前回の連載では、2025年再生可能エネルギー目標の達成に重要な位置付けをされている「ソーラーシェアリング」について、農業、漁業、畜産業の各分野での実施状況を紹介した。太陽光発電の開発が予定より遅れを取る中で打開策として急速に導入が進むが、課題も多い。
今回は再生可能エネルギー、とりわけ太陽光発電の導入に際してその開発案が適切かどうかを総合的に評価するメカニズム「環境と社会のための検討と審査」(中国語では「環境と社会検核」)について紹介し、台湾での導入状況を見ていくことにする。
イギリス、ドイツなどでも地域主体で発電事業を行う参加型発電事業は実施されているが、住民や環境保護団体による目立った抗議活動もなく、利害関係者から広く支持を受けている。これは事業の開発プロセスにおいて、利害関係者の意見や主張が十分に反映されてきたことが背景にあり、小規模太陽光発電事業に対し反対運動が相次ぐ台湾の状況とは対照的である。
例えばイギリス・オックスフォード近郊のWestmillにおける地面型太陽光発電事業では、景観の維持と農地利用の持続可能性が優先されてきた。地域の景観は土地所有者の如何にかかわらず住民が共同で決めるべきだという考え方が根強く、ローカルでのコミュニケーションを大事にする風土が、こうした風通しの良さにつながっているのだろう。
ドイツの太陽光発電も好例である。ドイツ政府は1970年代から、電力買取価格を高めに設定することで一般住宅の屋上へのパネル設置による電気の「地産地消」を推進しており、何より国民が売電利益を享受できることからこのモデルは日本や台湾にも広がっている。
現在太陽光が中心となっているドイツの再生可能エネルギー設備容量の半分ほどは、財団や大手発電事業者ではなく、個人や1,800社以上にも及ぶローカルな事業者に所有されているのも、ドイツ流振興策の成果と言えるだろう。
台湾では、イギリスやドイツで成功している参加型発電事業を参考に、利害関係者間でのコミュニケーションと相互理解を促す検証メカニズムの開発に取り組んでいる。環境、生態面のみを検証・認定する場合は「生態検核」と呼ばれ、多くの場合は社会へのインパクトも考慮して「環境と社会検核メカニズム(環社検核)」と呼称されている。
環社検核のモデルケースとして、2018年に決着した中南部の嘉義県・布袋(ブーダイ)における太陽光開発争議がある。
中央政府、地方自治体、業者、民間団体、地元住民との連携が持つ重要性が示され、その後メカニズムの開発手法が本格的に検討されるようになった象徴的な事例である。具体的には、345ヘクタールだった当初の開発面積が利害関係者間での調整により最終的に102ヘクタールに縮小されただけでなく、開発地における生態保全区域の設定や、開発業者に対し生態モニタリングや情報公開を要求するなど、革新的な取り組みが合意されている(写真1)。
写真1 嘉義・布袋太陽光発電所付近の湿地と絶滅危惧種のクロツラヘラサギ(黒面箆鷺)
出典:経済部能源局。
布袋の開発で採用された手法は、その後他の開発案件にも応用展開できるようにと、様々な団体で積極的な議論が行われている。例えば、大手メディアの「天下雑誌」や環境NGOの「地球公民基金会」が環社検核の重要性を強調し、具体的な提案として政府への働きかけも行っており、その主張には共通点がある。
まずは、行政が太陽光発電施設の開発対象となっている地域の生態系や人間の環境に関する資料を統合し、データベースとして公開することである。発電業者が地面型を開発する際に懸念材料となる不確実性やコストの検討に必要なだけでなく、住民の不安に対応する手段の一つでもあることから、行政・開発業者・住民の三者間に信頼関係を醸成し、後に起こり得る衝突を回避することにつながると期待されている。
また、開発エリアの選定にあたっては、個々の地域に及び得る影響が全ての利害関係者によって評価、採点されることが必要であるとも主張している。
評価リストの項目にはまだ定まったものはなく、形式が多様になることもあり得るが、少なくとも自然環境への影響、地域経済への影響、文化と景観への影響、土地利用等の各項目に点数を付けて比較することが求められる(表1、表2、図1)。この作業により、潜在的に重大な懸念のある地域を初めから排除することができるだけでなく、生態・自然環境に対する影響の緩和と地域の開発に関しても、早い段階から方向性を示すことができるようになる。
さらに上記のプロセスにより発電施設の建設・運営に地域の関係者が継続的に関わることで、開発業者からは、各利害関係者がバランス良く開発の効果を享受でき受入れやすい提案をすることが可能となる。また、事業への反発と利害関係者間の衝突をより回避しやすくなるというメリットもある。
表1「環境と社会検核」のための評価リスト
分類 | 詳細 | 採点 (0~5点) |
自然環境への影響 | ・指定自然保護区、湿地、森林など貴重な自然景観に隣接していない | |
・土壌と水の保全地に該当しない | ||
・生物多様性が低い(特有や希少野生動植物種が生息していない) | ||
・景観の回復能力が高い | ||
・これまでに環境関連の争議が起きていない | ||
合計 | ||
地域経済への影響 | ・農業や水産業における価値、資源上の損失がすくない | |
・住民の居住権が損なわれない | ||
・当該及び隣接地域の農業従事者、経営者の労働権への影響が少ない | ||
・発電が当該地域の経済発展にプラスの効果を与える | ||
・地元住民が建設を歓迎する割合が高い | ||
合計 | ||
文化と景観への影響 | ・地方創生及びコミュニティの全体設計・開発に貢献 | |
・風景への影響が少ない | ||
・史跡や文化的遺産がない | ||
・地元住民の生活品質が高まる | ||
・先住民の伝統的区域に該当しない | ||
合計 | ||
土地利用に関して | ・土地利用区分、規模が法律に反しない(例:変更地、耕作放棄地) | |
・隣接土地の利用区分が保護地や農地集中区域に該当しない | ||
・既にある公共施設やインフラの機能に影響しない | ||
・法律に従い土地を取得している | ||
・実施・策定中の都市・地域計画に含まれていない | ||
合計 |
表2 採点結果(例)
分類 | A開発検討地 | B開発検討地 |
自然環境への影響 | 5 | 12 |
地域経済への影響 | 21 | 23 |
文化と景観への影響 | 17 | 19 |
土地利用に関して | 15 | 21 |
図1 評価結果としてAよりはBのほうが開発に適している
出典:『天下雑誌』による提案に基づき筆者作成。
政府の経済部能源局は、メディアやNGOの強力な主張と過去の成功事例を背景に、2020年7月に国会の立法院で開かれたヒアリングにおいて、環社検核の計画を発表した。さらに10月には今後の開発重点となる漁電共生(養殖漁業のソーラーシェアリング)を対象とする環社検核の原則を公表するなど、その導入を急いでいる。
しかし環社検核は開発の初期段階にあり、発電事業の建設場所と地域によって必要な検討項目と検討手法が異なってしまうという側面もある。今後は漁電共生のパイロット開発地で試験的に導入し、経験を積むことで制度のブラッシュアップを目指すとしている。
今回の連載は、近年太陽光発電を中心とする台湾の再生可能エネルギーの開発において、環境負荷を低減するとともに、利害関係者間の意思疎通を促し摩擦や衝突を回避するための取り組み「環境と社会検核メカニズム(環社検核)」について紹介した。
課題もあるが、政府は今後発電設備容量の増加が見込まれている漁電共生を中心に積極的に展開していく方針である。次回は角度を変えて、今年8月に国民投票で是非が問われるまでの議論になっている、天然ガスターミナル建設問題に焦点を当てる。
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