2020年11月10日~11日、第16回日独産業フォーラムがオンラインで開催される。この日、ドイツの「エネルギー転換」を代表する、産業界や政界、研究機関に属する日独両国の講師による講演のライブ配信が行われる(12日と13日は個別ミーティング)。
ドイツのエネルギーシフト(エネルギーヴェンデ)は、化石・原子力燃料への依存から脱却し、再生可能エネルギーに転換する単なる電源シフトにとどまらず、市民参加型で多様な取り組みが行われているという。フォーラム開催にあたって、ドイツ貿易・投資振興機関のメールによるインタビューをお届けする。この機会に、日独産業フォーラムに参加してみてはどうだろうか。
― ドイツでは、気候変動問題について、一般的にどのように受け止められていますか。
ドイツ貿易・投資振興機関(以下、GTAI):ドイツは気温上昇に伴う気候変動への危機感をある程度国全体が共有している比較的環境に配慮した国です。また、ドイツは「緑の党」が支持を集め、1998年から2005年まで連立政権を構成した最初の国でもあります。
地球温暖化ガス削減目標として、2020年に40%(既に達成される見込)、2035年に55%削減を目標として、産官学のみならず、まさに国民一丸となって取り組んでおり、多くの市民も再生可能エネルギー支援のための賦課金を納得して受け入れています。
同時に、ドイツは技術革新とエンジニアリングソリューションの国でもあるため、相乗効果から国の野心的な気候目標に向けて取り組む企業や市民は多く、こうしたことから、気候変動問題においても多くのビジネスチャンスが存在しているといえます。日本企業にも広くチャンスは提供されています。
― ドイツのエネルギー転換とはどのようなものですか?
GTAI:ドイツの「エネルギーヴェンデ(Energiewende)=エネルギー転換」は、電力、暖房、モビリティにおいて化石燃料・原子力への依存から脱却し、再生可能エネルギーに転換するドイツ連邦政府の政策です。これには、エネルギー効率の向上から、エネルギー・キャリアとしてのグリーン水素の使用、太陽光や風力発電由来のクリーンな合成燃料まで、すべてが含まれています。
さらにドイツ政府は、2050年までにドイツで発電・消費される電力について気候中立(温室効果ガスの排出実質ゼロ)を達成するという包括的な目標を掲げています。「エネルギーヴェンデ=エネルギー転換」を達成するために、既に数兆ユーロの予算が組まれています。繰り返しになりますが、ドイツは革新的な技術を持ち、未来志向の海外企業にとってもたくさんのビジネスチャンスが広がっています。
― ドイツから見て、日本の気候変動政策、エネルギー政策はどのように感じられますか。
GTAI:ドイツと日本は当然ながら異なるエネルギー政策へのアプローチを取っていますが、多くの共通点があるとも言えます。日独両国は、CO2排出量を削減し、持続可能なグリーン・エネルギーに移行するという長期目標に取り組んでいます。
日本は太陽光発電設備を最初に推進してきた国のひとつであることは、ドイツでは非常に前向きに捉えられています。逆に、ドイツが提供する、ドイツ一国だけではない、より大きな欧州全体のネットワークへの統合は、日本にも利点をもたらすものと考えられます。
― 日本のエネルギー市場で、ドイツは特にどのような分野で提携できると考えていますか。
GTAI:日本のエネルギー市場においても、日独両国は多くの分野で協働のチャンスがあります。一例は、SINTEG(シンテグ)プロジェクトのひとつである、ドイツ北部の「Enera」プロジェクトの大規模ハイブリッド蓄電池システムです(NEDOの委託実証事業と協力し、日本企業が構築した大規模ハイブリッド蓄電池システムを使用)。
特にこの分野は日本企業が世界をリードする領域であり、再生可能エネルギー電力の割合が約50%を占めるドイツは、最新技術を試し、エネルギー使用の新しいビジネスモデルを構築するのに最適な場所です。 2019年、ドイツと日本は、両国がエネルギー転換を加速するための多様な形態の包括的協力を強化することを目的に「日独エネルギーパートナーシップ」に署名しました。
― 今回は「第16回日独産業フォーラム」となりますが、前回までの成果としてどのようなものがありますか。
GTAI:「日独産業フォーラム(JGIF)」は過去15年間にわたって開催され、日独両国間におけるアイデアの交換、イノベーションおよび投資を促進してきました。ドイツ貿易・投資振興機関(Germany Trade & Invest)の主要なイベントの一つであり、日本のビジネスリーダーを含む何百人もの参加者の方々に、ドイツが提供するビジネスチャンスをお伝えする素晴らしい機会であると評価をいただいています。
毎年異なる産業テーマに焦点を当てて開催されており、例えば昨年は「ヘルスケア産業における人工知能」、一昨年は「自動車の新未来(自動運転)」をテーマとしていました。また弊機関の日本におけるパートナーにとっても、ドイツ企業や市民に対し日本におけるビジネスチャンスを紹介する機会となっています。
― 今回は「SINTEG(シンテグ “Smart Energy Showcase – Digital Agenda for the Energy Transition”)プロジェクト」をすべてご紹介いただけるということですが、その概要をお願いします。
GTAI:SINTEG(シンテグ)とは“Showcases Intelligent Energy(インテリジェントなエネルギーのショーケース)”の略であり、ドイツの「エネルギー転換」の主要な推進力としてドイツ連邦経済エネルギー省が進める大規模プログラムです。デジタル化を促進することにより、ドイツにおいてより安全で経済的な再生可能エネルギー供給を推し進めていくことを目的としています。
SINTEG(シンテグ)は、5億ユーロ以上の予算ならびに、電力会社やグリッドオペレーター、産業、科学、政府、デジタルサービスなどから構成される300以上のパートナーを擁する、エネルギーの未来のための巨大な「生きた研究所」でもあります。
SINTEG(シンテグ)では、ドイツ全土において「ショーケース」と呼ばれる5つのモデル地域が展開されています。すなわち、ドイツ南部の「C/Sells」、西部の「DISIGNETZ」、北西部沿岸の「Enera」、北部の「NEW 4.0」および「WindNODE」です。
― 今回のフォーラムの見どころを教えてください。
GTAI:今年は、ドイツの「エネルギー転換」(=クリーンエネルギーへの移行)によって生み出される大規模な経済利益と、それに伴う日本企業のビジネスチャンスをご覧いただきたいと考えています。ドイツの「エネルギー転換」を代表する、産業界や政界、研究機関に属する日独両国の講師による講演が予定されており、ドイツ連邦経済エネルギー省のマルコ・ワンダーウィッツ政務次官や、ドイツ政府の気候変動政策のアドバイザーでもあるポツダム気候影響研究所のオットマー・エーデンホーファー所長の講演も含まれています。
ドイツが脱炭素社会の実現に向けて大きな飛躍を遂げるための、ドイツ連邦政府の新しい重要な柱「国家水素戦略」と、その具体的な「エネルギー転換のリビング・ラボ(ユーザーや市民参加型オープンイノベーションエコシステム)」助成プログラムの紹介もあります。また、オンラインでのイベントプラットフォーム上ではSINTEGプロジェクトの事業者やドイツ企業との交流・個別ミーティングの機会も提供されており、各ドイツ連邦州による「ミニメッセ」では各地の産業、クラスター、支援プログラムなどについて紹介します。
第16回日独産業フォーラム
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