前編では、エネルギー基本計画を軸に、エネルギーミックスのあり方について、一般財団法人日本エネルギー経済研究所の豊田正和理事長に語っていただいた。後編では、これから日本が取り組むべき重点政策は何なのか、そしてカーボンプライシングの望ましい在り方について、お伺いする。
― 新たなエネルギー源として、水素やアンモニアが浮上しています。
豊田氏:日本の太陽光発電が安くなったとはいえ、世界的にみればまだまだ高い状態です。ドバイのように1kWhあたり2円とはなっていません。
こうした背景を考えると、再エネでつくるグリーン水素よりは、化石燃料からCCS(CO2回収貯留)利用でつくるブルー水素が安い状況はしばらく続くでしょう。現時点では、既存のサプライチェーンも使えるアンモニアについても、ブルーアンモニアの方が安そうですし、量も確保できる見込みです。
再エネに恵まれず、今以上のコスト低減もそれほど期待できない日本にとっては、輸入先を多角化していれば、アンモニアや水素を輸入に頼ることは今までの状況と変わりません。必ずしも国内生産にこだわることはないでしょう。大量で安いほうがよいという観点では、CCSによって生産されるカーボンニュートラルなアンモニアや水素を海外で生産し、日本に輸送してくるのがいいと思います。勿論備蓄なども考慮する必要があります。
実際、CCSなどの技術に長けた日本企業は多いので、そういった企業に海外で活躍していただければいいと思います。もちろん、苫小牧でやっているように国内でCCSを行ってもいいのですが、限度があります。海外でも行い、安い方を活用すればいいと思います。
― 今後、重点的に取り組むべきエネルギー政策は、どういった点でしょうか?
豊田氏:「Environment」を除いた“2E+S”の観点で完璧なエネルギーはないため、バランスが重要ということに尽きると思います。そこで国民の方々と共有しなければならないのは、コストの問題です。
もっとも安いエネルギーの一つである石炭火力をなくしていくと、全体的なコストは高くなる可能性が大きくなるため、コスト上昇を可能な限り抑える必要があります。
私が問題提起したいのは、エネルギーコストが高くなった結果、日本国内から製造業がいなくなってしまうと困るということです。
簡単に、エネルギー多消費産業は無くて良いという方もおられますが、そういう訳にはいかないと思います。日本の鉄や化学製品はきわめて付加価値の高い製品ですし、競争力もあります。自動車や電機製品の重要な部品・構成品です。こうした競争力は維持していかなければなりません。
ドイツに代表される一部の欧州諸国では、エネルギー多消費産業に対する電気料金の減免が行われています。中国や韓国も同様です。日本もこういった減免措置を議論する必要があるのではないでしょうか。
減免措置をとった場合、トレードオフの関係で消費者の電気料金が上がることは否定できません。日本ではこの点で議論が混乱するのですが、消費者と産業は別の主体です。しかし、消費者は産業の中で働いており、産業と消費者の利益は本来一緒でなければいけません。
ドイツの場合は、製造業で生きていく国として割り切った考え方をしています。ドイツの方々は、ある程度高いエネルギーコストを敢えて甘受しているのです。
日本の場合には、消費者のエネルギーコストを上げてはいけないという点から議論がスタートします。今回の背景を考えると、今までおろそかにされていた産業については、特別な対応を検討してもいいのではないでしょうか。
一般財団法人日本エネルギー経済研究所 豊田正和理事長
― 脱炭素社会を目指すうえで日本に足りない視点は何でしょうか?
豊田氏:日本でもっと議論すべきだと思うのは、植林やDAC(CO2の直接大気回収)です。DACの実現は難しいと思いますが、エネルギーミックスの外の世界においても、やるべきことにはしっかり取り組むべきです。
EUや英国、中国もエネルギーミックスの最後の1~2割は「植林等」としていろいろな手段を詰め込んでいます。日本もこれを見習うべきです。
また、すべて日本国内でカーボンニュートラルを達成する必要もありません。クレジット等の活用もしっかり検討すべきですし、宇宙太陽光発電という方法もあります。
2050年であれば宇宙太陽光が活用できるようになっていてもおかしくないのではないでしょうか。稼働率が90%以上と高く、実際に商業化に向けた研究も進められています。それくらいの気合をもっていただきたいと思います。
― カーボンプライシングについての議論がにわかに始まりました。
豊田氏:カーボンプライシングは、エミッション・トレーディング(排出権取引)と炭素税の2つに分けて考えるべきです。エミッション・トレーディングは、私は賢くない選択だと思っています。
というのも、EUのケースでは、不況になるとコストが500円/t-CO2まで下がるものが、現在は3,000~4,000円/t-CO2まで上がっています。産業界にとっては、長期の投資をするにはあまりにもコストの不確実性が多すぎます。何らかを導入しなければならないのであれば、より予見性のある炭素税の方が適していると思います。
先日、海外のウェビナーでも申し上げたのですが、「敵は化石燃料ではなくCO2エミッション」なのです。炭素排出の問題を解決できれば、化石燃料は重要なエネルギー源なのです。
(Interview:本橋恵一、Text:山下幸恵、Photo:岩田勇介)
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