Gas Goes Green:英国の家庭向けグリーン水素利用プロジェクト「H100 Fife」は天然ガスのセントラルヒーティングをカーボンゼロにする | EnergyShift

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Gas Goes Green:英国の家庭向けグリーン水素利用プロジェクト「H100 Fife」は天然ガスのセントラルヒーティングをカーボンゼロにする

Gas Goes Green:英国の家庭向けグリーン水素利用プロジェクト「H100 Fife」は天然ガスのセントラルヒーティングをカーボンゼロにする

2021/08/04

ガス事業の脱炭素化は、どこの国でも大きな課題となっている。日本の都市ガス事業者はグリーン水素をそのまま利用するか、あるいは原料として都市ガス(メタン)を製造し、供給するメタネーションの技術開発を進めている。これに対し英国では、グリーン水素をそのまま供給する実証を進めている。スコットランドで進められている実証の現況について、YSエネルギー・リサーチ代表である山藤泰氏が報告する。

グリーン水素直接利用による都市ガス事業の可能性

再生可能エネルギーによる電力で水を電気分解して造られる水素は、製造過程で地球温暖化ガスである炭酸ガスを排出する化石燃料を使用しないために、グリーン水素と称されている。この水素はまだ製造コストが高いということだけではなく、それをどのように広く利用するようにするかがまだ未確定だ。

当面の方法として考えられているのが、既存の天然ガスパイプラインに水素を混入して送り、天然ガスと一緒に消費するというやり方だ。

しかし、その混入量があるレベルを超えると、水素混入の天然ガスを消費するガス機器・設備の不完全燃焼を招く可能性が出てくる。欧米などでは、異なったガス田からのガスを一つのパイプラインに入れて送るのが通常だから、ガス機器・設備もガスのカロリーや燃焼速度などの特性が変化しても、ある程度は対応出来るようにはなっている。

だが、日本では都市ガスの規格が厳密で、それに応じたガス組成の調整をしたガスが送られている。ガス機器もその偏差の小さい特性のガスを利用することを前提に設計されているため、水素混入方式の許容度は極めて低い。したがって、むしろグリーン水素をそのまま利用できる方策が必要となる。

天然ガスのセントラルヒーティングをカーボンゼロに

英国がいま取り組んでいるのが、家庭での水素直接利用の実証だ。しかも、小規模な地域単位で既存の天然ガスパイプラインを水素パイプラインに切り替えて、それに繋がる家庭の暖房・給湯ボイラーと調理機器の燃料に使用するプロジェクトに世界で初めて着手している。この家庭からはCO2が排出されないため、正真正銘のネットゼロハウスとなる。

英国の暖房はほぼ全てがセントラルヒーティングで、日本で使われている部屋ごとで使うガス暖房機器はない。天然ガスによる暖房から排出される温暖化ガスであるCO2は、英国全体の排出量のほぼ4分の1。これを削減できれば、2045年から2050年に向けた英国のネットゼロ目標の達成に大きく貢献することになる。

このプロジェクトは英国のガス供給事業者SGN(スコットランドほぼ全域とイングランドの一部が事業地域)によって推進され、H100 Fifeと称されている。(ちなみにH100は水素100%の意味)。

地域丸ごとの水素転換が行われるのはスコットランド東部の沿岸部Fifeにある300戸規模のLevenmouth村。水素は洋上風力発電からの電力で水を電気分解して製造され、パイプラインで村の各戸に届けられる


Levenmouth村 SGNのH100 Fifeプロジェクトページより

電気分解設備が停まったときにも供給に支障がないよう、最も寒い冬にも数日間は供給ができるだけの貯蔵タンクも設置されている。従来から使われている給湯・暖房用ボイラーと調理機器は、バーナー部分だけを水素を使えるものに取り換えるだけで済むのがほとんどで、設備の取り替え、調整も含めて無料

供給されるガスが水素に変わっても、日常生活に全く影響を与えないことを知って貰うために、SGNは2022年の水素転換の前にモデルハウスを現地に設置して村人に利用してもらい、納得を得ることにしている。

ガス料金は従来の天然ガスの時と変わらず、使用量に応じて天然ガスと同じ料金が適用される。

ガスの切り替えにも機器の維持管理にも新しいコストが発生しないようになっている。従来から利用している天然ガスから水素への転換は強制ではなく、納得ベースで実施されることになっているが、住民のほとんどが水素利用を歓迎しているようだ。

水素転換プロジェクトは早くもスケールアップへ

この水素転換プロジェクトは、英国のOfgem(ガス・電力管理局)の認可を得て行われており、切り替え工事は2021年に始まり、2022年後半から水素の供給が始められる。プロジェクトは4年半実施され、2027年3月まで続けられる。

このプロジェクトは、ガス事業が推進する“ガスのグリーン化”(Gas Goes Green)の中核となるもので、推進母体はSGNだが、エネルギーネットワーク協会を始めとする英国のガス事業関連組織がこぞって協力し、技術開発などを支援している。

プロジェクトはまだ、水素転換の実績を出しているわけではない。だが、Ofgemは今年7月に、1,000戸から2,000戸規模の地域へ水素供給を行うプロジェクトの計画を発表して公募手続きに入った。スコットランドで準備が進んでいる水素転換に対する地域住民の受け入れが良かったために、計画を前倒しにしたようだ。

公募案内の導入部に述べられているが、昨年出された英国のエネルギー白書で、建物の熱需要に対応するのには低炭素水素が重要な役割を果たすと指摘されている。これに対応するものとして、水素を暖房用燃料として使うために、さらなる実証が必要だとし、現在進行しているH100 Fifeに続いて、地域への水素供給を、既存のガスパイプラインを利用して行う実証規模を大きくしたプロジェクトを実施するとしている。

すでに他地域への拡大を英国政府はにらむ

応募する天然ガス供給導管事業者は、まず意図する計画の妥当性を示す概要案を提出することで、助成金の申請が行われた形になり、次いで、それを詳細な計画にして提出する期限が2021年12月17日と設定されている。

その詳細計画が認められれば、実施に入るのだが、需要家に水素燃焼ができるようにする部品取り替えに入るまでの行程は、遅くとも2023年の第2四半期までに終わらせて実施申請を行わなくてはならず、2025年中頃には水素供給が実施に入ることが求められている。そして、事業を認可された導管事業者には、これよりも早い時期に水素供給を実現する努力をすることを求めている。

1,000〜2,000戸規模の既築の住居に水素を供給する実証事業が順調に進めば、英国政府はこれをさらに他の地域にも広げることにより、カーボン排出の削減目標達成に向けた施策として打ち出す意向のようだ。

具体的に計画が進展する段階になると、世界がその成果を注視するようになり、英国だけのプロジェクトではなくなるかもしれない。

山藤泰
山藤泰

1961年大阪ガス株式会社入社。1980年代に40kWリン酸型燃料電池のフィールドテスト責任者、1985年ロンドン事務所長、1994年エネルギー・文化研究所長を経て2001年退社。2006年YSエネルギー・リサーチ代表。 最近の訳書に「スモール・イズ・プロフィタブル」(省エネルギーセンター 2005年) 「新しい火の創造」(ダイヤモンド社 2012年)。最近の著書では、「よくわかるスマートグリッドの基本と仕組み」(秀和システム2011年改訂)など、訳書・著書多数。