新時代の企業群は、主に林業・製材業などの森林資源活用分野と、宿泊・飲食・デザイン・不動産・酒販などといったサービス分野に分類され、直近では農業分野への展開も見られている。34のLVのうち15が法人格を有し、数社がすでに売上1億円を超えており、目指すは「100社創業、うち10社が売上1億円超え」という目標を村全体として掲げている。

一般に、中山間地域においては家族経営や小規模経営を目標とする取り組みが多い中、スケールアップをある意味で創業者に期待している例は稀である。とはいえ、日本社会が抱える生産性向上、地方における雇用創出の面、さらには新しい時代のインフラ化、官民連携による持続性の高い地域創造の観点も含めて、スタートアップからスケールアップへの意識づけは非常に重要であって、西粟倉村にはこうした面からも当事者でありながら期待している。

林業・木材産業分野では、直近10年間(2008~2018年)で素材生産量が800m3から9,200m3へと10倍以上となり、この分野に関わるLV全体の売上規模も1億から8億円へと伸びた。丸太平均単価(スギとヒノキ)を15,000円/m3とした場合、9,200m3で1.38億円であるから、そこに5倍以上の付加価値をつけて8億円の売上を上げており、丸太生産だけでの地域外収入の獲得に留まらない。ローカルといえども、いかに普通のビジネスとしてスケールさせるのか、というところがこの村がフォーカスするポイントなのである。

*1 村の人口1,450人 2019年10月1日現在

バイオマス事業の位置付け

こうした西粟倉村のいくつもの重層的な取り組みの中で、バイオマス事業がどういった位置付けにあるのだろうか。

筆者が率いる(株)sonrakuは、2014年4月からこの村で活動を開始した。その当時、「百年の森林(もり)事業」と呼ばれる西粟倉村による林業経営が軌道に乗り始めていた。その中で低質剤であるC材は、製紙用チップとして3,000円/t程度という安値で地域外へ販売されていた。一方、村内には3つの温浴施設があって、灯油代の負担が経営に大きく影響していた。

このC材を利用して、温浴施設にバイオマスボイラーを入れられないか、というアイデアが事業の始まりである。そのアイデアを2013年から筆者がコンサルタントとして検討・調査していたこともあり、sonrakuがバイオマス事業の運営者として関わることになった。

こうした林業推進によるC材の取り扱い課題や、2014年頃までは灯油単価が高い状況もあり、かつ環境モデル都市やバイオマス産業都市に、西粟倉村として採択されていたタイミングも重なり、バイオマス事業は実現に向けて動き出したのである。 一般に、地域の動きとは無関係に、バイオマス事業が先行導入されることが多い中、村全体の政策や事業課題と呼応して、はじめから重要な存在として位置づけられたことは非常に重要だった。

ここまでのバイオマスプロジェクト

西粟倉村のバイオマスプロジェクトは、これまでは熱利用に絞って実施してきた。発電をやらない、という意識はなかったが、太陽光発電と水力発電がすでに村内にある中で、バイオマスは熱に絞ってきたともいえる。

余談だが、バイオマスは熱であればエネルギー効率が80%を超える。一方、発電は30-40%程度と非常に低く、排熱利用は必須であるはずだが、大規模バイオマス発電所の場合には、排熱が大きすぎ、かつ熱は運搬できない特徴があるため、バイオマス燃料の乾燥には使われているケースがあるものの、活用しきれていない。

さて、2014年以来、西粟倉村では毎年のようにバイオマスボイラーが導入されてきた。事業スキームは、行政がハード導入を行い、民間(sonraku)が運営を行なっている。燃料は、薪ボイラーを導入。約1,000tのバイオマス(=C材)を薪に加工するプロジェクトからスタートさせた。

チップ燃料ではなく、薪を選んだ理由は2つある。2012年頃から性能の高い欧州の薪ボイラーが数社輸入され始めたため、「薪ボイラーを全国に先駆けて導入するケース」としてポジショニングを取るべきということと、もう1つはチップ燃料の場合にはチッパー導入に費用負担が大きく、サイロも場所を取るため、村内でバイオマスプロジェクトへの抵抗が多く出てしまう可能性もあったからだ。

※右にスクロールできます。
時期場所種別メーカーボイラーサイズ(kW)バイオマス量(t)
2014薪工場整備    
2014黄金泉薪ボイラーViEssmann(独)170,170650
2015元湯薪ボイラーアーク(日)75100
2016あわくら荘薪ボイラーViEssmann(独)170,100250
2017地球熱供給チップボイラーダレスサンドロ(伊)230600
2018300

2017年には、地域熱供給を導入。筆者は西粟倉村職員とデンマークや北海道下川町に視察に行き、最先端の技術を拝見しながら、どういった技術や手順で導入していけばよいかを学んだ。半径500m圏内、総延長約4km、公共施設(役場、市民センター、こども園、図書館、小中学校、デイサービス等)への暖房、給湯利用によって、合計600tのチップ量を想定しており、2022年度に全体が完成する予定である。

欧州では非常に事例の多い地域熱供給も、日本では非常に少ない。そもそも欧州でなぜ地域熱供給が多いのか。例えばデンマークでは熱をどのように国民に提供するか国家として方向性を打ち出していたり、都市開発の際に法令で検討すべきことが決められていたりする。各家庭がストーブ/ボイラーを焚くよりも、集中的に焚く方が、排ガスが抑制されたりする議論もある。このように行政が熱供給に主導的であるのだ。 一方の日本では、個別のボイラーもあるが、ヒートポンプ技術が発達していたり、都市ガスが安価に熱供給しているなどの事情もある。行政としても費用負担が多いため、なかなか広まってはいない。この西栗倉村のチャレンジは国内の1ケースとして中長期的に評価されていくだろう。

バイオマスは設備導入後スムーズに動かない

こうした取り組みを5年間行ってきた中で、いくつもの課題に向き合ってきた。特に、薪ボイラー事業においては、クリアしてきた課題も多く、この原稿で共有することで他地域のプロジェクトにも参考になるのではないか。

まず、バイオマス事業に向き合う姿勢として大切なことは、「設備導入してすぐにスムースに動くことはない」ということである。

私たちの場合にも、いずれのボイラーも運営がフィットするのに約2年かかっている。実は、同じメーカーでさえボイラーの良し悪しがあって、消耗品交換のタイミングや故障の状況が違ったりする。化石燃料ボイラーであれば、(というか現代社会において)機械設備が個体で異なるとか、うまく動かないとか、そういった状況にあれば、返品交換が当たり前であるが、バイオマスボイラーは対応が遅れていると感じる。また、日本には詳細な燃料基準がないということも問題ではある。とはいえ動かさなければただの鉄の塊。なんとか動かす中で、運営者も事業にフィットしてくるという経験を多分にしてきたのだ。

ボイラー設備や燃料との相性の課題としては、炉内のブロックが壊れやすい問題、配管にエアがかんで熱が伝わらない問題、薪が均等に燃えず両端だけ燃えないためにブリッジ(燃料細片の絡み合いや圧力により、供給装置に燃料が付着する状態)を起こす問題など、数え上げたらキリがないほどの問題に当たってきた。

バイオマスの適正な収益バランスに試行錯誤

続いて、収益化の課題である。バイオマスプロジェクトはシンプルで、コストとしては仕入れと人件費が大半を占めており、販売単価は灯油との比較で決まる。

sonrakuの場合、まず販売単価の設定が安すぎた。2015年に灯油価格が大きく下がり、その際に灯油価格との連動制ではなく価格を固定で決めてしまったのだ。一方、仕入れ単価は、近隣の兵庫県赤穂市に16MWの大規模バイオマス発電所が同時期に始まったこともあって、C材単価が一気に上がったのだ。

こうした当社が抱える収益化の課題は、2018年8月に販売単価を上げることによって、ひとまず赤字が解消された。しかし、仕入れ単価は値上げ圧力が依然続いている。 人件費については、薪割り作業の効率化を2019年9月に行い、25%の人件費削減を予定している。

効率化された薪割り作業(2019年10月撮影)

冬季の燃料ストックをどうするか

もう1つ、クリアしてきた課題として、冬季バイオマス燃料の高含水率である。年間1,000t(1,200m3)ほど燃料を使うが、そのストックが1,000tあったわけではなかった。スペースや運搬ラックの数(200m3)に限りがあって、自転車操業的に回していたのだ。 結果、12月に割った薪が翌年2月に使うような乾燥期間の短い運用をしており、かつ運搬ラックに屋根を取り付けておらず降雪の際には雪がつもり、溶けては水分が木の中に戻ってしまっていた。これらが原因でボイラー内では立ち消え現象を頻発してしまっていた。

この課題に対しては、燃料の自転車操業をやめ、冬季分を春から夏に生産し、ヤードに野積みで乾燥させること、ラックに屋根をつけること、の2つの方法で18/19冬季シーズンよりもしっかり乾燥させ、立ち消え現象をなくすことができた。

雪がかぶってしまっていた頃の写真

向き合っている課題

現状も向き合っている課題はいくつかある。

1つは、いまだ販売単価が安いことである。現状では、全国のバイオマス熱供給を行なっている中で最安値の部類である。単価を上げたり、灯油連動制価格などの仕組みも検討すべきだ。 薪ボイラー事業は、事業としての利益はほぼなく(2018年はプラス1万円)、投資への余裕が全くない状態であり、年々古くなる運用設備や運搬車などの更新はこのままでは不可能であり、長期的な持続可能性は低いと言わざるを得ない。

もう1つは、地域熱供給である。搬送装置内でチップが詰まったり、あるいは村内の最大チップ排出量を誇る製材所(西粟倉・森の学校)のチップは燃焼するには含水率が高く、村内にチップ乾燥設備がないため活用できていない。また、熱需要家側とのコミュニケーションも十分な体制が取れておらず、ソフト面でも課題が残る。地域熱供給はまだ2年目。1つ1つの課題をクリアしていく段階にある。

官民それぞれの弱みを相互に補い、インフラを担う民間組織が名乗りを上げ始めた西粟倉村。複層的に広がる課題を解決しながら、エネルギーインフラを意識して、1つ1つ積み上げていきたい。

一方、日本政府は高い野心にコミットしていない。日本企業にとって、政府がネットゼロ経済を推進することが、投資計画を立案しイノベーションを起こしていく、そして輸出機会につながっていくことになるにもかかわらず、である。

井筒耕平
井筒耕平

1975年生。愛知県出身、神戸市在住。環境エネルギー政策研究所、備前グリーンエネルギー株式会社、美作市地域おこし協力隊を経て、2012年株式会社sonraku代表取締役就任。博士(環境学)。神戸大学非常勤講師。 岡山県西粟倉村で「あわくら温泉元湯」とバイオマス事業、香川県豊島で「mamma」を運営しながら、再エネ、地方創生、人材育成などの分野で企画やコンサルティングを行う。共著に「エネルギーの世界を変える。22人の仕事(学芸出版社)」「持続可能な生き方をデザインしよう(明石書店)」などがある

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