沖縄・那覇から南西へ約300km、台湾との中間点に位置する宮古島は今、観光業に沸いているが、離島であるが故、エネルギーの97%近くを外部に依存している。その宮古島が2050年にエネルギー自給率48.85%という、無謀ともいえる目標を掲げて動き出している。
官民共同で太陽光発電の第三者所有モデルを無料で行うなどユニークな展開を始めているが、本当の意味で自給率を向上させていくのはここから。そのために実証実験を繰り返しているが、数多くの課題が見えてくる一方、希望も出てきている。またその先には島内に限らず、日本全体への波及という夢も見えてきた。実際どういうことなのかを見ていこう。
第三者所有モデルの限界と課題
これまで2回の記事でも見てきた通り、宮古島でエネルギー自給率48.85%を目指す取り組みは、地元のベンチャー企業である株式会社宮古島未来エネルギー(以下MMEC)が行う太陽光発電の第三者所有モデルだ。
簡単にいえばMMECが、各家庭の屋根に太陽電池を無料で設置し、その太陽電池で発電した電気をその家庭に対して売ることで収益にしていくというもの。このような第三者所有モデル自体は珍しいものではなく、これまでさまざまな企業が取り組んできているが、宮古島での事例は、従来のものと抜本的な違いがあった。その最大の違いはFITを利用しないという点だろう。
通常はFITによる売電収益でビジネスを成り立たせているのに対し、MMECではFITを使っていないため、社会に対して負担もかけていない。これはエネルギーコストが非常に高い離島だからこそ成り立つ点でもあるが、MMECの代表取締役である比嘉直人氏によると、宮古島を管轄する沖縄電力へFITを使わない売電を行っても損にはならない、という。
とはいえFITと比較すれば断然安い価格であるがため、そこがメインの収益源になるわけではない。その設置家庭へ電力供給し、その売電のほうがより大きな収益になる形であり、各家庭にとってもそれが沖縄電力から普通に電力を買うのと変わらないか多少安い価格になるので、デメリットにはならないのだ。
さらにMMECの第三者所有モデルにおいてはエコキュートや蓄電池と組み合わせており、これらも含めて無料設置するというのもユニークな点。強烈な台風の上陸が頻繁にある宮古島では、年に何回かの停電が起きるのが常であり、宮古島市民にとって停電への備えに関する意識は非常に高い。ただ一般に数百万円かかる大容量の蓄電池を備えるのは簡単なことではないが、太陽光発電とセットで蓄電池を無料で設置してもらえるのであれば、がぜん注目は集まるはずだ。でもなぜそこまで無料で設置することが可能なのだろうか?
「単に太陽光発電による売電というだけでなく、系統側といかに上手に付き合っていくかが重要なカギであり、そのためには調整力を身に付けて行く必要があります。そのためにエコキュートや蓄電池をセットにしているのであり、トータルでエネルギーマネジメントしていくことを考えています」と比嘉氏。
とはいえ、第三者所有モデルを実現するためには、資本が必要となる。宮古島市が主体となって資金を支えればいいようにも思うが、そう簡単にもいかない。そこでMMECでは国からの補助金に頼って事業を進めてきたのだが、無尽蔵に補助金が得られるわけではなく、当初1年で200世帯程度への設置を予定していたが、補助金が得られなかったため、現在小休止状態になっているという。
140万円で実現するPV+蓄電池システムは救世主となるか?
「とにかく補助金からは早く卒業したいと考えています。そのためにはいかに調整力を身に付けて行くかが重要になると考えています」と比嘉氏。その調整力を得るため、画期的ともいえるシステムを開発中なのだ。少し順を追って紹介していこう。
まず従来の住宅に設置する太陽光発電システムを考えてみよう。これは日中発電し、自家消費を上回ると系統に売電する形となるため、系統への負荷を見ると、上へ赤く飛び出たところがやや予測しにくい売電であり、下の青が買電となる。
それに対し、MMECでは自主的にある程度の発電出力を上回るPV制御をかけて、電力をすり切ることで、平準化させていることについては前回の記事で紹介したとおり。これを実現したのがPV+エコキュートのモデルであり、エコキュートも出力抑制に貢献するため、結果として上に飛び出す赤い部分を非常に小さくできているのが現行の仕組みだ。
一方で、宮古島の事例というわけではなく、一般に売り出されているPV+住宅用蓄電池のシステムを表したのがこちらのグラフだ。
これは経済優先モードと呼ばれるもので、できるだけ昼間の発電をFITでの売電に回すとともに、深夜料金になる前の電力が高単価な時間帯は蓄電池から放電するとともに、深夜時間帯で充電していこうというもの。これを系統への負荷で見ると、かなり激しく凹凸が出てしまうのが分かる。
一方で、この蓄電池をグリーンモード、つまり環境負荷が少ない形で運用するとどうなるかを表したのがこちらのグラフだ。FIT対応のユーザーもそうだが、卒FITユーザーにも受け入れられているモードであり、系統への負荷が大きく下がっていることが読み取れる。
これに対し、比嘉氏が開発を進めているのが売電オフセット・買電オフセットというものを用いた新しいシステムだ。これはアグリゲーターが売買電に介入した上で、天気や世の中の需要を見つつ、事前にオフセット値を設定するというもの。つまり晴れた昼間などの決めた時間帯に決めた一定出力の売電を行い、夜間など電力が足りなくなる時間帯に一定の電力で買電を行うというものだ。
これであれば、系統への負荷は極めて低く抑えられるほか、系統側は事前にその需要・供給を予測できるため、これまで系統側が腐心してきた急な変化に対応するための準備をする必要を抑えることができ、結果として系統側のエネルギーコストを抑えることができるのだ。この際、蓄電池が重要な役割を果たすわけだが、エコキュートを組み合わせたり、電気自動車も組み合わせることでさらに制御しやすくなるのだ。
先ほどのグラフは蓄電池容量が5kWhのものを想定したものだったが、その容量を倍の10kWhにすると、さらに売電オフセット値、買電オフセット値を小さくすることが可能になり、系統への負荷は限りなくゼロとなる。
こうしたシステムであれば系統型から見てもありがたいものだし、その力強さは変動の振れ幅が大きい離島にとってはなおさらのこと。とはいえ、こうしたものの導入コストが莫大で、結局補助金頼みだとすれば、結局前には進みにくい。ところがこれを断然安い価格で出せる見込みが出てきたというのだ。
「現在、パナソニックなど大手メーカー各社と共同で開発しているのですが、5kWh程度のPVと5.6kWhの蓄電池の組み合わせで工事費込み140万円(税抜き)で販売できる見込みです。これを使うことで家庭での使用電力の90%以上を賄うことができ、10年で投資回収が可能となります。もちろん、停電時における蓄電池による備えも可能になるわけです。ただし、工事費などの負担のため条件として10年間の売電権利とその収益は我々がもつという形を取りたいと思っています」と比嘉氏。
第三者所有モデルではなく、ユーザー自身が140万円を出して所有する形になるため、MMEC側での資金はいらなくなるし、宮古島市など自治体、国の負担もいらないし、FITも使わないので、市民・国民への負担もないので、まさに理想的なシステムといえそうだ。
ほかにもEV充電システムとのセットモデルや、エコキュートとのセットモデルなども用意しているという。それでも140万円を一時金として用意するのが困難であれば、20年間の契約を条件に無料で設置する第三者所有モデルを実現することも可能ではある、という。
これが、この価格で実現できるならば、宮古島に限ったことではなく、日本全国で展開しても十分行けそうに思える。もちろん、全国の旧一電などがどう捉えるかにもよるだろうが、宮古島での実験的な試みが大きく広がる可能性もありそうだ。
「まずは早期に、これを実現させ、多くの市民に設置してもらえるように進めていきたいと考えています。もちろん、そうなると当社だけでは工事などが対応しきれないため、地元に多くあるプロパンガスの業者さんなどにもこの枠組みに参加してもらえないか、呼び掛けていきたいと考えています」と比嘉氏は語る。
「現在のところ、比嘉さんが進めるこのモデルに頼るしかないのが宮古島の実情ではありますが、これだけでは48.85%というエネルギー自給率の実現は不可能です。まずは、こうした取り組みをバックアップしつつ、より多くの市民にエネルギー自給率向上に向けた動きを知ってもらうとともに、参加してもらい、前に進めていきたいと考えています」と話すのは、宮古島市 企画政策部 エコアイランド推進課 エコアイランド推進係 係長・三上 暁氏。目標に向けては、まだまだ長く、厳しい道のりではありそうだが、少しずつ可能性が見えてきているようだ。